サイクリスト・トレーニング・バイブル【立ち読み版】vol.1 心構え(コミットメント)1
第1章
■心構え(コミットメント)
12キロの登りに差しかかったとき、辺りを見回した。ウルリッヒ、パンターニ、ヴィランク、リース、エスカルティン、ヒメネス――総合順位で10位以内につけている選手ばかりだった。必死に食らいつきながら、私は初めて気づいた。自分がいま、そうそうたる顔ぶれのトップ選手と渡り合っていることに。(ボビー・ユーリッヒ:1997年のツール・ド・フランスで、ステージ優勝を争えるだけの選手になったと実感した瞬間を回想して)
「言うは易く、行うは難し」の名言にもあるように、レースが始まる前、大きな夢を抱き、目標を高く掲げることは簡単です。しかし、その決意(コミットメント)は、言葉ではなく行動によって試されます。シーズンの初レースが、勝負の始まりではありません。勝負は、すでに始まっているのです。大切なのは、今日一日、強く、速く、粘り強くなるために何をしたか、なのです。勝利のための本当の決意とは、レースのときだけでなく、365日、24時間、努力することなのです。ためしに、身近にいる優れた選手に、自転車に対する心構えや取り組み方について尋ねてみてください。謙遜する人もいるでしょうが、話を進めるうちに、彼らの生活のなかでいかにサイクリングが大きな位置を占めているかがわかるはずです。
優れた選手ほど、自転車中心の生活を送っています。毎日、トレーニングに合わせて他の予定を立てているのです。計画性のないトレーニングでよい成績を収めている選手は、まずいないと言っていいでしょう。
最高のパフォーマンスを得るためには、時期によって練習への情熱が変わるようでは不十分です。常に、練習を大切なものだと考えなくてはいけません。毎日をサイクリング中心に過ごし、そのために食べ、眠ることが必要なのです。
競技への取り組みが深まるほど、生活はトレーニングの基本的な3つの要素である、「食事」「睡眠」「練習」を軸に回り始めます。食事から得られる栄養はトレーニングに必要な燃料になり、消耗したエネルギーを回復させてくれます。睡眠と練習はどちらも脳下垂体から成長ホルモンの分泌を促すので、相乗的にフィットネス(トレーニングによって高まった身体のコンディション)を高められます。成長ホルモンは疲労の回復、筋肉の成長、体脂肪の分解を促進します。熱心な選手は1日に2回の練習をし、昼寝もします。これによって、成長ホルモンの分泌を促すチャンスが1日に4度得られ、フィットネスを短期間で高めやすくなるのです。
※この記事は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『THE CYCLIST'S TRAINING BIBLE 4TH EDITION』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版のランダム掲載分です。『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』は、わかりやすく最も信頼のおける自転車トレーニング教本として名高い世界的ベストセラーの日本語版です。■
著者紹介
ジョー・フリール
ジョー・フリールは、1980年から持久系アスリートを指導してきました。依頼者はアマチュアからプロのロードサイクリスト、マウンテンバイク選手、トライアスロン選手、デュアスロン選手、水泳選手、ランナーと多岐にわたります。米国内だけでなく海外の国内チャンピオン、世界選手権に出場するような一流選手、オリンピック選手など、世界中のアスリートが、フリールの指導を受けてきました。
本書以外にも、彼の著書には、『Cycling Past 50』、『Precision Heart Rate Training』(共著)、『The Triathlete’s Training Bible』『The Mountain Biker’s Training Bible』『Going Long: Training for Ironman-Distance Triathlons』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Total Heart Rate Training』『Your First Triathlon』などがあります。また、フリールは運動科学の修士号を取得しています。
『Velo News』『Inside Triathlon』などの雑誌のコラムニストとしても活躍し、海外の出版物やウェブ・サイトにも特集記事を寄稿。スポーツ・トレーニングの権威として、『ニューヨーク・タイムズ』『アウトサイド』『ロサンゼルス・タイムズ』などをはじめとする、大手出版社などのメディアからも頻繁にコメントを求められています。また、米国のオリンピック関連の各連盟にもアドバイスを提供しています。
フリールは、持久系のアスリートのトレーニングやレースについて、世界中でセミナーやキャンプを行い、フィットネス産業の諸企業へアドバイザーとしても活躍しています。彼は毎年、もっとも将来性の高い優れたコーチを複数名選び、一流のコーチの仲間入りができるよう、彼らの成長を見守っています。
訳者紹介
児島 修
1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。スポーツ、ビジネス、ITなどの分野で活躍中。訳書に『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)、『シークレット・レース』(小学館文庫)、『マーク・カヴェンディッシュ』(未知谷)などがある。