パワークランクの練習効果の研究事例
パワークランクは左右のペダルが独立して動く独特の機構をもつ、ペダリング・スキルの向上に効果的な機材といわれている。それではパワー・クランクで練習すると、実際にどのような効果があるのだろうか。今回は、『Cutting-Edge Cycling』を参考に、パワークランクの練習効果の興味深い研究事例を紹介する。
先にパワークランクの特徴をもう少し詳しく説明すると、左右のクランクアームが独立しており、根元に内蔵されたクラッチによって左右とも正回転方向に回した時にだけチェーンリングに出力が伝わる仕組みになっている。
普通のクランクは左右がつながっているので、片方のペダルを下に踏むと逆側のペダルが持ち上げられるので、引き足を意識しなくてもよい。しかしこのことが、踏み足が発揮するパワーのロスにつながっているとも考えられる(いわば片側の足でもう片方の足を持ち上げることになるが、このパワーは自転車の推進力にはつながらない)。逆に引き足を使うことができれば、このパワー・ロスを少なくすることができると考えられる。
パワークランクは左右のペダルが独立しているので、通常のクランクのように片方のペダルを下に踏んでも逆側のペダルは持ち上がらない。そこでスムーズにペダリングするためには否が応でも引き足を使わなければならないので、「引き足を意識した回すペダリング」の練習方法として有効だと考えられている。
片足ペダリングも同様の練習効果が期待できるが、欠点としては片足ずつしかトレーニングできない点だろう。しかしパワークランクを使えば、いわば「両足同時に片足ペダリングの練習ができる」というわけだ。
『Cutting-Edge Cycling 』では、パワークランクを使った練習がペダリング・ダイナミクスや筋肉の動員パターンにどのような影響を及ぼすかについての、興味深い研究結果が紹介されている。
パワークランクを使った練習の研究結果
2009年にフェルナンデス・パナらが行った実験では、パワークランクを使ったことのないベテラン・サイクリストが、2週間以上にわたり18時間・パワークランクを使ったトレーニングを行い、その前後にテストを実施した。またその後2週間ノーマル・クランクに戻して18時間トレーニングを行い、再度テストを実施した。
この結果、パワークランクを使ったトレーニングによって、アップストローク時にハムストリングの活性が増大し、ダウンストローク時に大腿四頭筋の活性が低下した。前脛骨筋については変化が見られなかった。この結果はペダリング・ダイナミクス改善の理論を裏付けるものだった。しかしこの筋肉の動員パターンの変化は、ノーマル・クランクを使った練習に戻した2週間後にはなくなった。
この研究結果やCYCLING TIME.comの記事から、パワークランクを使った練習には以下のような効果や注意点があると考えられる。
パワークランクを使った練習効果や注意点
■より多くの筋肉を使ったペダリング・スキルの習得が期待できる
パワークランクを使ったトレーニングによって、ハムストリングをより使えるようになり、大腿四頭筋の負荷を軽減するようなペダリングが習得できると考えられる。そのようなペダリング・スキルが身に付けば、ペダリング中に生じる疲労をより多くの筋肉に分散させる効果が期待できるだろう。
■身体が適応するまで長期間わたってパワークランクを使った練習を継続する必要がある
しかし、そのようなペダリング・スキルを自分のものとして完全に身に着けるためには、この実験のような2週間といった限られた時間では短すぎる可能性が高い。「引き足を使った回すペダリング」に身体が適応するまで、長期間にわたって継続的にパワークランクを使った練習を継続する必要があるといえるだろう。
■効率の改善は期待できないとの指摘がある
その他の注意点としては、パワークランクは「テストされたが効率向上が意味がないことがわかっている」(CYCLING TIME.com)という指摘がある点だ(ここでいう効率とは代謝効率*のことだと思われる)。代謝効率の改善効果を期待してパワークランクを導入するのは、得策ではないかも知れない。
*ある値の酸素消費量に対する出力の値
参考URL
- CyclingEX・『不思議なクランク「パワークランク」』→リンク
- 楽に速くなりたい・『PowerCranks(パワークランク)』・http://tetrascroll.blogspot.jp/2009/11/powercranks.html
- CYCLING TIME.com・『ペダリング技術の向上で実力は上がる?』・http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=18847
- 筋肉.guide・『前脛骨筋』・http://www.musculature.biz/40/44/post_197/
本件記事の参考文献
- Hunter Allen, Stephan S. Cheung, PhD共著・『Cutting-Edge Cycling 』・P186~187・HUMAN KINETICS