スピード・メーター、心拍計、パワー・メーターはいる?
トレーニングをする時は、何か指標(目安となる数字)があると、より練習に身が入りやすくなります。その際に、現在よく使われているのが「スピード・メーター(速度計)」「心拍計」「パワー・メーター」の3種類です。
スピード・メーターの歴史がいちばん古いですが、心拍計も20年以上幅広く使われてきた実績があります。パワー・メーターはこの10年間ほどで一気に普及してきた比較的新しい機材です。
「最近話題のパワー・メーターには興味があるけれど値段が高そうだし、そもそも初心者の自分に必要かわからない。」
「心拍計も、スピード・メーターよりは値が張るし本当に必要なんだろうか?」
「スピード・メーターもなくても大丈夫な気がするし…」
少なくとも数千円、高ければ十万円以上の買い物なだけに、買うべきか買わないべきか大いに迷うところだと思います。
初心者の間は、それまで鍛えていなかったのであれば「どんな練習をしても速くなる」可能性が高いといえます。その意味では、少し極論になるかも知れませんが「メーター類を何もつけなくても特に問題はない」と思います。
しかし「もっと速くなりたい」「次のレースで上位に食い込みたい」と思うのであれば、それぞれの特性をしっかり理解したうえで、導入を検討してもよいでしょう。今回はそれぞれのメーターの長所と短所を説明していきます。
スピード・メーター
今、走っている速度・走行距離・走行時間・現在の時刻などがわかるいちばん基本的なメーターです。
■長所 操作がシンプルで値段が安い
長所は、比較的シンプルで操作がわかりやすいことと、値段が安いことです(数千円程度で買えます)。
また1日の走行距離や練習を始めてからの走行距離がわかると、
「先週は100㎞走ったから、今週は120㎞に挑戦してみよう」
「先月は500㎞走ったから、今月は700㎞に挑戦してみよう」
といった具合に、もっと走るためのモチベーションをもちやすくなります。
他にも毎月の練習時間や練習距離がわかると、自分が目指しているレベルに対して練習量が十分かをチェックすることもできます。
■短所 練習負荷管理に難がある
短所は、速度には風などの空気抵抗の影響がひじょうに大きいので、練習負荷を最適に管理するというのにはやや難がある点です。例えばLSDをやろうと思っても、向かい風の場合時速10㎞/hしか出ていないのに、心拍数がひじょうに高くなってしまう場合もあるでしょうし、逆に追い風の場合は40㎞/hも出ているのに心拍数があまりにも低いといったこともありえます。
キャリアが長い人は、スピード・メーターなどなくても「このくらいで練習すれば効果が高い」と感覚的にわかっている場合が多いので、計器類を何もつけないという人もいるのも事実です。「自分はどちらかというととそちらのタイプになりたい」と思うのであれば、スピード・メーターがなくても問題ないでしょう。しかし「なるべく数字で適正な練習ができているかをチェックして効率的に練習したい」「毎月の走行距離の数字が伸びていくのを見るのがやる気につながる」という人であれば、スピード・メーターをつけるとロード・バイクに乗るのがもっと楽しくなると思います。
心拍計
心拍計は、心臓の1分間の拍動数を計測しリアルタイムで見れる機器のことで、最近ではスピード・メーターの機能などを備えた製品が主流になっています。
■長所 スピード・メーターより正確に運動負荷を管理できる
心拍数がわかるとどんなメリットがあるのでしょうか?
それは「運動負荷がスピード・メーターよりかなり正確にわかる」点です。
心臓は横になって安静にしている時に鼓動の回数がいちばん低く、立ち上がり、自転車に乗り、自転車をハードにこぎ・・・といった具合に運動負荷が上がればあがるほど速く鼓動するようになります(1分間の拍動数が増える)。
さきほどの例でいうと、向かい風で時速10㎞/hしか出ていなくても心拍数が150回/分にもなっていれば、
「今日のLSDの目標レベル120回/分を上回っている。もっとペースを落とさなくては」
と判断できます。
逆に追い風の中を時速40㎞/hで気分よく走っていても心拍数が90回/分まで落ちいていれば、
「LSDといってもさすがに低すぎる。せめて110回/分くらいまで上げよう」
とペース・アップすることもできます。
またロード・レーサーにとっていちばん大事な能力であるLT(長時間疲労せずに継続できる運動レベル)を上げるためには「メディオ」や「ソリア」を中心に練習するのが効果的ですが、これはせめて心拍計がないと正しく負荷管理するのは難しいでしょう。ある程度経験を積んでくると、心拍計がなくても「自分がどれだけきつく感じるか(主観的運動強度といいます)」を頼りに、ある程度適正な運動負荷管理ができるようになりますが、初心者のころはその「基準」がそもそもないので少し難しいと思います。
特にヒルクラムのような「有酸素運動のギリギリのペースで一定のペースで走る」能力を高めたいたのであれば、「メディオ」「ソリア」を中心に練習するのが効果的なので心拍計があるとかなり効率的な練習ができるでしょう。
またほとんどの製品は、心拍数のデータをパソコンにダウンロードして、後でグラフで見ることができるので、練習やレースを振り返るのにとても役立ちます。
例えば、
「ヒルクライムの後半、急失速してまったのは中盤で隣の人と張り合ってしまって心拍数が190回/分を超えるほど上げ過ぎてしまったのが原因だな。次回からは絶対175回/分以上にならないよう注意しよう」
と反省できる、といった具合です。
こういった長所があるので、初心者であっても「本気で速くなりたい」と思っている人であれば、ぜひ心拍計を導入することをお奨めします。心拍計を使ったトレーニングは、過去20年以上の実績があるので、様々な練習方法が雑誌はネット上で紹介されているので参考にされるとよいでしょう。
■短所 短時間・高強度の運動負荷は正確に計測できない・外部要因が大きく影響することがある
それでは、マイナス点はなんでしょうか?
それは10秒や40秒などといった短時間・高強度の運動負荷を正確に計測できない点です。なぜかというと、そのような短時間では運動強度に反応して実際に心臓の鼓動が急激に上がるまでかなりのタイムラグができてしまうからです。また心拍数は上限が比較的低い(せいぜい200回/分近辺)ので、例えば120回/分の時に120Wで走っていたとして、ペースを上げて300Wに上げても500Wに上げても、心拍数は200回/分を超えて上がることはまずありません。
また、心拍数は体調や気温といった外部要因にも大きく影響を受けます。体力を伸ばしていくのには適正な負荷を体にかけないといけませんが、心拍だけを頼りにしていると「心拍数は高いのにじつは体力を伸ばすのに必要なだけの負荷をかけられてないかった」ということが起こりえます。
パワー・メーター
パワー・メーターは、乗っている人が自転車を前に進めるために出した力をワット(W)という数字で表示してくれるものです。
■長所 ワットという絶対的な基準でかなり正確に練習強度を管理できる
このワットは体重やその他条件が同じであれば「高いワットを出せる人のほうが低ワットしか出せない人よりも必ず速く走れる」という性質があります。つまり心拍数とは違って外部環境に関係なく、乗っている人が出したパワーをワットという絶対的な基準で明らかにしてくれるのがパワー・メーターです。
同じ体重で、ある持続時間(例えば20分間)で出せるワットが増えていれば(例えば250W→300W)、その人は確実に速くなっているといえます。いわば自分の成長を数字ではっきり確かめられるわけで、これはかなり興奮すると思います(逆にワットが下がってくるとガッカリさせられますが・・・)。
また短時間であっても、乗っている人が出したパワーを正確にワットで把握できます。パワー・メーターがあれば、あらゆる時間帯でかなり正確に練習強度を管理できます。つまりより効果的・効率的に練習するのにかなり有効なのです(その分、練習はきつくなります)。
こういった性質から多くのトップ・プロがパワー・メーターを導入して練習やレースに活かしていますし、アマチュアのトップ~中級までの選手の間でも急速に普及してきています。
■短所 値段が高い
難点は値段です。
心拍計は1万円近い値段から手に入りますが、パワー・メーターはどんなに安くてもそれなりの信頼度があるものは数万円はします。本当に「レースで速くなりたい」という人が満足できるレベルのパワー・メーターの中心価格帯は10~20万円くらいであり、初心者の人が買うにはかなり大きな投資といえるでしょう。
パワー・メーターはもし買えるお金が潤沢にあるのであれば、買ってより効率的に練習するのもありだと思いますが、初心者の段階では「LSD」「メディオ」が練習の中心になるので、「高強度での練習でも負荷を正確にコントロールできる」といったパワー・メーターの長所はそれほど大きな意味がありません(逆にいえば心拍計でも十分役に立ちます)。そう考えるとパワー・メーターは、ある程度強くなって「脱初心者」「脱中級レベル」を目指したくなった時になってから買っても遅くはないと思います。