サイクリストとして知っておきたい、筋力トレーニングのメリット
■ウェイト・トレーニングによって遅筋が鍛えられると?
研究によれば、筋力がつくことでサイクリングの持久力に望ましい効果が見られますが、VO2maxは変わりません。一見、矛盾しているように思えるこの現象の理由として考えられるのは、ウェイト・トレーニングによって持久力に欠かせない筋肉である遅筋が鍛えられ、遅筋だけでペダリングに必要な力の労力の大半をまかなえるようになり、速筋の出番が減るというものです。速筋は疲労しやすいため、速筋を動員する必要が減ることは、持久力の向上につながります。
■ウェイト・トレーニングとLTの関係
メリーランド大学の研究によると、ウェイト・トレーニングで筋力が鍛えられるほど、LTも高くなります。LTは自転車レースでのパフォーマンスに大きく影響を及ぼす因子なので、これを上げられるのであれば、何であれそれは歓迎すべきものだといえます。数値の上昇が見られた理由として、選手がペダルを漕ぐのに速筋よりも遅筋を多く使っていたことが考えられます。速筋は大量の乳酸を生成するので、パワーを出す時はどの時点においても、速筋を使わない方が血中乳酸値は低くなり、結果として LTが高まります。
■サイクリングを始めたばかりの人の持久力を高める効果も
ウェイト・トレーニングによって、ひと踏みごとにペダルに加えられる力の総量も増加します。ケイデンスが同じ場合、力が大きくなればパワーも増加します。パワーが高くなれば、必ず走行速度も上がります。他の研究では、数週間にわたって脚の筋力強化プログラムに取り組んだ後、被験者の「疲労困憊するまでの時間」が長くなったことがわかりました。つまり、被験者は一定の強度で以前よりも長い距離を走れるようになったのです。持久力は、トレーニングの強度に応じて 10~33%の範囲で向上しました。ただし、これらの研究について留意すべきは、被験者のほとんどが本格的なサイクリストではなかった点です。被験者のほとんどは、中程度またはほとんどトレーニングをしていない大学生でした。このため、ウェイト・トレーニングはサイクリングを始めたばかりの人の持久力を高めるとはいえますが、それが本格的なトレーニングをしている選手にとっても同じであると結論づけるのは早計だと考えられます。
■怪我の予防
しかし、スピードや持久力の向上が期待できるからという理由だけで、筋力トレーニングをトレーニング・プログラムに組み込むわけではありません。筋力トレーニングには怪我の予防というメリットもあります。筋肉のいちばん弱いところは、腱との結合部分です。筋肉の断裂がもっとも起こりやすいのもこの部分です。筋力トレーニングでこの結合部分の耐久力を強化すれば、急加速やスプリントの時に急激に高いパワーを出しても、肉離れを起こしにくくなります。筋力トレーニングによって、筋肉のバランスの悪さを改善することもできます。選手によっては、上半身の筋肉が弱く下半身の筋肉が強いなど全体のバランスが悪い場合や、関節を挟んで反対に作用する筋群のバランスが悪い場合があります。こういったケースでは、筋力を鍛えることで、バランスの崩れが原因の故障リスクを軽減できます。
■まとめ
筋力を鍛えることで、それがもたらすメカニズムがどのようなものかに関わらず、サイクリストは能力を向上させやすくなります。ペダルを踏む力がわずか数%上がっただけでも、レースでの走りがどれほど楽になるか、想像できるのではないでしょうか。筋力トレーニングを取り入れることで、走行スピードが上がり、長いロード・レースを終えた後でも体力が残っていることを感じられるようになるでしょう。さらに、怪我の治療に時間をとられて貴重な練習日を無駄にすることや、ひどい場合はシーズンを棒に振るというような事態も避けやすくなります。<了>■
- 記事出典:ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)・P258~260の抜粋