元世界チャンピオン、ヨハン・ムセウの練習
ヨハン・ムセウは「フランドルのライオン」と呼ばれた1990年代から2000年代前半に活躍した当時最強のロード・レーサーの一人だ。彼は、何度も選手生命に関わるような深刻な怪我を負ったものの、そのたびに「段階的なトレーニング方法」「練習計画に対する信念」「練習時の集中力」によって見事に復活を果たし大活躍した。
ヨハン・ムセウの練習
■初めての海外レースでの惨めなスタート
しかし数々の栄光を手にしたムセウも、初めての海外でのレースでは散々な経験をした。トップからは30分遅れでなんとか単独でゴールまでたどりついたものの、寒さで感覚がなくなっており「自転車の上で泣いていた」という情報すらある。そんな惨めなスタートであったが、彼はレースを途中であきらめたりはしなかった。その後も、さまざまな障害がムセウの前に立ちはだかったが、そのたびに根気強くひとつひとつ乗り越えていった。
■4ヶ月間にも及ぶ単独練習
ムセウの練習で特徴的だったのは、4か月もの長期間にわたって単独で練習することだった。これは彼の練習目標の達成には集団でのトレーニングは不向きとの判断からだった。
ある練習では容赦なく吹きつける向かい風の中を、延々4時間もぶっ続けで走った。心拍数トレーニングを導入してからは、耐えがたいほどの長時間、繰り返し繰り返し自分を限界まで追い込んだ。ある練習では、1時間の最低走行距離を43㎞に固定し、体が「もっとゆっくり走れ」と悲鳴を上げるのを無視して走り続けた。
■常に目標を意識・綿密な練習計画・重点課題に集中したトレーニング
ムセウは、常に目標を意識し、ライバルやチームメイトを打ち負かすために、綿密に考え抜かれた練習計画にもとづいて、重点課題を集中的に、適切にトレーニングを実施した。
■ハードなトレーニング計画をこなせる強靭な体と強固な意志
ムセウのチームメイトは以下のようなコメントを残している。
「プロの中でも95%の選手は、ムセウと同じ練習をするのはムリだ。若い選手がムセウと一緒に練習しようとして四六時中べったり貼りついて練習したことがあったけど、案の定、体をこわした。ムセウには、かなりハードなトレーニング計画をこなせるだけの強靭な体と強固な意志があった。時々、近くに住んでいる選手と走る時もあったけど、たった2・3日だけでも連続して練習についていける選手はほとんどいなかったよ。ムセウはチームでかなり追い込んだ練習をした日でも、練習終了後に追加で30分余分に走っていた。彼にとって、その30分が精神的にとても重要だったのだろう」
■ホビー・レーサーが学ぶべきところ
このような超人的な練習をホビー・レーサーが単純に真似しようとしても無理だろう。それでもムセウの「いつも計画的に練習すること」「練習計画を信じること」「トレーニングやレースを通して段階的に能力を伸ばしていくこと」といった姿勢から学ぶべきところは多い。
参考文献
- Robert Panzera著・『Cycling FAST』・P87・Human Kinetics社