カーディアック・ドリフトのメカニズムと心拍トレーニング時の注意点
特に暑い時の練習やレース中には、同じパワーを維持しているにも関わらず心拍数がジワジワと上昇していく傾向が強くなる。これは「カーディアック(心臓の)・ドリフト」と呼ばれる現象で、主に体内の水分量が減少し「脱水状態」に陥ることによって起こる考えられている。今回は『The Time-Crunched Cyclist』などを参考に、カーディアック・ドリフトのメカニズムやそれを踏まえた心拍トレーニングの注意点を紹介する。
カーディアック・ドリフトのメカニズム
■皮膚への血流増加と発汗により体を冷やす
筋肉でパワーを生み出す時、エネルギーの75%程度は熱に変換される。そこで深部体温(体の中心部の体温)が過度に上昇しないように、熱を発散しなければならない。運動中、特に高強度で追い込んでいる時に、ラジエーターの役割を果たすのが皮膚だ。心臓は、筋肉に血液を通して酸素を送り届けるとともに、皮膚への血流を増やすことにより熱放射を促し、また汗の原料となる体液を送る。汗は、皮膚の表面に出て蒸発することで体を冷却する。
■発汗により血液量が減少すると心臓の負担が増す
汗は血液の一部(血漿)から作られるので、汗をかくほど体内の血液量が少なくなる。血液量が少なくなると血液の粘性が高くなると共に、静脈還流量が減少する。これらは心拍出量の減少につながることから、心臓は筋肉にこれまでと同じ量の酸素を送り続けるためには、より速く鼓動しなければならなくなる。結果として、同じレベルの運動を維持していたとしても、時間の経過とともに(発汗による体内の水分量の低下と共に)心拍数は徐々に上がっていく。
心拍トレーニングとカーディアック・ドリフト
■心拍数を一定に維持しているとパワーはじりじり低下する
心拍メーターだけを頼りにトレーニングしている場合は、特に夏の暑い時期にはカーディアック・ドリフトの影響が大きくなる可能性が高いので注意が必要だ。というのも練習中にある一定の心拍数を維持していても、実際はインターバルの開始当初と比べるとかなりパワーが低下している可能性が高く、またインターバルが長くなればなるほどその傾向が強くなるからだ。また、1本目よりも2本目、2本目よりも3本目のほうが、同じ心拍数で取り組んだとしても実際に出ている平均パワーが低くなる可能性が高い。結果として、「練習の質」という観点からみると、同じ時間練習しても最大限の効果を引き出せないかも知れない。
■十分な水分補給によりカーディアック・ドリフトの影響を少なくできる
それでは、カーディアック・ドリフトが起こるのを防ぐ方法はあるのだろうか。
残念ながら、どのような手段を使っても高強度の持久的運動の間には、ある程度カーディアック・ドリフトの影響を受けるのは避けられないだろう。しかし水分補給が十分で、体内の水分量が維持できていれば、カーディアック・ドリフトの影響は少なくなる。そこで、練習中にはこまめに水やスポーツ・ドリンクを口にし発汗によって失われる体内の水分量を補うことがひじょうに重要になる。また練習前にも十分水分をとっておくことも有効だろう。
参考URL
- About.com・『Cardiac Drift』・http://walking.about.com/od/trainer/g/cardiacdrift.htm
- WIKIPEDIA・『Cardiovascular drift』・http://en.wikipedia.org/wiki/Cardiovascular_drift
参考文献
- Chris Carmichael AND Jim Rutberg共著・『The Time-Crunched Cyclist』・P69~70・Velopress
- Edmund R. Burke, PhD著・『SERIOUS CYCLING Second Edition』・P144~145・HUMAN KINETICS
- ギャレット/カーケンダル編, 宮永豊総監訳・『スポーツ運動科学』・P328~332・西村書店