■■早瀬美希のカナダBCBRパワートレーニングレポート 第1回パワープロフィールテスト■■

【わかる パワートレーニング!】【プロ選手のパワー情報】【初心者のためのヒント】【速くなるためのヒント一覧】2013年6月14日 22:50

パワータップの本邦正規輸入代理店であるキルシュベルク・インク寄稿による「早瀬美希のカナダBCBRパワートレーニングレポート 第1回パワープロフィールテスト」です。オリジナル記事はこちら

 

早瀬美希のカナダBCバイクレース挑戦: パワートレーニングレポート1

平日は遅くまで会社勤務、週末は西多摩マウンテンバイク友の会の活動でトレイルや公園整備に励むことも多い早瀬さん。今年6月にカナダで開催されるMTBステージレース、BCバイクレース(BCBR)参戦へ向け、2月からパワータップを導入し、パワートレーニングを行っています。

数年前の学生時代にはJシリーズのエリートクラスで走っていたこともある彼女ですが、卒業後に就職してからはバイクに乗る回数も時間もめっきり減ってしまい、今の体力は「普通の女性と変わらないレベル」(本人談)だそう。その過酷さに世界のプロも手を焼くBCBRをそんな「普通の」女性が完走できるようになるまでを追うこのレポートは、多くのパワーメーターユーザーにとっても大いに参考にしていただけると思います。

体力テスト手法やトレーニングメニューの内容は行う個人の体力・スキルに合わせて決定する必要があります。当レポート内で紹介されている内容はあくまでも目安としてご活用ください。また、トレーニングやレース前には入念にウォームアップを行うようにしてください。

 

■コーチ: 池田祐樹(Topeak Ergon Racing Team)

  • 2012年セルフディスカバリーアドベンチャーin王滝100kmおよび120kmチャンピオン
  • アメリカ自転車連盟(USAC)認定コーチ レベル2
  • アメリカ自転車連盟(USAC)認定パワーベーストレーニングコーチ

 

■トレーニー: 早瀬美希(ナカザワジム)

  • 包装資材メーカー営業
  • 競泳歴10年、陸上(やり投げ)3年、MTB 6年という運動型女子。
  • なかでも水泳は埼玉県の、MTBはJMAの普及指導員の資格を持つほど。
  • ここ数年は多忙でバイクに乗れず、BCBRに向けて体力向上が急務。

 

パワータップの用意はできましたが、まず何をすればいいんでしょう?
というか、なぜパワータップが必要なんですか?

パワータップを使えば、現時点の自分の強いところ、弱い部分をハッキリさせることができるんです。
長所を伸ばし、弱点を補う。勉強でも運動でもこれが基本ですよね。

確かに。

パワーメーターのように現在の体力レベルを仔細に、そして正確に示してくれるものをがあれば、鍛えたいところを ピンポイントで鍛えることができるので、結果、とても効率良く総合能力をアップさせることができるんですよ。

ということは、まず今の自分の能力を測定するところから始めるわけですね?

そうです。パワータップを手に入れたら最初に『パワープロファイルテスト』を行いましょう。 今の自分の力、より詳しく言うと『パワー特性』を把握するために大事なテストです。

 

■ パワープロファイルテスト

レースの強度指標の基本になる5秒、1分、5分、20分という4つのゾーン毎の最大平均ワットを記録してもらいます。最大平均ワットを体重で割り、プロファイリングチャートを参照にして相対的に数値分析すれば、現在の能力、長所と短所がハッキリします。それぞれのゾーンの数値で以下のことが分かります。

 

各ゾーンの数値で分かることを、簡単にまとめると下表のとおりとなります。

現時点(2013年2月現在)での早瀬さんの能力はどれくらいでしょうね。
テストは途中で停まったりせずに済むよう、信号がなく交通も少ないところで行うといいです。

走りに行く時によく利用する交通量の少ない登りルートがあるので、そこでやってみます。

いいですね。テストは定期的に繰り返し行いますが、次回以降のテストもそのコースで行いましょうか。
テストを繰り返す理由は、トレーニングによってパフォーマンスが改善されているかどうか分析するためです。 なので…。

毎回同じテスト条件にしないと分析がしづらくなっちゃうということですね。

その通り。さらに言えば、テストを行う時間帯や食事のタイミングなど、同じ条件に揃えられるところはなるべく 揃えたほうがいいですね。ベストな結果を出すためにもしっかりと身体を休め、レースと同じ意識で臨みましょう。

わかりました。さて、気になるテストメニューですが…。

これをやっていただきます。

あの…相当ハードそうなんですけど…(汗)。

自分のMAXの能力を出し切らないと、これから行うトレーニングの根拠となるデータが取れませんから。
くれぐれも事故には気をつけて。Joule GPSにインターバルを設定しておくと便利ですよ。

やってみます(泣)。

 

■現在の早瀬さんのテスト結果

なんとか無事にテストを終えました…。このような結果ですが、どんなものでしょう?

お疲れ様。とりあえずこの数値をパワープロフィールチャートに照らし合わせてみましょう。
チャートは『じてトレ』からエクセル形式でダウンロードできます。

私の場合は『パワー・プロフィール一覧表・女性』というのをダウンロードすればいいんですね。

そうですね。エクセルのチャートが開いたら、上部のオレンジ色のセルに体重を入力してください。

えー(汗)。ちょっと入力するんで、あっち向いててください。えーと、○○キロ…と。

はい、ありがとうございます。これでチャートの数字が体重60kgの人に合わせた数字になったと思います。

ちょ…!口に出して言うの、やめてもらえますか(怒)。

失礼、つい(汗)。では各タイムゾーン毎に自分の出したワットをチャート上で探して印をつけてください。
これで各ゾーンでの体力レベルが分かりますからね。

チャートの一番右列の『FTP』っていうのは何ですか?

FTPとは機能的作業閾値パワーです。

日本語でお願いします。

何やら難しそうな言葉ですが、つまりは1時間のあいだ維持させることができる平均パワーのことです。
もっと分かりやすく言えば、1時間走ってゴールしたその場でぶっ倒れてしまうくらい力を出し切った時、 サイクルコンピューターに表示されている平均パワーです。

…重要…なんですよね?FTP。

とても重要です。なぜかというと、疲労のもとである乳酸という物質が体内で処理しきれなくなる ボーダー値がFTPなんです。FTPを超えるパワーを出すと乳酸が溜まり出します。そうすると急激に 疲労し始め、パフォーマンスはガクンと落ちてしまいます。

逆に言えば、FTPを超えないギリギリのパワーで走っていさえすれば、1時間は自分のベストの走りができる ということですか?

そういうことです。FTPはレースでのベースペース、持久力の指標となる非常に大事なデータなんです。
FTPを計測する際、実際に60分もの間、能力の限界付近でペダルを回し続けるのは過酷なので、 多くの場合、20分間の全力走行の平均パワーから5%マイナスした数値をFTPとしています。

ではこんなカンジですか。
ところで5秒と1分は該当する数字がチャートにないんですけど…?まさかのチャート外?

ですね。早瀬さんはダッシュ系が苦手みたいですね。

うぅ…言われてみれば。確かにダッシュするような走りをしたことがなく、ダッシュの仕方が よくわかってないかも。立ちこぎ、無駄が多い気がしますもの。

でも5分の数値はとても良いですね。これは最大酸素摂取量、いわゆるVO2マックスと言われるゾーンです。 レース中だと数分かかる登りやアタックをかけた直後の逃げなどでこのVO2マックスの強さが問われます。 レース中の勝負どころでは欠かせない能力です。
BCBRでもこのような場面がたくさんあると思うのでこの長所は どんどん伸ばしていきましょう!

分かりました。

20分、FTPも比較的高い数値を出していて、早瀬さんは持久力が強いことが伺えます。
言うまでもないですが、エンデュランス系のレースでは大事な部分です。

BCBRに向けてのスタートとしてはちょっとホッとしました。

しかし、5秒、1分など乳酸閾値(LT≒FTP)以上の強度になるとパワーが下がる傾向にあります。

瞬発力のなさすぎにちょっとショックです…(泣)。

初めてのパワーテストということで、時間内にペースの乱れがあったことも影響していると思います。 まあペース配分は経験や慣れが必要なので、今後トレーニングとテストを重ねることで改善されるでしょう。
さて、これによって各タイムゾーンでの早瀬さんの評価はこのようになります。

20分、FTPは『まずまずカテゴリー』で評価3!やった!ところでこのパワー・ウェイト・レシオってなんですか?

それは早瀬さんが出したワットを早瀬さんの体重で割ったものです。たとえば5秒だと、361wを体重ろくじゅ…

口に出さなくていいですから!
つまり体重1kgあたりのワットがパワー・ウェイト・レシオということですね? でもどうして体重1kgあたりの出力を計算する必要があるんですか?

一般的に、体重の重い人のほうが軽い人よりも大きなパワーを出せるんです。
でも体重の重い人が乗ったバイクを前に進めようとすると、より大きな力が必要になりますよね。

ふたりとも500wを出したからといって、ふたりが同じ能力とはならないわけですか?

そのとおり。体重1kg当たりのパワーで比較しないと、正確な比較になりません。世界のトップスプリンターは 体格が良く、瞬間的に1,800w近く出せる選手もいますが、細身のクライマーだと出せて1,100~1,200wくらい でしょう。でもその最大出力をそれぞれの体重で割って、1kg当たりの数値で比較すると、クライマーのほうが より高い出力を出せていたりするんです。

ナルホドですね。

 

■気になってたアノこと: 世界のプロの最大パワーってどれくらい?

パワータップで自分が出せる最大ワットを知ると、「じゃあプロはどれくらい出せるの?」となるのがサイクリストの性。世界のトッププロは瞬間的に一体何ワットを放つものなのでしょうか? 現役最強ロードスプリンターと言えば、誰もが口を揃えて名を挙げるであろうマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)。2012年に行われた公開ライブチャットでは「僕のキャリアの中では、1,590wを2回を出したことがあるよ」と発言。

『カヴ』のライバルとして思い浮かぶのは、見るからにパワーの塊、『ゴリラ』ことアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)。2012年ツール・ド・フランスで彼が獲った第4ステージのデータによると、ゴール前スプリントで1,566wを記録しています。ステージレースの4日目、しかもこの日は5時間超を走った果てのゴールでの数値ということで、生涯最大パワー値は(根拠はないながら)これよりも10%は高い可能性があります。

そして超S級の競輪選手の最大パワーは1,700~1,800wとのウワサ…。さらにスピードスケートのアルベールビル・オリンピック銀メダリスト、K選手に至っては、2,000~2,100wあったという、これもウワサ。 情報協力: じてトレ

 

さて、今回のテスト結果で弱点と長所が顕著に出ましたね。これをもとに弱点強化メニューを組んでいきます。 トレーニングゾーン設定によりトレーニング中の追い込みと回復の強度設定も正確なものなりました。

よろしくお願いしますm(_ _)m

今回のゴールはヒルクライムや平地タイムトライアルなどの限定された能力を鍛えるものではなく、 全ての要素が試されるMTBレース、しかも7日間に渡るステージレースを最後まで走り抜く体力と技術を つけることです。なので全てのゾーンをくまなく伸ばすことが課題となります。

オールラウンダーになれ、と?

そう。そのためにはきつく苦手な高強度トレーニングが増えますが、やるべきことは明確にあるわけですから、モチベーションを高く持って頑張っていきましょう!

コーチ!これからもご指導、宜しくお願いします!

 

■ 池田コーチの総括

マウンテンバイクでは激しい路面変化に応じて瞬発的に出す最大パワーが必要不可欠。全てのゾーン・要素でバランスよくパワーを発揮することがマウンテンバイクでは重要です。特にBCバイクレースでは長い登り、短い登り、斜度も緩いものから30%におよぶ激坂もあります。レースでの持久ベースとなるFTPをしっかりと鍛えつつ、弱点である5分、1分、5秒と順にバランスよくパワーアップさせることが早瀬さんの当面の課題となります。

今後は隔月ペースでテストを行い、各ゾーンが改善されているかどうかをチェックしていきましょう。

弱点を発見するということは明確な目標ができるということ。そして時間のない早瀬さんのための、パワーを指標にしたムダの少ないトレーングメニューを作成できること。これらはまさにパワータップがあってこそ可能です。パワータップでトレーニングをしっかり管理していけば、必ずBCバイクレースを完走することができると確信しています。

最後に、今回のテスト結果からは『パワーゾーン』と『心拍ゾーン』も算出できます(結果は下表)。これでこれからのトレーニングの強度指標がハッキリし、追い込み強度と回復の管理も可能になります。

 

■早瀬さんのパワーおよび心拍ゾーン  ※早瀬さんのFTP171をもとに算出したものです。

上記ゾーンの算出はパワー・トレーニング・ゾーン計算ツールを使用しました。

 

■パワープロファイルテストについて

メニューにも注意書きが書いてあるように、パワープロファイルテストでは、5秒、1分、5分、FTPの各時間内でバランス良くパワーを出し、時間の終わりには上手い具合にパワーを出し切っているように行うのがベストです。例えば5分全力疾走メニューで、最初の2分に飛ばし過ぎて、あとの3分は完全に足がなくなってしまった…なんてことになれば、信憑性のあるデータは取れません。力を温存し過ぎて、5分終わった時にはまだまだ元気だった…というパターンもダメ。

今回が早瀬さんの初めてのパワーテストということで、ペースに乱れがあったのは仕方ありません。最初から最後までイーブンにペダルを回し、かつ最後には全て出し切ることができるようになるには経験と慣れが必要です。今後、トレーニングやテストを重ねることで、時間に対するペース配分を身に付けていくことができるはずです。

早瀬さんにはこのパワープロファイルテストを隔月で行ってもらいます。次は4月中旬に実施です。

 

使用機材(価格はすべて税込)

■ホイール:PowerTap G3搭載アルミホイールセット

最新パワータップモデル、G3が32組のWheelsmith製ダブルバテッドスポークとブラス製ニップルによってHayes製箱型断面リムに組み込まれたトレーニングホイール。トッププロのハードな使用にも耐え抜く高い剛性を誇る。

  • 品名:サイクルオプス・アルミホイール with PowerTap G3
  • 標準価格:158,000円(リア)/35,000円(フロント)

 

■サイクルコンピューター:ジュールGPS

世界でただひとつ、パワートレーニング用に開発されたサイクルコンピューター、『ジュール』の最上位モデル。豊富なデータ表示やトレーニング補助機能に加え、GPSや気圧高度計、磁気コンパスなど本格仕様の計器を備える。

  • 品名:サイクルオプス・Joule GPSサイクリングコンピューター
  • 標準価格:30,000円

 

■心拍/パワー計:パワーキャル

心拍からパワーを算出する世界初の心拍ストラップ。実測式パワーメーターの約1/10の価格ながら、精度の高いデータ収集が可能で、発売から半年で国内累計1,500本を売り上げ、ブログなどでも取り上げられることの多い人気製品。

  • 品名:サイクルオプス・パワーキャル
  • 標準価格:12,000円

 

■商品に関する問い合わせ先:キルシュベルク・インク