■■インタビュー:Team UKYOのパワートレーニング(4) 土井雪広選手 vol.3 「パワートレーニングを行うホビーレーサーへのアドバイス」■■
Team UKYOインタビュー第4弾: 土井雪広選手 vol.3 「パワートレーニングを行うホビーレーサーへのアドバイス」
インタビュー日: 2013年4月20日(土) Text & Photo by キルシュベルク・インク
(上)パワーを見ながらレース前のウォームアップを行う土井選手。
創設2年目となる今シーズン、『パワータップ』をトレーニング機材として導入し、JPTで「台風の目」的存在感を示しているUCIコンチネンタルチーム、Team UKYO。
4月20日のJPT第2戦、南紀白浜チームTT後に、チームのエースであり昨年の全日本チャンピオンである土井雪広選手に、アルゴス・シマノからTeam UKYOへの移籍の舞台裏から現在のパワートレーニング、そしてヨーロッパで成功する秘訣などを伺いました(3部構成のインタビューの第3回目です。第1回目はこちら。第2回目はこちら)。
■海外選手との会話は何語?
キルシュ
昨年までずっと世界のトップカテゴリーで走ってきて、今シーズンから国内で走るようになったわけですが、アジャストするのに苦労はありますか?
土井
レースが少ないとか、難しい部分はありますね。こないだのヒルクライム(Jプロツアー開幕戦の伊吹山ヒルクライム)でも全然ダメでしたしね。
キルシュ
そのレースでいきなり勝った新加入のホセ・トリビオ選手はどうですか?見てると仲良さそうですね。
土井
そうですね。全然話通じないですけど(笑)。彼はスペイン語しか喋れないし、僕は英語とドイツ語だし。
キルシュ
あれ?ダッチ(オランダ語)は?
土井
喋れないです。オランダ人キライだから(笑)全然喋んなかった。アルゴスシマノ内は英語だし。
ドイツ語が喋れるのは、僕の住んでたところがほぼドイツ語圏で、チームにもドイツ人選手がいっぱいいたんですよ。(マルセル・)キッテルとかジョン(・デゲンコルブ)とか。
■Team UKYOでのパワートレーニング
キルシュ
Team UKYOに戻りますが、パワータップ導入前のチームのトレーニング方法はどのようなものだったんでしょうか?
土井
合宿の時は僕がチームみんな分のプログラムを決めて、やってもらってましたね。みんな、すげーツラかったと思いますよ。でも「パワーメーター使ってたら、もっと正確に追い込まないといけなくなるわけだから、もっとツライよ」って。
キルシュ
ごまかしがきかないですからね。
土井
逆にだからこそ、「パワータップ使おうよ」っていう流れになって。「買える人は買ってね」とか言ってたところに、ちょうど今回のパワータップ機材サポートの話が舞い込んできて。で、僕からもチームにすごくプッシュしてたんですよ。
実際に機材が届いて、TOJに向けての準備がスピードアップしてますが、今年のTOJはレベルが高いですね。ランプレとか…もうレベル違いますからね(苦笑)。
キルシュ
先ほど言われた今年の目標であるUCIポイント獲得も容易ではないと?
土井
でも上手いことやりますよ(笑)。いかに賢く走るかを考えてます。ぶっちゃけ、ヨーロッパではチーム内でも上手く立ち回る政治センスがないとダメなんですよ。グランツールの出場権を巡るチーム内での競争の時なんかもそうですけど、「このレースで結果出さないと選んでもらえない!」っていう正念場では、それはもう時にチームにウソついてでも(笑)、味方を出し抜いてでも、なりふり構わない図々しさがないと自分が損しますから。
カメラが回ってるところではちゃっかり前に出て走ったり、「今回はアイツがスプリントするから」って言われて「分かった、じゃあサポートするよ」とか言いながら、自分はゴール前の逆ラインでもがいたりとか(笑)。単純に「チームメートは仲良し」って思ってると、いつまでもババを引くだけで終わるんで、特に日本人が向こうに渡るなら、そこに気付かないとダメですね。
キルシュ
チームでの今のパワートレーニングはどういった具合に行っているんでしょうか?
土井
僕がチームメート用のメニューを作って渡してます。当たり前ですが、各選手ごとに異なるメニューです。TTが速くなりたい選手には、そのためのトレーニングメニュー、といった具合に。
パワーメーターを使ってると、トレーニングで目標とするワットがちゃんと明確にあるわけなので、手を抜けない反面、ラクな側面もあります。
■「ロードレースでは強い選手が必ず勝つわけじゃない」
(上)チームメートの大久保選手を従え、TOJ最終ステージのスタートを切る土井選手。
キルシュ
ロードレースってレース展開というものがあるので、自分の最大パワーが分かっていて、そのパワーが出せれば勝てるっていうものじゃないですよね。
土井
そうですね。サイモン・ゲランス(オリカ・グリーンエッジ)がVelo Magazineのインタビューで言ったのが、僕も同じことを思ってたんですけど、「ロードレースでは強い選手が必ず勝つわけじゃない」ということなんですよ。
キルシュ
「強い」というのは「パワーを出せる」ということですね?
土井
そうです。例として、日本人でもTTは速いけど、ロードレースでは勝てない選手がいる。彼はワットで言うとすごく出せるし、練習で一緒に走ってもすごく強いし。ただ、やっぱりレースっていうのはホントに水ものなんで。その時に行けば勝てたかもしんないし、待って後から行ったら勝ってたかもしんないし。
大きなパワーを出せるようになっても、そこから僕やフミやユキヤがヨーロッパで苦しんできた道のりを歩まないといけないんですよ。
キルシュ
そこでレースでの走り方のセンスを磨くと。
■TTとパワーメーター
キルシュ
一方でTTは基本一定ペースでいかに自分の持ってる力を出し切るかですから、自分の能力のデータを最大限に生かすことができますね。
土井
それは間違いないと思います。TTだとパワーメーターの効果がダイレクトに得られますからね。今後、トライアスロンのほうでもユーザーが増えるんじゃないですか。
キルシュ
パワーメーターのメリットを理解してもらえれば、特にトライアスリートには大きく支持されると思います。
■マウンテンの経験はロードに生きる
キルシュ
話は変わりますが、土井さんはもともとマウンテンだったんですよね。
土井
もともとアルペンスキーやってて、それのオフトレっていうほどのものじゃないけど、マウンテンでトレイルに入って、マウンテンのレースにも出たりしてました。ロードは小5からですね。
キルシュ
別府選手も、エヴァンス(BMCレーシング)やサガン(キャノンデール・プロサイクリング)らもマウンテンからロードへの転向組ですが、マウンテンの経験ってロードに生きていると思いますか?
土井
もちろん、それは。全然違いますよね、マウンテンやってたら。バランス感覚とか大事なものを養えるし。
サガンとかエグイっすよ(笑)。「バカじゃないの!?」ってくらい下りも早いですしね。ま、マウンテンに関しては一概に「やりなさい」ってのがいいとは言わないですけど、やってたらいろいろとメリットはあると思います。僕なんか遊びで去年からシクロクロスやったりしてるけど、フィジカルを鍛えられるのは当然、滑った時とかの瞬時の判断とかはロードで役に立つシチュエーションもあるから。
キルシュ
いろんなことをやるって大事ということですね。
土井
生粋のロード乗りって運動神経が超悪いですからね(笑)。他のこともやって、色んなところを磨いていくっていうのは凄く大切。僕、卓球もやってたことがあって、市を勝ち抜いて県大会へも行ったくらい動体視力すごくあるんですけど、それだって今の僕の大事なスキルです。
キルシュ
へえ~。それはみんな知らない意外な才能があったんですね。
■ヨーロッパには優秀なトレーナーがゴロゴロいる
土井
ヨーロッパではアマチュアサイクリストへのパワーメーターの浸透具合ってどうなんでしょう?
使っている人多いですよ。向こうって優秀なトレーナーがゴロゴロ存在してて、若いジュニアとか高校生とかも、まあ親の金かもしれないけど…彼らを雇える環境っていうのが整ってる。だからパワーメーターを買うメリットっていうのはあるわけですよ。
キルシュ
そういった点は日本はまだまだこれからですね。
土井
どこかの大学の自転車部が運動生理学研究の一環で取り入れてたりとかはあるかもしれないけど、それは一般ユーザーに今すぐに恩恵を与えてくれるものではないので。パワーメーターを役立てるノウハウを得られる環境がしっかり整っていけば、たとえばサラリーマンで乗鞍でタイム出そうと思っている人なんかも「じゃあパワーメーター買おうか」ってなるだろうし。
一昔前だったら心拍計が流行った時もそうでしたけど、今中さんとか竹谷さんとかが心拍を使ったトレーニングのやり方っていうのをレクチャーして、それで心拍計が流行ったわけでしょ。
キルシュ
運動生理学の勉強や研究を経た方がサイクリスト対象のパーソナルコーチングサービスを提供するケースも出始めてきています。
土井
そういうサービスが増えて、どれだけ身近になるかが重要ですね。身近になればなるほど、もっとパワーメーターの価値を感じてもらえるはずです。
問題は、トレーニング・プログラミングを研究しているドクターであったり、専門学校で勉強しているトレーナー予備軍たちの興味をそそるネタが自転車には見つけづらいことですね。
■パワートレーニングを行うホビーレーサーへのアドバイス
キルシュ
そういう状況でも、ホビーレーサーでパワーメーターが欲しいという人たちは非常に多いですが、そういった方たちに土井さんがアドバイスを送るとすると?
土井
何の趣味でも同じですけど、たとえばガーデニングだったら、芝敷く時にはちゃんと砂を敷いて砂利を起こして…とかノウハウがないとできないじゃないですか。パワートレーニングでも『TRAINING AND RACING WITH A Power Meter(日本語訳本:パワー・トレーニング・バイブル)』とか、そういうものをしっかり読んでやってほしいなと思いますね。パワーメーターは必ず自分のためになる機材だけど、「ただ持ってる」っていうだけだったらあまり意味がないシロモノだし。実際、パワーメーターのオーナーの多くは払ったお金分の活用ができてないでしょ。
キルシュ
販売する側もどうやって活用していったらいいかっていうのをどんどん発信して、ユーザーエデュケーションに努めないといけないと思います。
土井
ユーザー自身も積極的に知識をつけないと。パワートレーニングをしてる選手のブログを読むのでもいいし。ヨーロッパの選手でも自分の練習プログラムについて書いたり、Cycling News(http://www.cyclingnews.com/)でもデータがいっぱい載ってたりするから、そういうのを活用してどんどん吸収していってほしいなと思いますね。今はインターネットがあれば得られる情報はたくさんありますよ。
キルシュ
先ほどヨーロッパではジュニア世代もトレーナーを雇ってパワートレーニングをしているというお話でしたが、世界ではパワートレーニングがそれだけスタンダードになっている現在、日本でも高校からパワートレーニングに馴染んでもらうというのは重要なことだと思いますし、高校の自転車部を対象とした機材サポートプログラムの検討もしているんですが。
土井
サポートして強くなって欲しいという思いはもちろん分かるんですが、逆に高校生のうちから機材などの環境が豊かになり過ぎると、向上心の芽を摘んでしまう危険性があるんじゃないかと思います。
今のジュニアの成績って僕らの頃とあんまり変わってないですから。でも機材は当時より遥かに優れたものを使ってたりするのを見ると、機材うんぬん以前のそもそもの選手としてのハングリーさが育ちにくくなってるんじゃないかって思いますね。レースで結果が出ないと、「ホイールのチョイスが悪かったんかな」とか、とりあえず機材に原因を求めるような思考が蔓延してる気がするんですよ。僕らの時はダメなものはダメで、そんな逃げ道はなかった。
キルシュ
ゆとりのちょっと上の世代で良かったと。
土井
そうですね(笑)。自らの力でプロまで登ってきて、やっとスポンサーがついて最新機材を使わせてもらえる。そういう環境も大事だと思うんですよね。
キルシュ
話は変わりますが、ブログでガーデニングについて書かれているエントリを見かけましたし、先ほども芝を敷く時に砂利がどうのというお話がありましたが、そっちのほうの経験が?
土井
オランダでガーデニングやってたんですよ。住んでた家の庭が100坪くらいあったんで。プールがあったり。一日やったら腕パンパンですよ(笑)。■
Team UKYOが使用するサイクルオプス製品(価格はすべて税込)
■ホイール:PowerTap G3搭載アルミホイールセット
最新パワータップモデル、G3が32組のWheelsmith製ダブルバテッドスポークとブラス製ニップルによってHayes製箱型断面リムに組み込まれたトレーニングホイール。トッププロのハードな使用にも耐え抜く高い剛性を誇る。
- 品名:サイクルオプス・アルミホイール with PowerTap G3
- 標準価格:158,000円(リア)/35,000円(フロント)
■心拍/パワー計:パワーキャル
心拍からパワーを算出する世界初の心拍ストラップ。実測式パワーメーターの約1/10の価格ながら、精度の高いデータ収集が可能で、発売から半年で国内累計1,500本を売り上げ、ブログなどでも取り上げられることの多い人気製品。
- 品名:サイクルオプス・パワーキャル
- 標準価格:12,000円
■サイクルコンピューター:ジュールGPS
世界でただひとつ、パワートレーニング用に開発されたサイクルコンピューター、『ジュール』の最上位モデル。豊富なデータ表示やトレーニング補助機能に加え、GPSや気圧高度計、磁気コンパスなど本格仕様の計器を備える。
- 品名:サイクルオプス・Joule GPSサイクリングコンピューター
- 標準価格:30,000円
■商品に関する問い合わせ先:キルシュベルク・インク
- URL:www.kirschberg.jp
- Facebook:www.facebook.com/kirschberg.inc