■■早瀬美希のカナダBCBRパワートレーニングレポート 第2回:2月~4月の具体的なトレーニングメニューとTSS(トレーニング・ストレス・スコア)についての説明■■

【わかる パワートレーニング!】【初心者のためのヒント】【速くなるためのヒント一覧】2013年8月3日 10:05

パワータップの本邦正規輸入代理店であるキルシュベルク・インク寄稿による「早瀬美希のカナダBCBRパワートレーニングレポート 第2回:2月~4月の具体的なメニューとTSS(トレーニング・ストレス・スコア)についての説明」です。オリジナル記事はこちら

 

早瀬美希のカナダBCバイクレース挑戦: パワートレーニングレポート2

平日は遅くまで会社勤務、週末は西多摩マウンテンバイク友の会の活動でトレイルや公園整備に励むことも多い早瀬さん。今年6月にカナダで開催されるMTBステージレース、BCバイクレース(BCBR)参戦へ向け、2月からパワータップを導入し、パワートレーニングを行っています。

数年前の学生時代にはJシリーズのエリートクラスで走っていたこともある彼女ですが、卒業後に就職してからはバイクに乗る回数も時間もめっきり減ってしまい、今の体力は「普通の女性と変わらないレベル」(本人談)だそう。その過酷さに世界のプロも手を焼くBCBRをそんな「普通の」女性が完走できるようになるまでを追うこのレポートは、多くのパワーメーターユーザーにとっても大いに参考にしていただけると思います。

体力テスト手法やトレーニングメニューの内容は行う個人の体力・スキルに合わせて決定する必要があります。当レポート内で紹介されている内容はあくまでも目安としてご活用ください。また、トレーニングやレース前には入念にウォームアップを行うようにしてください。

 

■コーチ: 池田祐樹(Topeak Ergon Racing Team)

  • 2012年セルフディスカバリーアドベンチャーin王滝100kmおよび120kmチャンピオン
  • アメリカ自転車連盟(USAC)認定コーチ レベル2
  • アメリカ自転車連盟(USAC)認定パワーベーストレーニングコーチ

 

■トレーニー: 早瀬美希(ナカザワジム)

  • 包装資材メーカー営業
  • 競泳歴10年、陸上(やり投げ)3年、MTB 6年という運動型女子。
  • なかでも水泳は埼玉県の、MTBはJMAの普及指導員の資格を持つほど。
  • ここ数年は多忙でバイクに乗れず、BCBRに向けて体力向上が急務。

 

第1回パワープロフィールテストの結果をブログにアップしました → 『2月パフォーマンステスト結果』

それではいよいよパワートレーニングを開始しましょうか。テスト結果から現時点での早瀬さんの長所と短所が明らかになりましたね。実は、僕のパワープロフィールも早瀬さんのと良く似ていてるんです。下の表を見てください。

僕は今年の3月にネパールのヤックアタックという、これもマウンテンのステージレースに挑戦するために、去年の11月からずっと厳しいトレーニングを積んできているところです。上の表がここまでのパワープロフィールの推移なんですが、5分 > FTP > 5秒 > 1分の順にスコアがいいのが分かりますか?

各数値のレベルは私のとは別次元ですが、全体のプロポーションは同じです。

こういう距離が長い方の数値が高くて安定しているグラフは、僕みたいな長距離が得意な選手によくあるグラフなんです。これを踏まえて、僕は弱点の5秒や1分の数値を改善するトレーニングを行ってきて、狙い通りトレーニング開始時よりも良い数字を出すことができています。今回、早瀬さん用に作成したトレーニングメニューも、苦手の5秒と1分を克服できるような内容にしてあります。

でもBCBRは耐久系レースだから、もっとFTPの数値を上げることにフォーカスするのかなって思ってたんですが。

テクニックやスタミナ、瞬発力のすべてが試される、それがBCBRのコースですよ。ヤックアタックもそうですが、耐久レースだからといってスタミナさえあれば完走というわけにはいきません。弱点を放っておくとクリアできないステージに出くわす危険性がありますからね。

そう言えば「オールラウンダーになれ」でしたね。

そのとおり。次回のパワープロフィールテストは4月末に予定してますので、そこで確実に数値の改善が見られるよう、まず3月上旬まではこれをやっていきましょう。記録したライドデータは毎週僕に送ってください。

早瀬さんのパワーゾーンと心拍ゾーンを下におさらいしておきましょう。上のメニューでゾーン指定があるところは、この表のそれぞれのゾーンの数値内で走るようにしてください。パワータップが使える時はパワーゾーンを、パワータップが使えない時は心拍ゾーンを使ってください。今まで特定のゾーン内で走る練習をしたことがなければ、最初はなかなかターゲット数値内にとどまるのが難しいかもしれませんが、やっていくうちにできるようになるでしょう。

 

■早瀬さんのパワーおよび心拍ゾーン

※早瀬さんのFTP171をもとに算出したものです。

上記ゾーンの算出はパワー・トレーニング・ゾーン計算ツールを使用しました。

 

それと、1分、5分、20分のテストデータに共通していますが、トルク値がやや低いのが気になりますね。例としてこの1分のグラフを見てください。早瀬さんは高めのケイデンスでクルクルと回す漕ぎ方なので、トルクがペダルにあまり掛かってないんです。

言われてみれば私、普段から高ケイデンスです。100回転超えでペダル回したりはしょっちゅうですね。

心拍もけっこう上がって苦しくなりませんか?

110とか超えると心拍数はけっこう上がりますが、水泳歴があって心肺が強いほうなのか、特に苦しくならないんですよね。

それはそれで長所ですが、トルクが掛からないと自転車は前に進まないので、これからはトルクを感じながら綺麗に一定に回すことを意識して乗ってみてください。とりあえず、ケイデンスが今より5rpmくらい低くなるように、もう少し重いギアに入れて乗るようにしてみてください。

 

■早瀬さんのパワートレーニングダイアリー(2月中旬~3月上旬)

 

さあ、3週間のトレーニング、どうでしたか?

ちょっと仕事が…相変わらず忙し過ぎて、筋力トレーニングは週1回くらいしかできず…。正直、トレーニングをしっかりこなせたとは言い難いです…。すいません。

そうですか。会社員には付いて回る問題ですよね。でも土日はしっかり乗ることができたみたいですね。これは大きいですよ。

この3週間、土日の長距離ライドはほぼこなすことができました。ロードで走る時はパワータップホイールを使ってパワーゾーンをベースに、山ではパワーキャルで心拍ゾーンをベースに練習しました。回復走はゾーン1で、ケイデンスは110~120回転くらいですね。

毎週土日にロングライド、それもFTPゾーンを多く盛り込んだ種類のライドはあまり経験がなかったでしょう?かなり大変だったんじゃないですか?

最初のうちは3時間、ほぼ休みなしに走り続けるのはキツかったです。特に土曜に走ったあとの日曜は体が重くて、「今日も3時間とかムリ~(泣)」というカンジでした。でも、身体がやっぱり慣れてくるんですね。先週末には連日のロングライドも始めた時ほど疲労感がなかったというか…。

FTPロングライドを繰り返すことで持久力が養われるのはもちろんですが、同時に回復力が高められるという効果もありますから、土曜の疲労を日曜に持ち越さなくなってきたのが理由でしょうね。ちなみにパワーを計測するとTSSという数値も分かります。

 

■便利なTSS(トレーニング・ストレス・スコア)

練習やレースで体に掛かった負荷を数値化したものがTSSで、体が回復するまでに要する時間の目安となります。
TSSの例をあげると、100は1時間のタイムトライアルを走り終えた時の運動負荷に相当すると考えられます。1時間TTを2本行った場合、TSSは200となります。100なら翌日にはすっかり回復して、またハードな練習ができますが、200になると完全に回復するまで2日かかります。

 

へえ~、こんな便利なデータまで取れるんですね。パワーメーターってスゴイ!

体調が優れない日に乗ると、当然普段よりも疲れを感じやすいですよね。そして「疲れた」という感覚のために、「今日はトレーニング頑張った」という気になってしまいますが、実際は強くなるために必要な負荷を身体にかけられていない可能性が高いんです。でもパワーメーターでTSSのデータが取れれば、そういう日にはTSSの値がリアルに低く出るので勘違いしないで済むわけです。

トレーニングしたつもりが実は十分なトレーニングになっていなかった、なんてことを防げるということですね。確かに、これがあるとないとでは全然違うかも。

参考までに僕のヤックアタックトレーニングのTSSの記録がこれです。

11月と12月はほとんど300超えですね。スゴイ…。

そのふた月は距離や時間を乗り込むことに充てたので、TSSも高めになってることが分かりますね。連続で400を超えているところなんか、体を壊しかねず、本来なら避けたほうがいい危険な練習なんです。でも11ステージあるヤックアタックに向けてということで、あえてオーバーワークのリスクを取って、ギリギリのところでトレーニングを積んだんです。

あぶない~。でも1月以降はTSSの値が低くなってしまってますね。

それは乗り込み期間を終えて、筋力をつけるための高強度トレーニングにシフトしたからです。あと、本番に備えて練習量を減らし、体へのストレス(=TSS)を抑えたことを反映してますね。

TSSでレースに向けてのコンディショニングができるっていうことですね。

そういうことですね。それにステージレースだと、1ステージ走り終えてTSSを把握しておけば、「一晩じゃ回復しきらないから、明日のステージはなるべくタイムを落とさない程度に完走狙いで行こう」とかプランを練ることもできるんですよ。

レース期間中も大きく役立つ情報なんですね。

そうです。さてTSSの話はこれくらいにしておいて、下はこれから4月末の第2回パワープロフィールテストまでのトレーニングメニューです。

本来なら高強度(ZONE5以上)のメニューを多く入れて、弱点である瞬発力の強化を図りたかったのですが、ここまで平日の筋力トレーニングができなかったので、プラン変更しました。やはり一番大事なのはレース強度の基本となるFTPが高いことなので、そこをしっかりと押さえたメニューとしました。

私が言うのもなんですが…5秒や1分のスコアをそのままにしておくんですか?

全てのゾーンを鍛えることがベストなのですが、早瀬さんが平日にトレーニングの時間を確保するのが現実的ではない以上、持久力と回復力の向上をメインテーマにしてしまいましょう。そこが7日間のステージレースで生き残るために最も大事な部分なのは間違いないです。とは言え、筋力トレーニングもしっかりメニューに残しているので、なるべく実行するように頑張ってください。

 

■早瀬さんのパワートレーニングダイアリー(3月上旬~4月中旬)

 

J2緑山の女子スポーツクラスで2位を獲ることができました!

おめでとう!パワーやゾーントレーニングの効果が出てますね!

FTPメニューのせいか、「持久力が上がってきている」という確かな実感があります。今回も筋力トレーニングはさほどこなせなかったんですが、それでもすこーしは瞬発力にも改善が感じられますね。

体力の向上が感じられて、それでレースでも結果が出たんだから、やる気も一層出てきてるんじゃないですか?

そうですね。毎回の練習でも明確に決められたパワーゾーンや心拍ゾーンがあるというのはすごく大きいですね。トンネルの先にちゃんと出口の光が見えているカンジ。それに「この数字に到達するまで止められない!」というのはすごくツラくもありますけど、私の場合は池田さんにトレーニングデータを提出しないといけないということに引っ張られて頑張れています。

パワーメーターを使用していると、ただ漫然と決められた時間走っただけのデータはサボッているのがコーチに丸分かりですからね。選手側にそういう責任感が生じて、結果強くなれるのもパワートレーニングのメリットですね。

あと、BCBRという遠いカナダのレースに参加するという、私の人生で今回限りかもしれない冒険を前に、「絶対完走するんだ!」っていう強い意志があるので、つらいトレーニングの日々もポジティブに乗り越えられている気がするんです。

僕らプロだってそうですけど、目標もなくボンヤリと毎日、こんなに疲れることってできないですもんね。

…まあ私は毎日はできてないですケド(汗)。

社会人の場合、毎日のようにトレーニングを行うというのは現実問題として難しいので、その分、空いた時間をどれだけ有効に使うかがカギになってきます。いわゆる時短トレーニングですね。

そこでパワーメーターが大活躍するわけですね。

その通り。

 

■気になってたアノこと: ツール・ド・フランスの1ステージでどれくらいのTSSになる?

レースや運動によってどのくらいの負担が体にかかったかを客観的に示してくれる指標、TSS。一般的に、その日の運動がきつかったと感じるのはTSSは150前後で、アマチュアが2時間ハードに走った際のTSSは160~180程度になるとされています。
ではツール・ド・フランスに参加している世界のトッププロの体には、期間中どのくらいの負荷がかかっているのでしょうか。一例として2009年のクリス・アンケル・セレンセン(デンマーク、チーム・サクソバンク、最終総合順位32位)のデータを見てみましょう。

TSSが200後半を記録している日が多くあり、7月10日のバルセロナ~超級山岳アルカリスの頂上ゴール(224km)では405となっています。7月6日からの1週間のTSS合計は驚異の2,000。アマチュア選手がかなりハードに練習した週でも700くらいであることを考えると、ツールはその3倍近い過酷さ。100TSSが一晩で除去できる体への負担であるとすると、ツール期間中、選手はかなりの疲労感を感じながら毎日を走っていると推察されます。
一方、長距離個人タイムトライアルでは、ゴール後に地面にへばり込んでしばらく立てない選手が映像に映し出されることもあります。『あそこまで追いこんで翌日大丈夫なのか?』と思わず心配してしまいますが、7月23日のアヌシー湖岸での40km個人TTを例にとると、TSSは110ほど。スタートからゴールまで全力走のレースですが、ほかのステージに比べて距離・時間が短いため、翌日への影響は少なそうです。

情報協力: じてトレ

 

■池田コーチの総括

高強度の瞬発力強化メニューができなかったという反省点はありましたが、レースペースの基本となるFTP向上を図ったトレーニングは十分行うことができた2カ月間だったと思います。

メニュートレーニングはきついですが、決められたゾーン目標があるので集中しやすく、漠然としたトレーニングよりも効率的に鍛えることが可能です。特に早瀬さんのような多忙な方には最適のメソッドです。

出張先でバイクに乗れない時にはランニングや階段ダッシュのメニューもこなしてもらいました。なかでも階段ダッシュはペダルを踏み込むときとほぼ同じ筋肉を使うので、バイクなしで行う自転車トレーニングとしてとても効果的です。

早瀬さんはターゲットを絞った練習を経験したことがありませんでした。その分メキメキと成長し、「以前登れなかった坂をクリアできた」、「同じケイデンスで1~2枚重いギアを踏めている」などのように自分の成長を実感できているようです。J2緑山での好成績などもあり、本人のモチベーション維持に大きく貢献していると思います。

次はこの2カ月のトレーニングの成果と新たな課題を確認するための第2回パワープロフィールテストです。5月26日にはSDA in 王滝100kmも控えていることもあり、テスト結果を基にトレーニング強度と距離を徐々に上げてゆこうと考えています。

 

使用機材(価格はすべて税込)

■ホイール:PowerTap G3搭載アルミホイールセット

最新パワータップモデル、G3が32組のWheelsmith製ダブルバテッドスポークとブラス製ニップルによってHayes製箱型断面リムに組み込まれたトレーニングホイール。トッププロのハードな使用にも耐え抜く高い剛性を誇る。

  • 品名:サイクルオプス・アルミホイール with PowerTap G3
  • 標準価格:158,000円(リア)/35,000円(フロント)

 

■サイクルコンピューター:ジュールGPS

世界でただひとつ、パワートレーニング用に開発されたサイクルコンピューター、『ジュール』の最上位モデル。豊富なデータ表示やトレーニング補助機能に加え、GPSや気圧高度計、磁気コンパスなど本格仕様の計器を備える。

  • 品名:サイクルオプス・Joule GPSサイクリングコンピューター
  • 標準価格:30,000円

 

■心拍/パワー計:パワーキャル

心拍からパワーを算出する世界初の心拍ストラップ。実測式パワーメーターの約1/10の価格ながら、精度の高いデータ収集が可能で、発売から半年で国内累計1,500本を売り上げ、ブログなどでも取り上げられることの多い人気製品。

  • 品名:サイクルオプス・パワーキャル
  • 標準価格:12,000円

 

■商品に関する問い合わせ先:キルシュベルク・インク