上り ~主観的な分析でのリミッターの見つけ方~【BBC】

【ヒルクライム・上り】【初心者のためのヒント】【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2016年10月31日 15:12

山岳コースでのレースの上りで遅れてしまうのであれば、持久力と筋力が組み合わさってリミッターになっていると考えられます。

■長い上り

長い上りで集団から千切れてしまうことが多い場合は、筋持久力の向上が必要だと考えられます。筋持久力を鍛えるには、それを支える要素である持久力も鍛えなければなりません。持久力が高まるほど、筋持久力も向上します。

パワー・ウェイト・レシオも、ヒルクライム能力に影響します。持久力が向上すれば、その結果として、体重に関係なく、1分間以上継続する全力走の平均パワーも上がります。ただし、持久力が弱点の一要素にすぎない場合もあります。余分な脂肪の少ない筋肉質の選手で、長い上りが苦手ならば、持久力が最大のリミッターだと考えられます。

細身で筋肉が少ない選手は、筋持久力の向上のために筋力を高める必要もあります。上りでは強度を維持する能力とペダルをより力強く踏む能力が要るため、筋力が重要です。このケースは、サイクリングを始めて間もないランニング出身者によく見られます。彼らは持久力には優れていても、筋力とスプリント・パワーが足りないことが多いのです。

余分な脂肪で体重が重くなっていれば、上りでのスピードも遅くなります。本章の後半で取り上げる「その他」のリミッターのなかに、体組成と栄養があります。この2つには、しばしば密接なつながりがあります。ヒルクライム能力の向上を目標にしていて、余分な脂肪をあと数kg落とせるのであれば、基礎期にはこの2つを重視しましょう。3章で説明した体重管理の方法に従ってください。

パワー出力(単位:W)は、体重(単位:kg)に対する割合である「パワー・ウェイト・レシオ(W/kg)」の形式で表記される場合があります。CP12 ~30におけるこの数値が高いほど、長い上りでのパフォーマンスが高くなります。パワー・ウェイト・レシオは、ワット数を上げ、体重を減らすことで、改善できます。すでに脂肪が少ない人は、まず基礎的な体力要素を、次に筋持久力を高めることで、パワー・ウェイト・レシオを向上させましょう。

また、効果的な戦術と戦略によっても、ヒルクライムの能力は高められます。

その1つとして、集団の先頭付近の位置から上り始める戦術があげられます。始めに先頭付近にいれば、上りで多少遅れても、先頭集団に残れる可能性があります。たとえば、集団の最後尾の位置から上り始めると、たったの3m程度遅れただけで、集団から千切れてしまいます。しかし、集団の先頭付近の位置から上り始めれば、3m程度遅れても集団内にとどまれる可能性が高いでしょう。私がスプリンターにアドバイスしている戦術は、集団の先頭付近で上りに入り、自分にとって有利なペースで引き、上りが得意な選手が抜こうとするときには回り込まなくてはならないようにするというものです。

■勾配のきつい短い上り

長い上りは得意だが、勾配のきつい短い上りで苦労する場合、筋持久力は高いものの、スプリント・パワーや、上りの距離次第では無酸素持久力が不足していると考えられます。スプリント・パワーには、筋力だけでなく、少ない力で素早くペダルを動かす能力が必要です。また、勢いを殺さずに適度な起伏のあるコース(小さなアップ・ダウンが続く山岳コース)をダンシングでクリアできる筋力も必要です。勾配のきつい短い上りで、自分よりも筋肉量の多い相手に抜かされてしまうのであれば、筋力がリミッターであるかもしれません。筋力に特に問題がなければ、おそらく効率が弱点になっています。効率が低く、エネルギーの浪費が多くなれば、長めの上りでも問題になります。

勾配のきつい短い上りがあるクリテリウムのように、上りが頻繁に繰り返されるコースで、ハードな区間の合間の短い時間での回復がうまくできない場合は、持久力とペダリング効率を向上させる必要があると考えられます。これは、無酸素持久力の向上にも役立ちます。

短い上りでは、戦略も重要なカギを握ります。集団の先頭で、激しくペダルを踏んでいると、上りにさしかかる時点で代謝副産物が足に蓄積し、坂を勢いよく上るためのエネルギーが尽きてしまうことがあります。上りに入るまでは、他の選手の後ろで風を避けながら走るようにしましょう。必要なときのために、「マッチ」を温存しておくのです。

勾配のある短い上りでは、スプリント・パワーまたは無酸素持久力が必要です。

この高度な体力要素はどちらも効率に依存しています。勾配のある短い上りが苦手なのであれば、効率(スムーズで巧みなペダリング・スキル)を向上させる必要があります。

 

※この記事は、『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『BASE BUILDING for CYCLISTS』トーマス・チャップル著・velopress)の立ち読み版です。『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』を下敷きにした、1年のなかでも最も重要でありながら、最も理解されにくい時期でもある「基礎期(ベーストレーニング期)」に、どのようにトレーニングすべきかを詳しく掘り下げた好著です。■

 

著者紹介

トーマス・チャップル

ウルトラフィット・コーチング・アソシエイト。USAサイクリングおよびUSAトライアスロンで、公認コーチとしてエリートレベルの選手のコーチを行っている。1997年に専業のコーチとなって以来、指導してきた選手は、全米および世界のレースで優秀な成績を収めてきた。チャップルの指導した選手は、ハワイのアイアンマン世界選手権のエイジ別入賞やアマチュア部門での優勝、全米プロ/エリート・クリテリウム選手権の上位入賞、NORBA全米シリーズの年代別部門、24時間単独マウンテンバイク・レースの優勝などの栄光に輝いている。

トレーニングやサイクリング関連の定期刊行物、ウェブサイトに定期的に記事を寄稿。そのコーチングスタイルは、短期・長期の目標への到達を目指すトレーニングプロセスにフォーカスしながら、バランスと一貫性を重視していくというものである。選手時代は、全米レベルのダウンヒルのマウンテンバイク・レースや、地元のロードおよびトラック競技の選手として活躍した。詳細は、ウェブサイト(www.coachthomas.com)を参照。

 

訳者紹介

児島 修

1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。スポーツ、ビジネス、ITなどの分野で活躍中。訳書に『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『シークレット・レース』(小学館文庫)、『マーク・カヴェンディッシュ』(未知谷)などがある。