タイムトライアルが苦手な場合のリミッター ~主観的な分析でのリミッターの見つけ方~【BBC】

【初心者のためのヒント】【空力・エアロダイナミクス・TT・下り】【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2016年11月4日 06:01

タイムトライアルが得意であれば、おそらく筋持久力が十分に高まっていると考えられます。タイムトライアルでの成功は、空力に優れた効率的なポジション、適切なペース配分、長く厳しい運動に耐える強い精神力などに左右されます。タイムトライアルよりも30分間のロードレースの平均パワーの方が高いサイクリストは多くいます。それにはいくつかの理由があります。その1つは、タイムトライアル用のエアロポジションが、パワーを制限する場合があるということです。タイムトライアル用のポジションでは、パワーと空気抵抗の間にトレードオフの関係があります。一般的に、少ないワット数で速く走れるのは、空力が優れているためです。しかし、ペダルを効率よく回す能力と空気抵抗との間の適切なバランスを保てる、理想的なポジションを見つけなくてはいけません。

■ロードレースよりタイムトライアルの方がパワーが低くなる原因

ロードレースよりタイムトライアルの方がパワーが低くなる原因には、タイムトライアルでは常にハードに走ることが難しいという点もあげられます。ロードレースでは、メイン集団内から千切れないために高いパワーを出さなければならない局面があり、また、周りの選手の存在によってモチベーションが上がります。タイムトライアルでは、独りで時計だけを見て走らなくてはならず、どれだけハードに走れるか、走りたいのかと自問自答するしかありません。

■精神力

競技における精神力は、サイクリストとしての成功に大きく影響します。もちろん、体力は重要です。しかし、簡単にあきらめてしまうために、持てる力を発揮できず、速く、長く走れない選手は多くいます。「これ以上は走れない」と感じたとき、ペースをゆるめてしまう理由はたくさんあります。しかし、苦しい状況でも長い時間ペダルをこぎ続けられる精神力の強い選手は、レースやハードな運動で、きわめて有利になります。長時間、きつい運動を続けられるかどうかは、「自分はできる」と信じる力と、苦痛に耐える意志にかかっています。精神面がリミッターだと感じる人は、本書の14章がよい参考になるはずです。

■ペース配分

タイムトライアルでは、ペース配分も重要です。最もありがちなミスは、スタートで飛ばしすぎて途中でペースダウンし、必死の思いで完走するというものです。タイムトライアルの距離が長くなるほど、ゴールまで体力を残しておけるように、ペースを抑えめにすることに注意しなければなりません。マウンテンバイクのクロスカントリーレースは、激しい走りが何度も求められ、空中に体を投げ出されそうになりながら走る大掛かりなタイムトライアルのようなものです。この種のレースでも、序盤でエネルギー切れになり、消耗し切ってゴールするようなことにならないように、適切なペースを保たなくてはなりません。パワーメーターがあれば、タイムトライアルでのペースをつかみやすくなります。また、レース後にデータを分析して、自分がどれだけうまくペース配分できていたかを検証することもできます。(図6.2a、6.2b、6.2cを参照)。

図 6 . 2 a  安定した速度での、高強度の走行

bbc_6_2a

図6.2a~ c のグラフの点線は、各選手がレースで目標としていたパワーを表しています。図6.2aのグラフのパワーを見ると、この選手がタイムトライアルを通じてよい走りができたことが確認できます。彼は、序盤はペースを抑えめにし、徐々に心拍数を上げて、スタートから7分かけてタイムトライアルペースに達しています。起伏のあるコースでしたが、コースに合わせて運動強度を調整することで、力強くゴールまで走りぬいたことがわかります。

■図 6 . 2 b  スタートでやや飛ばしすぎたものの、回復した場合

bbc_6_2b

■図6.2bのグラフの選手は、スタートでやや飛ばしすぎています。彼はそれに気づいてペースを落とし、中盤以降、目標パワー近くを維持できました。中盤以降はエネルギーも回復し、最後までペースを落とさずにゴールしています。レース中、心拍数が徐々に上昇しているのは、ペース配分が優れていたことを表しています。

■図 6 . 2 c  スタートで飛ばしすぎて、回復できなかった場合

bbc_6_2c

図6.2c のグラフの選手は、スタートで飛ばしすぎ、中盤以降、回復できませんでした。心拍数の急激な上昇は、ペースを抑えるだけの忍耐力がなかったことを示しています。この選手はスタミナ切れを起こし、心拍数、パワー、モチベーションをすべて低下させながら、なんとかゴールまで辿り着きました。

 

※この記事は、『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『BASE BUILDING for CYCLISTS』トーマス・チャップル著・velopress)の立ち読み版です。『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』を下敷きにした、1年のなかでも最も重要でありながら、最も理解されにくい時期でもある「基礎期(ベーストレーニング期)」に、どのようにトレーニングすべきかを詳しく掘り下げた好著です。■

 

著者紹介

トーマス・チャップル

ウルトラフィット・コーチング・アソシエイト。USAサイクリングおよびUSAトライアスロンで、公認コーチとしてエリートレベルの選手のコーチを行っている。1997年に専業のコーチとなって以来、指導してきた選手は、全米および世界のレースで優秀な成績を収めてきた。チャップルの指導した選手は、ハワイのアイアンマン世界選手権のエイジ別入賞やアマチュア部門での優勝、全米プロ/エリート・クリテリウム選手権の上位入賞、NORBA全米シリーズの年代別部門、24時間単独マウンテンバイク・レースの優勝などの栄光に輝いている。

トレーニングやサイクリング関連の定期刊行物、ウェブサイトに定期的に記事を寄稿。そのコーチングスタイルは、短期・長期の目標への到達を目指すトレーニングプロセスにフォーカスしながら、バランスと一貫性を重視していくというものである。選手時代は、全米レベルのダウンヒルのマウンテンバイク・レースや、地元のロードおよびトラック競技の選手として活躍した。詳細は、ウェブサイト(www.coachthomas.com)を参照。

 

訳者紹介

児島 修

1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。スポーツ、ビジネス、ITなどの分野で活躍中。訳書に『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『シークレット・レース』(小学館文庫)、『マーク・カヴェンディッシュ』(未知谷)などがある。