運動、それも激しい運動は強力な薬 ~アスリートは、実際の年齢が同じくらいであっても、生理学的には一般の人よりもはるかに若い~

【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2024年6月17日 12:13

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

 

■トレーニング実行可能性と加齢

このように強度の重要性が明らかになると、疑問もわくかもしれません。はたしてシニア・アスリートは、若いアスリートと同じようにトレーニングの刺激に適応できるのか?そして高強度の練習をこなす能力があるのか?

可能でしょう。少なくとも短期では大丈夫だと考えられます。高強度の練習をたまに行うだけなら、シニア・アスリートのほとんどができます。問題は、そのような練習から回復して、毎日・毎週、繰り返せるか、ということなのです。加齢とともにそれは難しくなります。高強度の練習の頻度を決める最大の要素は、年齢なのです。その理由は、バースデーケーキのロウソクが増えるほど、回復が遅くなることにあります。次章では、この問題に関するすべてを検討します。そのほか次章では、高強度の練習を受容する能力に応じて自分のトレーニングを組み立て、適応のプロセスを最適化しながら、怪我、燃え尽き症候群、過労、オーバートレーニングといった、ランナーが陥りがちな落とし穴を回避するベストの方法も検討します。

本章ではもう1つ、重要な知見についても触れたいと思います。それは、高強度トレーニングの効果を享受しているのは、シニアのなかのいちばん若い層だけではないということです。50代、60代にとどまらず、70代や80代のアスリートにも、高強度トレーニングの効果が表れることは、すでに証明されています(18)。きついトレーニングを避けるためのうまい口実は、いくつも見つかると思います。しかし、そのなかに年齢は入らないのです。このことについては、あとでさらに詳しく説明します。

 

■加齢に関する俗説

年をとるということは抗うことのできない、救いがたい変化がたびたび起きることであり、その変化をコントロールすることはできない。一般人のみならずアスリートでさえもこう信じ込んでいます。そうした変化をできるだけ先送りするために、毎日一握りの薬を飲むぐらいが関の山というわけです。年をとったら激しいことは何もしてはならないという、似たような説もあります。もろくなった骨を守れ、きつい運動はもう卒業、息が上がるようなことはやめてゆっくりしろ、ガーデニングやバードウォッチングはどうだろうか、年を考えろ。というのです。

このなかに、読者の皆さんが真に受けるようなことがあるとは、思えません。年齢が及ぼす危害から身を守る武器は運動だと、私は書いたばかりです。周りのふつうの人と皆さんとの違いは、まさにここにあります。あなたがたアスリートは、実際の年齢が同じくらいであっても、生理学的には一般の人よりもはるかに若いのです。運動、それも激しい運動は強力な薬です。どのくらいの効力があるのでしょうか。それは次章で見ていきましょう。

 

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

※この記事は、『50を過ぎても速く!』篠原美穂訳・OVERLANDER株式会社(原題:『FAST AFTER 50』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版です。『50を過ぎても速く!』は、アメリカを代表する持久系スポーツコーチであるジョー・フリールが、サイクリスト、ランナー、トライアスリート、水泳選手、スキー選手、ボート選手など、すべての持久系競技のアスリートのために、最新の研究をベースにして、「50歳を過ぎてもレースで力強く走り、健康を維持する方法」をわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:ジョー・フリール(Joe Friel)

ジョー・フリールは、TrainingPeaks.comおよび TrainingBible Coachingの共同創立者です。運動科学の修士号を持つフリールは、1980年から持久系アスリートの指導にあたってきました。彼の教えを受けたのは、自転車、マウンテンバイク、トライアスロン、ランニング、ボート、馬術の選手などであり、年齢もさまざま、初心者からエリートまでとレベルも幅広く、アマチュアもプロもいます。なかにはアイアンマン・レースの優勝者、米国内外のチャンピオン、世界選手権代表、そしてオリンピック代表もいます。

フリールの作品は以下のとおりです。『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『The Mountain Biker's Training Bible』、『Cycling Past 50』、『Going Long』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Your First Triathlon』、『Your Best Triathlon』、『The Power Meter Handbook』、『Precision Heart Rate Training』(寄稿)、『Total Heart Rate Training』『Triathlon Science』(共同編集)。フリールはまた、米国トライアスロン指導者委員会の設立に携わり、会長を2期にわたってつとめました。

そのほか、『Inside Triathlon』、『Velo News』をはじめとする、200を超える雑誌のコラムを執筆するかたわら、米国以外の雑誌やウェブサイトにも頻繁に記事を寄稿しています。持久系競技のトレーニングに関して、さまざまなメディアから意見を求められており、紹介記事が掲載された雑誌は、『Runner's World』、『Outside』、『Triathlete』、『Women's Sports & Fitness』、『Men's Fitness』、『Men's Health』、『American Health』、『Masters Sports』、『Walking』、『Bicycling』といった専門誌から、『The New York Times』、『Vogue』にまで及びます。

フリールはこれまでに、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、太平洋地域でキャンプを主催し、アスリートはもとよりコーチにも、トレーニング、レースについて指導を行っています。また、フィットネス産業や政府機関のアドバイザーとしても活躍しています。

エイジグルーパーとしては、コロラド州マスターズ選手権優勝、ロッキーマウンンテン地区、サウスウェスト地区のデュアスロンエイジ別優勝などの戦績を誇り、全米代表チーム入り、世界選手権出場の経験もあります。現在は、サイクリストとして米国の自転車レースシリーズやタイムトライアルにも参加しています。

 

■訳者:篠原美穂

慶應義塾大学文学部(英米文学専攻)卒業。主な訳書に『アドバンスト・マラソントレーニング』、『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』、『はじめてのウルトラ&トレイルランニング』、『ランニング解剖学第2版』(以上、ベースボール・マガジン社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)などがある。