体力(フィットネス)とは何か? ~最大酸素摂取量(VO2max)~

【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2024年8月5日 16:41

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

 

■体力(フィットネス)とは何か

自分の体、ひいてはパフォーマンスにどのような変化が生じるのか、詳しく見ていく前に、そもそも、年齢に関わらず持久系競技のパフォーマンスに必要なものとは何なのか、ざっと確認しましょう。持久系スポーツにおける体力(フィットネス)とは何なのでしょうか。

すべての年齢層に共通な、持久的なパフォーマンスの能力を生理学的に測るものさしは、3つあります。これは科学によって明らかになっています。その3つとは、

 

  • VO2max
  • 乳酸閾値(LT)
  • エコノミー

 

です。

自分がどのようなアスリートなのかは、この3つの要素の組み合わせいかんによってわかります。持久性トレーニングについて長いあいだよく勉強してきた人ならば、すでにこの3要素について、一通りは知っているかもしれません。しかし、正しく理解できているか確認するために、ざっとおさらいしておきましょう。

 

■最大酸素摂取量(VO2max)

VO2maxとは、最大強度で一定時間運動したときに消費する酸素の量のことです。消費する酸素量が多いほど産生するエネルギーは多くなり、速く動くことができます。酸素摂取量が最大になったときの速度は、持久系パフォーマンスを最も正確に表します。ですから、体力レベルと強い相関のあるこの VO2maxについては、本章でも、また次章以降でも頻繁に取り上げます。

酸素摂取量が最大になる強度で運動すると、限界まで追い込まれた状態になり、呼吸も非常に激しくなります。短時間しか、この強度を保つことはできません。これはどんな体力レベルのアスリートでも同じです。競技にもよりますが、たいてい4~6分、という時間です(3)。有酸素的な体力が低いほど、このような高強度の運動を継続できる時間は短くなります。この場合、活動筋に運搬できる酸素量とそれを使う能力がリミッターの要素となります。そしてこれらを総合したものが、広義の「体力」なのです。

VO2maxは最大酸素摂取量の定義を略した表現です。つまり、有酸素運動中に体が処理できる酸素(O2)の最大(max)量(V)ということなのです。念のために言っておくと、この VO2maxは、

 

酸素摂取量(ml) ÷ 体重(kg) ÷ 分

 

という式で求められます。

これをさらに略すと、VO2max =ml/kg/分のような表記になります。簡単にいうと、VO2maxは体重1kgあたり、1分間あたりに体が処理できる酸素量です。体重に関しては本章の後半で説明します。

VO2maxは、テストを受ければ、いちばん正確に測定することができます。大学の研究室、病院、ジムなどに行けばよいでしょう。また、ランニング、自転車、トライアスロンの専門ショップでもテストを受けられる場合があります。その場合はたいていコーチが測定します。VO2maxは競技によって異なりますので、できれば自分が行っているスポーツだけでテストを受けるべきです。しかし、水泳やカヌー、ノルディックスキーなどの競技では、特別に機材が必要で、適切な場所も少ないことから、テストは簡単にできません。このようなスポーツのテストを受けられる場所は確かに存在しますが、ランニング、自転車、ボートに比べれば数が少ないのです。料金も安くはありませんので、何か所か回ってみるべきです。その場合に重要なのは、ふつうのスタッフではなく、アスリートをテストした経験のある人のいる施設を見つけることです。もう1つ大事なのは、テストをレースだと思い、事前に2、3日休息をとることです。疲労していると正確な結果が出ません。

テストでは、呼気を採集するため、試験者が鼻と口を覆うマスクを被験者に装着します。たいていのテストでは、まずウォーミングアップを行い、その次に2、3分ごとに強度を段階的に上げて運動を行い、もうこれ以上無理だという時点まで続けます。このポイントまで来たら、VO2maxに到達したということになります。そしてこの時点での呼気が分析され、1分間にどれだけの酸素が消費されたのか測定されます。テストが終了したあと、計算式に体重を入力すれば、VO2maxがはじきだされるという、すばらしい仕組みです。

VO2maxは、世界クラスの持久系アスリートだと、男子も女子も60~80台であり、女子は男子よりも約10%低い値です。つまり一線級の選手は1分間で体重1kgあたり60~80mlの酸素を消費しているということになります(1mlはティースプーンの10分の2ぐらいの量にあたり、0.000264ガロンに相当します。ですから、体重70kg、VO2maxが70ml/kg/分の男子選手の場合、最大強度では、計算上1分間に約1.3ガロン<約4.9l>の酸素を消費していることになるのです。しかし注意したいのは、実際には1分間に最低この5倍の量、つまり6.5ガロン<約24.6l>を超える酸素を出し入れしているということです。なぜなら空気はほとんど窒素からなっているからです。我々が呼吸する空気のうち酸素の占める割合は21%に過ぎず、使用されなかった酸素は吐き出されます)。

これらは、VO2maxとしては非常に高い数値です。今までに記録された VO2maxの最高値は、ノルディックスキー、自転車、ランニング、ボートの、男子エリート選手のもので、すべて90台の値です。女子の最高値は70台の後半です。この差の主な理由は、女子の全体重に対する除脂肪筋肉量の割合が低いということにあります。

年齢の影響に関してはどうでしょうか。VO2maxは、若いときよりもはるかに低くなる傾向にあります。それはかつて世界のトップにいた選手でも同じです。第1章で見てきたとおり、VO2maxは持久的なパフォーマンスと一緒に、年齢にしたがって低下するのです。

大変おおざっぱな方法ではありますが、VO2maxを算出する計算式を、デンマークの研究者が2000年代に開発しました(4)。これは最大心拍数と安静時心拍数を基にしたものです。この式から求められる値は、実際の測定値からは若干(もしかしたらかなり)はずれた値になりますが、場合によっては、きわめて近い値になることもあります。

 

VO2max =15 ×(最大心拍数 ÷ 安静時心拍数)

 

この計算式では、最大心拍数の実測値(よく使われる、『220 -年齢』という式で得られる値は非常に不正確です)のうち最近2、3年間で最も高い値を、完全に休息した状態で測定した安静時心拍数のうち最近2、3年間で最も低い値で割ります。そしてその値に15をかけます。最大心拍数を測定した競技の予測に使いますが、非常に大まかな数値です。

VO2maxはどこまで高くできるのでしょうか。その可能性は、自分の両親にかなり依存します。これは、一卵性双生児の VO2maxはほぼ等しいことを示した古典的研究によって導かれた結論です(5)。要するに遺伝的な壁があるということですが、諦めてはなりません。ほかの人もみな同じなのです。我々がすべきことは、目の前の課題に取り組むこと、つまり自分のポテンシャルに VO2maxをできるだけ近づけるようにトレーニングをすることです。VO2maxあるいはそれに近い強度でトレーニングをしたことがないと、VO2maxの低下が速くなると考えられます。繰り返しになりますが、これは第1章で取り上げた縦断研究で我々が見てきたことです。

VO2maxを測定し、その数値を同年代と比べて評価したいという人は、表3.1に示した標準的な VO2maxの値を参考にしてください。この表は、「健康」と思われる10歳から79歳までの男女の値です。注意してもらいたいのは、この人びとは一般から選ばれたということです。持久系競技のシリアス・アスリートであれば、ほぼ間違いなくこの値より高くなります。少なくとも10%、場合によっては50%高いこともあるでしょう。

 

表3.1 年齢グループ別男女VO2max値(非鍛錬者)

 

VO2maxは、年齢と密接に関係しています。ですから VO2maxが同じ年齢グループの値よりも高ければ、それだけ「若い」ということになります(6)。自分の VO2maxがわかっている場合、それは実測値であれば好ましいですが、前述の心拍数を使った計算式による概算値でも構いませんので、その数値に相当する欄を表3.1で探し、左横の列を見て自分がどの「体力年齢」グループにいるのかを確認してみましょう。数値は年代グループをまたがって重なっていますので、あくまで大まかな目安に過ぎません。しかし、自分にとって何かよいことを探しているのなら、この表のなかに見つけることがきっとできるでしょう。

それだけではなく、VO2maxで示される体力年齢は、我々アスリートにとっておそらく実年齢よりも正確な、体の状態のものさしとなります。VO2maxが多い人は、それだけ体力年齢も若いことになりますが、たいてい健康的であり寿命も延びます(7)。ですから、この表で自分の「年齢」が想像よりずっと若くても、驚かないことです。

前にも述べたとおり、VO2maxは競技によってもいくらか異なります。これは体を動かすのに使う筋肉量と、動作の際の重力や抵抗に関係があります。こうした差があるため、ある問題が生じます。それは、複数種目を専門とする場合、さまざまなテストのどの結果が、その選手の能力を正確に示しているか、ということです。たとえばトライアスリートの VO2maxは、ランでは高く、スイムでは低くなり、バイクではその中間になる傾向にあります。ランニングでは、より大きな筋肉が使われ、重力に逆らう力がバイクやスイムよりも多く必要になります。いちばん高い値といちばん低い値では、簡単に10%程度、あるいはそれ以上の差がつきます。ですから、たとえば専門種目が自転車のみ、という場合は、できればテストは自転車で行うこと。それが正確な結果を得るには重要なのです。

VO2maxを測定するつもりなら、持久的な体力は、何を測定したとしても、シーズン中に変化するということをわかっていなければなりません。VO2maxは好不調の波に影響を受けますが、それをならした測定値を得るには、年に1回、標準となる時期を設けて測定するというのも1つの手です。そうすれば前の年の体力と比較することができます。たとえば基礎期(第6章の『トレーニング期』を参照)の最後に1回と決めて測定してもよいでしょう。進捗が正確に測定できているか、非常にこだわるアスリートもいます。このような人は1シーズンに数回測定しますが、そこまでする必要はありません。

しかし実のところ、トレーニングのためであれば自分の VO2maxを知る必要はまったくありません。モチベーションアップとしては確かに有効ですし、結果をひけらかすのも楽しいかもしれません。役に立つとすれば、最大強度の練習ペースを決めるときでしょう。これに関しては第4章で説明します。しかし、お金をかけてテストを受けなくても、それはわかります。その方法もあとで紹介します。

実際、VO2maxから得られる最も有益な情報とは、酸素摂取量に関係したことではありません。VO2maxからは、心拍数や強度によって乳酸閾値(LT)やエネルギー産生の際の脂肪と糖の使われ方がどう変化するのか、間接的にわかるのです。テストが終わったときに自分のデータについて説明してもらえるか、試験者に聞いてみましょう。

 

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

※この記事は、『50を過ぎても速く!』篠原美穂訳・OVERLANDER株式会社(原題:『FAST AFTER 50』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版です。『50を過ぎても速く!』は、アメリカを代表する持久系スポーツコーチであるジョー・フリールが、サイクリスト、ランナー、トライアスリート、水泳選手、スキー選手、ボート選手など、すべての持久系競技のアスリートのために、最新の研究をベースにして、「50歳を過ぎてもレースで力強く走り、健康を維持する方法」をわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:ジョー・フリール(Joe Friel)

ジョー・フリールは、TrainingPeaks.comおよび TrainingBible Coachingの共同創立者です。運動科学の修士号を持つフリールは、1980年から持久系アスリートの指導にあたってきました。彼の教えを受けたのは、自転車、マウンテンバイク、トライアスロン、ランニング、ボート、馬術の選手などであり、年齢もさまざま、初心者からエリートまでとレベルも幅広く、アマチュアもプロもいます。なかにはアイアンマン・レースの優勝者、米国内外のチャンピオン、世界選手権代表、そしてオリンピック代表もいます。

フリールの作品は以下のとおりです。『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『The Mountain Biker's Training Bible』、『Cycling Past 50』、『Going Long』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Your First Triathlon』、『Your Best Triathlon』、『The Power Meter Handbook』、『Precision Heart Rate Training』(寄稿)、『Total Heart Rate Training』『Triathlon Science』(共同編集)。フリールはまた、米国トライアスロン指導者委員会の設立に携わり、会長を2期にわたってつとめました。

そのほか、『Inside Triathlon』、『Velo News』をはじめとする、200を超える雑誌のコラムを執筆するかたわら、米国以外の雑誌やウェブサイトにも頻繁に記事を寄稿しています。持久系競技のトレーニングに関して、さまざまなメディアから意見を求められており、紹介記事が掲載された雑誌は、『Runner's World』、『Outside』、『Triathlete』、『Women's Sports & Fitness』、『Men's Fitness』、『Men's Health』、『American Health』、『Masters Sports』、『Walking』、『Bicycling』といった専門誌から、『The New York Times』、『Vogue』にまで及びます。

フリールはこれまでに、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、太平洋地域でキャンプを主催し、アスリートはもとよりコーチにも、トレーニング、レースについて指導を行っています。また、フィットネス産業や政府機関のアドバイザーとしても活躍しています。

エイジグルーパーとしては、コロラド州マスターズ選手権優勝、ロッキーマウンンテン地区、サウスウェスト地区のデュアスロンエイジ別優勝などの戦績を誇り、全米代表チーム入り、世界選手権出場の経験もあります。現在は、サイクリストとして米国の自転車レースシリーズやタイムトライアルにも参加しています。

 

■訳者:篠原美穂

慶應義塾大学文学部(英米文学専攻)卒業。主な訳書に『アドバンスト・マラソントレーニング』、『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』、『はじめてのウルトラ&トレイルランニング』、『ランニング解剖学第2版』(以上、ベースボール・マガジン社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)などがある。