考えるスポーツとしての自転車レース

【レース対策情報・レース戦術】【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2024年10月21日 08:45

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

 

1987年春、私は、レースに参加するサイクリストに向けたニュースレターを書きはじめました。プロフォーム・レーシングというニュースレターで、14年にわたる選手生活で学んだトレーニングや戦術を伝えるものです。みんなに、よくあるまちがいを避け、上手に走り、賢くレースを戦ってほしいと思ったのです。

そして、おかげさまで、レースでこんなフィニッシュができました、などのコメントをもらうことができ、とてもうれしい思いをしました。いまも25回すべてを持っていると言ってくれる人さえいます。本書も、みなさんの学びを、そして、走るスピードを加速する一助となるなら、こんなうれしいことはありません。

本書の内容に対する、そして、トレーニングやレースに対する私の考え方を一言で表すなら、「学びつづけろ」となるでしょう。

それだけです。スポーツとはそういうものでしょう。いや、そもそも人の生き方がそういうものなのだと思います。万物流転。すべては変化のただ中にあります。どのくらい鍛えられた体であるのか、フィットネスのレベルも常に変わっていきます。スポーツも変わります。戦術もレースも、開催場所や開催時期、さらには当日の天候によっても変わり、同じことはありえません。

 

■考えましょう

自転車レースは考えるスポーツです。戦術からトレーニングスケジュールにいたるまで、考えることはたくさんあります。フィジカルとメンタル、両方をしっかりと鍛えなければ、このスポーツで成功することはできません。レース中も、さまざまな情報を活用し、どの戦術や戦略を使うのかを考えなければなりません。これができる人はあまりいないのですが、その理由は、意識的に努力しないとできないことだからです。ほとんどの人は、一生懸命ペダルを回すだけで満足してしまうと言ってもいいでしょう。集団で走っているだけで満足してしまい、レースについてあまり考えない人が多いのです。

 

■計画を立てましょう

人生がうまく行かない人が多いのは、成功に向けた計画を立てないからだとよく言われます。自転車レースについても同じことが言えます。年の初めに一年の計を立てるのは大変です。今年はこういうスケジュールでトレーニングするぞという決意が必要だからです。それより、いままでどおりを続け、未知の領域に踏みこまないほうがずっと楽です。レースに対しても、計画や目標を考えず、「どうなるか見てみよう」となんとなく参加するほうがずっと楽です。ただ、その場合、どうにもならないのがふつうですが。対して、1週間のトレーニングを計画すれば、作戦を練ってレースに参加すれば、まったく違う話になります。達成したい願いが生まれるのです。

 

■行動しましょう

とあるトレーニングレースに参加し、才能にあふれた若手主体のチームに注目したことがあります。ぜひ、いいチームに成長してほしいと思ったのです。そのレースでは、メンバーにまとまりがなく、ほかの選手にいいようにやられていました。スプリント賞争いは教科書にでも載りそうなすごくいいチャンスだったのに、このチームはそこに参加さえしませんでした。レース後、このチームのコーチを探し、どうしてリードアウトでだれかを発射しようとしなかったのか尋ねてみました。

「ああ、それですか。いや、前に一度試したのですが、うまく行かなかったので」

開いた口がふさがりませんでした。それはないでしょう。じゃあ、「一度勝とうとしたことがあるけど、うまく行かなかった。だから、そんなバカなまねは二度としない」と言うのでしょうか?

なにごとも、初めてのトライでうまくできる人などまずいません。何度もトライしなければ上手にできるようにはならないのです。

トレーニング手法にせよレース戦術にせよ、計画を立て、その計画に従って行動しましょう。思っていたよりずっと大変な場合もあるでしょう。トレーニングではなく単に「乗りにいく」でもいいじゃないかと思ってしまうこともあるでしょう。回復が必要で休足日とし、軽く乗るにとどめたほうがいいとわかっていても、友だちと一緒に走りたいと思ってしまうこともあるかもしれません。

 

最後にもうひとつ。自分はどうなりたいのか、目標をもって臨みましょう。ナショナルチャンピオンになりたいのであれば、そういう人らしく練習し、行動し、考える必要があります。国内で一番になる、勝利するという不屈の意志を持ち、みずからを律する必要があります。全国大会の直前にそういうスイッチを入れればいいという話ではありません。勝利にいたる道は、何カ月も何年も一意専心、努力していく道なのです。

 

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:トーマス・プレン

1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。

 

■訳者:訳者:井口 耕二

翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。