レースを読むとは? ~情報を総合的に評価し、次の展開を予想するプロセス~
■レースを読む
あの選手は、なぜ、いつも逃げに乗れるのだろうと不思議に思ったことはありませんか。同じように強くて速いほかの選手がなかなか逃げに乗れないのに、と。もちろん、フィットネスやねばり強さも問題です。あれだけアタックできれば逃げに乗れてもおかしくないよなと思うほどくり返しアタックする選手もいます。
私は、米国のトップレーサーを観察し、そのなかでも秀でた人たちを観察してきました。トラックやタイムトライアルでは超一流なのに、マスドスタートのロードレースやクリテリウムのレース展開がまるでわかっていない人もいます。これにはほんとうに驚かされます。逆のタイプもいます。私が注目し、いろいろと学ばせてもらう人たちです。彼らは、集団の10番手から20番手とかなり下がった位置にいます。逃げようとアタックがくり返されても動きません。でも、集団の先頭がふっとちぎれると、なぜかそこに入っているのです。逃げが成功するときにかぎって。しかも、あっちのレースでもこっちのレースでも、これがくり返されます。まるで超能力です。でも違います。
彼らは集団の後ろでぼんやり休んでいるわけではありません。逆です。彼らはレースを読んでいるのです。周りで起きていることすべてを観察し、流れをつかみ、状況を評価しているのです。コースを観察する。アタックとそれに対するブロックなど、集団の反応を観察する。逃げようとしているのはだれか、ブロックしているのはだれか、ブロックはどのくらい厳しいのかを把握する。鍵を握りそうな選手の様子に注意する。集団全体の雰囲気にも気をつける。
レースを読むとは、得られる情報を総合的に評価し、次の展開を予想するプロセスです。正しく予想できれば、無駄足を使わずにすみますし、いつどこでアタックするべきなのかもわかります。レースを正しく読めれば、流れが把握できるのです。直感的な部分もありますが、一番大事なのは、自分の周りでなにが起きているのかを観察することです。
※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。
■著者:トーマス・プレン
1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。
■訳者:訳者:井口 耕二
翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。