横ずれのやり方

【レース対策情報・レース戦術】【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2024年12月16日 09:01

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

 

■横ずれのやり方

先頭のライダーはしばらく引いたのち、横にずれて先頭を譲ります。そのとき横風が吹いていたら必ず風上へずれること(図2.2)。絶対に、です。横風があるとドラフトの発生位置が風下側にずれるので、ライダーも風下に向けて斜めに並びます。だから、風上にずれないと、少しかぶっている後ろの人の前輪をなぎ払ってしまうのです。風が特になければ、先頭は、前の人がずれたほうにずれます。他のメンバーに知らせることなく先頭がずれる向きを変えると大変なことになるおそれがあります。前と同じ向きにずれると想定し、ふたりめがすでにホイールをかぶせていたりすると、大落車になる可能性もあります。なお、風向きが変わり、先頭がずれる向きを変えるべきだと判断するのは、ふたりめのライダーの仕事です。そう判断したら、先頭にも後ろにも聞こえるように大声でどなる必要があります。また、万が一、逆にずれるべきと先頭が判断した場合は、先頭がどなってほかのメンバーに知らせます。前の人と同じほうにずれるときは、なにも言う必要がありません。

 

図2.2. 先頭は必ず風上へずれる

図2.2. 先頭は必ず風上へずれる

 

横にずれるときは、落ちついてゆっくりとずれます。ぐわっとずれたりひらりとずれたりしないこと。スムーズな動きでなければなりませんし、同時に、トレインの向きを変えようとしているのではなく先頭を譲ろうとしているのだとはっきりわかる動きでなければなりません。

ずれすぎないのも大事です。後ろのライダーが進路を変えることなく自分の横を通り抜けられるぎりぎりのところ、ハンドルがぶつからないぎりぎりまでずれるのがうまいやり方です。

ずれ幅をぎりぎりにするのには、利点がふたつあります。ひとつめは、自分のドラフトが横を通るライダーに働く時間が少し長くなること。もうひとつは、後ろに下がる途中、少しは、ほかのメンバーのドラフトが利用できること。もちろんごくわずかな差にすぎません。ですが、限界に近いペースで長い距離を走るときには、このちりが積もって山になるのです。

先頭が交代しようと思っても、後ろに続くライダーにはそれがよくわからないこともあります。風の変動、曲がりくねった道、コーナーなど、先頭の動きを誤解する原因になりそうなものがいろいろとあります。逆に、まだまだ引くつもりで走っているのに、ふたりめのライダーが前に出ようとするのも困りものです。ふたりが先頭で風に逆らうのは、トレイン全体にとってエネルギーのむだ遣いになります。しかも、ふたりめは、抜くために加速しなければならなかったはずです。

先頭を譲る合図として、おそらく世界中で通用するものがふたつあります。まず、縦1列に並んでいるときには、ヒジをちょっと振ります。このとき、ずれるほうと反対のヒジを振るようにします。軽い横風でトレインが風下に向けて斜めになっていても、こうすれば見えやすいからです。また、トレインが斜めになっている場合は、指をはじくように伸ばすだけでも十分です。それで後ろにはっきり見えるからです。

 

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:トーマス・プレン

1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。

 

■訳者:訳者:井口 耕二

翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。