VO2max向上に最適な強度領域は?

【FTP・LT・VO2max】【レース対策情報・レース戦術】【速くなるためのヒント一覧】2024年12月30日 14:47

ロードレースでは、VO2max(最大酸素摂取量)の高さがパフォーマンスと密接に関係している。VO2maxを高めるためには、さまざまな強度領域のトレーニングを組み合わせる手法が有効とされてきたが、実際にどの強度領域が最もVO2maxを高めるのかについては、これまで多くの議論がなされてきた。本記事では、Inglisらの研究(2024年)に基づき、VO2maxを高めるためのトレーニング強度領域について、その結果と考察を紹介する。

 

■結論

Inglisらの研究によれば、6週間のトレーニング介入後にVO2maxの向上幅を比較した結果は以下の通り。

 

HIIT

High Intensity Interval Training:高強度インターバルトレーニング シビア強度領域

VO2maxの向上が最も大きかった。ただし、HVY2(重強度領域の上限付近)やSIT(エクストリーム強度領域)とも統計的に有意差がないほど近い向上が見られた。

 

HVY2およびSIT

重強度領域の上限付近およびエクストリーム強度領域

HIITに匹敵するレベルのVO2max向上が得られ、MOD(中強度領域)やHVY1(重強度領域の下限付近)と比較して統計的に高い向上が確認できた。

 

HVY1

重強度領域の下限付近

CON(トレーニングを行わなかったコントロール群)よりは明確に向上があったが、HIIT・HVY2・SITほどではなかった。

 

MOD

中強度領域

未トレーニングの参加者ではコントロール群との差が統計的に有意にならないケースがあった。

 

上記の結果から、「トレーニング強度が高いほどVO2maxの向上幅が大きい」という傾向が示唆された。他方、高強度トレーニングは過度の疲労・怪我のリスクを伴うため、単に高強度を多用すればよいというわけではない。適切なバランスを取りつつ、高強度トレーニングを組み込むかが重要である。

 

■研究デザインと対象群

本研究では、以下の6群を設定し、それぞれ6週間のトレーニングを実施した。

 

  1. CON: トレーニングを一切行わないコントロール群(n=14)
  2. MOD: 中強度領域(下記注1参照)を中心とした持続トレーニング(n=14)
  3. HVY1: 重強度領域の下限付近を対象とした持続トレーニング(n=14)
  4. HVY2: 重強度領域の上限付近を対象とした持続トレーニング(n=14)
  5. HIIT: シビア強度領域(下記注2参照)を中心としたインターバルトレーニング(n=14)
  6. SIT: エクストリーム強度領域(下記注3参照)を中心としたスプリントインターバルトレーニング(n=14)

 

注1:中強度領域(MOD)とは

LT1(乳酸閾値1)あるいはVT1(換気閾値1)を下回る領域。比較的楽に感じるペース。

 

注2:シビア(Severe)強度領域(HIIT)とは

LT2(乳酸閾値2)やVT2(換気閾値2)を上回る領域でVO2maxに近づくペース。短時間のインターバルで繰り返し行うことが多い。

 

注3:エクストリーム(Extreme)強度領域(SIT)とは

VO2maxを超える全力のスプリントや非常に高いパワーを短時間で繰り返す領域。

 

■FIGURE 2のポイント

 

FIGURE 2では、個人ごとのVO2max変化量(ΔVO2max)が示されている。以下の点が重要である。

 

  • コントロール群(CON)にはほぼ変化が見られない。
  • MODでは個人差はあるが、コントロール群との差が統計的に明確でない例も散見された。
  • HVY1、HVY2、HIIT、SITではコントロール群と明確な差が確認された。
  • 特にHIITとHVY2、SITの3群は似たようなレベルでVO2maxが大きく向上した。

 

■重要ポイント

高強度領域の重要性

HIITやSITのようなシビア~エクストリーム強度領域は、VO2maxを短期間で効率的に向上させる可能性が高い。

 

MODだけでは効果が不十分な可能性

完全な初心者にとっては一定の効果が期待できるかもしれないが、本研究のように未トレーニングの被験者でもコントロールとの差異がはっきりしない結果となった。中級以上のホビーレーサーがMODだけで十分なVO2max向上を狙うのは難しい可能性がある。

 

疲労度と回復コスト

一方で、HVY1やHIIT、SITなど高強度トレーニングは回復に要する時間や身体的負荷も大きくなる。安易に高強度を増やすと、オーバートレーニングにつながるリスクがある。

 

■注意点

トレーニング強度を上げればVO2maxが向上しやすいという知見は得られたが、それをどのように自分のトレーニングプログラムに落とし込むかには注意が必要である。

 

上級者

  • 既に高いベースの持久力を有するため、一度の高強度トレーニングによるVO2max向上幅は小さくなりやすい。
  • それでも高強度領域(HIITやSIT)を取り入れることで地道に上積みを狙うことが重要。
  • 一方で過度な高強度トレーニングには怪我や疲労蓄積のリスクがあるため、HIITやSITは週2~3回に留めるなどメリハリが必要。

 

中級者

  • 練習量や頻度が比較的確保できる場合、高強度領域を取り入れるタイミングを計画的に設定すると効果的。
  • 重強度(HVY1・HVY2)の耐久走と、高強度(HIIT・SIT)のインターバルをうまく組み合わせることで、過度な疲労を避けつつVO2maxの継続的向上を狙うことが望ましい。
  • MODでのベース作りも重要だが、MODだけでは伸び悩む可能性があることを認識する。

 

初心者

  • いきなりHIITやSITなど極端な高強度を取り入れると、怪我や挫折のリスクが高まる。
  • まずはMOD~HVY1程度の耐久走で基礎体力やペダリング効率を高め、その後徐々に高強度トレーニングを導入する段階的アプローチが望ましい。
  • 目安としては、最短でも数週間の基礎期を経てから、週に1回程度の高強度インターバルを導入するのが安全。

 

いずれのレベルでも、トレーニングの継続性(一貫性)を保つことが大前提となる。高強度トレーニングは効果も大きいが疲労リスクも高いので、頻度と回復のバランスが不可欠だ。

 

以上の内容から、ロードレーサーがさらなるレベルアップを目指すのであれば、HVY2やHIIT、SITといった高強度領域を計画的に取り入れることが有効であるといえよう。ただし、高強度トレーニングには怪我・故障・オーバートレーニングのリスクがあることを踏まえ、十分な回復を確保することも重要になる。

 

参考文献

1. Inglis et al. (2024). Heavy, Severe, and Extreme, but Not Moderate Intensity Training Domains Significantly Improve VO2max over 6 Weeks. *Medicine & Science in Sports & Exercise*.

[Link](https://journals.lww.com/acsm-msse/abstract/2024/07000/heavy_,_severe_,_and_extreme_,_but_not.11.aspx)

2. Jem Arnold (@jem_arnold) のSNS投稿

[X (旧Twitter) ポスト](https://x.com/jem_arnold/status/1847863576247275923)