CTLに関する誤解とその活用法
CTL(Chronic Training Load:長期トレーニング負荷)は、アスリートがトレーニング負荷を長期的に評価するための重要な指標である。しかし、この数値に過度に依存し、トレーニング全体をそれに基づいて判断することは、必ずしも効果的ではない。Joe Frielのブログ記事「CTL Concerns」を参考に、CTLをどのように理解し、活用すべきかについて紹介する。
■CTLはフィットネスの指標であって、パフォーマンスに直結する指標ではない
CTLの数値が上昇することは、一般的にフィットネス(注1)の向上を意味するが、それがそのまま競技パフォーマンスの向上を保証するわけではない。Frielも述べているように、「フィットネス」と「パフォーマンス」は同義ではない。
(注1)フィットネスとは、体力や鍛錬度を包括的に示す概念である。具体的には、持久力や筋力などの身体能力、有酸素能力、スポーツ特性、健康状態といった要素を含む。トレーニングにおけるフィットネスは、長期的な鍛錬の成果としての体力レベルを指し、CTLなどの数値で表されることが多い。いわば、競技パフォーマンスを支える土台といえる。
例えば、FTP(Functional Threshold Power:機能的閾値パワー)は、CTLよりも競技パフォーマンスを示す指標として有用である。しかし、FTPですらレースに必要な様々な能力の一部しか反映していない。また、メンタルの強さや戦略的スキル、暑熱順化の度合い、補給戦略の巧拙といった要素も、競技パフォーマンスに大きく影響を及ぼす。
■強化期のCTL停滞は自然な現象
トレーニングの初期段階(基礎期)では、CTLの急激な上昇が見られることが理想的だ。しかし、強化期においては、CTLの増加は緩やかになるか、場合によっては停滞することもある。この時期の目的は「レース向けた準備」であり、単なるフィットネスの向上だけではなく、競技に必要な多面的なスキルや能力の強化が重視される。
したがって、CTLが停滞しているからといってトレーニングが失敗しているわけではない。むしろ、FTPやVO2max(最大酸素摂取量)の向上、レース特性に応じたトレーニングへに集中することが重要となる。
■自分の「リミッター」を知り、それを克服する
競技パフォーマンスの向上には、自身の弱点(リミッター)を特定し、それを克服するためのトレーニングが必要不可欠だ。Frielは、CTL、FTP、EF、VI、TSBなど、複数の指標を参照しながら、自分の弱点を見極め、進捗を評価することを推奨している。
例えば、スプリント力が不足している場合は、筋力トレーニングや全力スプリント等のメニューに取り組むべきだし、長時間にわたる持久力が課題ならば、ロングライドに時間を割くべきだろう。これらのトレーニングは、CTLの上昇につながらないケースもあるかもしれないが、レースにおけるパフォーマンス向上に大きく貢献するだろう。
■CTLだけにとらわれず、多角的なアプローチを
CTLは重要な指標であるものの、レースパフォーマンスを決定づけるものではない。トレーニングの目的に応じて、FTPやVO2maxといった他の指標もチェックしながら、自身のリミッターを克服するための戦略的なアプローチをとることが望ましい。また、最終的にレースパフォーマンスを予測・評価するに最良なのは「実際のレース」であることを忘れてはならない。
トレーニングの進捗を確認するためにCTL等の指標を活用しつつも、それに固執せず柔軟な姿勢で取り組むことで、より効果的な成果を得ることができるだろう。
参考文献
Joe Friel, *CTL Concerns*, Joe Friel's Blog, May 29, 2017. [http://www.joefrielsblog.com/2017/05/ctl-concerns.html]
TrainingPeaks, *Performance Management Chart (PMC)*, available at [https://www.trainingpeaks.com]