サドル高とパワーの関係とサドル高の調整方法
サドル高は、快適な走行や効率的なパワー出力を実現する上で極めて重要な要素である。適切なサドル高を見極めることで、パフォーマンスの向上だけでなく、膝や腰への負担も軽減できる。本記事では、サドル高とパワーの関係や、サドル高の調整方法について紹介する。
■パワーとサドル高の関係
サドル高を上げるにつれて、パワーはある一定のポイントまで向上する。しかし、そのポイントを超えると逆にパワーが低下する。この限界点の直前が、最適なパワーを引き出せるサドル高さとされる。ただし、この高さが快適性においても最適であるとは限らない。
サドル高さの調整方法には以下のようなものがある。
■ヒール・トゥ・ペダル法
初心者でも簡単にサドル高を設定できる方法として、ヒール・トゥ・ペダル法がある。具体的な手順は以下の通り。
- 自転車に乗り、ローラー台や壁を利用してバランスを取る。
- ペダルの中心にかかとを乗せ、後ろ向きにペダリングを行う。
- ペダルが最下点(BDC: Bottom Dead Center)に達したときに、膝が完全に伸びている状態が理想である。
注意点: この方法では、シューズの厚み、クリートの位置、サドルの後退位置、ペダリングスタイルなどを考慮しないため、目安として利用するのがよい。
■Greg LeMondの方法
以下の手順で股下の長さを基に計算する方法である。
- 壁に背を向けて立ち、サドルの圧力を再現するように平らな物を股に押し付ける。
- 床から股までの距離をセンチメートル単位で測定する。
- 測定値に0.883を掛けた値が推奨されるサドル高である。
注意点: この方法は、柔軟性や体型の個人差を考慮しない。
■角度計測(ゴニオメトリー)
ゴニオメーターを使用して膝の角度を測定する方法もある。
- 以下のポイントをつないでできる膝角度を計測する。
- 大転子(股関節の外側)
- 膝の中心
- 外くるぶし
- 膝角度が25~35度になるように調整する。
注意点:静的な計測であるため、動的な足の動きやライディングポジションを反映していない。
■動的な調整方法
最も効果的な方法は、Retulなどの動的な計測システムを使用することである。熟練したバイクフィッターが、膝や足首の角度をリアルタイムで測定し、身体的な制限を考慮して調整を行う。
■その他の注意点
・サドルの前後位置(セットバック)の調整
サドル高を設定した後は、サドルの前後位置も調整する必要がある。
- 後ろすぎる場合:パワー出力が低下する可能性がある。
- 前すぎる場合:膝への負担が増え、痛みを引き起こすリスクがある。
・ペダリングスタイルの影響
ペダリングスタイルによっても適切なサドル高は異なる。
- つま先が下向きのペダリング:サドル高を高めに設定する傾向がある。
- かかとを下げたペダリング:サドル高を低めに設定する傾向がある。
サドル高さの調整は、快適な走行や効率的なパワー出力を実現(場合によっては両立)するための重要な要素である。ヒール・トゥ・ペダル法やLeMondの方法を目安にしつつ、動的な計測や専門的なフィッティングを活用することで、最適なサドル高を見極めることができるだろう。
参考文献
BIKE FIT, Phil Burt, Boombury Publishing Plc