心拍変動（HRV）を使って病気の予兆を発見する方法
トレーニング中や重要なイベントの準備期間中に病気にかかることは、誰にとっても避けたい事態といえる。計画したトレーニングを病気でスキップすることで、目標達成の可能性が大きく損なわれることもある。本記事では、心拍変動（HRV）を利用して、体のストレスに対する反応を把握し、病気を予防する方法について紹介する。
■トレーニング負荷と病気の関係についての研究事例
フィンランドの研究者が冬季オリンピックに向けたクロスカントリースキー選手の成績と病気の日数の関係を調査した結果、メダリストは年間平均14日病気で休んでいたのに対し、メダルを獲得できなかった選手は平均22日間病気で休んでいた。また、オーストラリアスポーツ研究所の調査では、陸上競技選手の成功を左右する要因の一つとして、トレーニングを妨げる病気や怪我が挙げられている。
これらの研究は、トレーニング計画の80%以上を完了したアスリートが目標を達成する可能性が7倍高いことを示している。一方、病気の発症は主にオーバートレーニングと関連しており、大会の2か月前のトレーニング負荷が最も高い時期に50%の病気が発生している。
■トレーニング負荷が病気を引き起こす理由
トレーニング負荷が高い期間には、特に睡眠や栄養の質が重要になる。これらが不足すると、慢性炎症が発生し、免疫システムにストレスがかかる。この状態では、通常であれば簡単に対処できるウイルスや細菌が体内に侵入しやすくなる。その結果、風邪、喉の痛み、咳などの軽い症状から、肺や胃腸の感染症といった重篤な病気を引き起こす可能性が高まる。
■心拍変動（HRV）とは？
HRVは、ストレスが体に与える影響を評価するための信頼性の高い方法と考えられている。HRVが高いほど健康でフィットネスレベルが高いとされ、逆にHRVが低下するとストレス、疲労、燃え尽き症候群の兆候とみなせる。HRVを測定することで、体の疲労度合いを把握し、トレーニング負荷を適切に調整することが可能となる。
HRVは多くの健康管理や高パフォーマンス分野で使用されており、アスリートにおいては個人の基準値と比較し、回復度合いを視覚的に示すツールとして利用されている。アプリによっては、HRVデータに加え、トレーニング負荷やウェルネスメトリクスを統合した、包括的な情報を提供している。
■HRVから病気の予兆を発見する
HRVは、体のストレスレベルに敏感であり、病気の兆候を早期に捉えることができる。体がストレスを受けるとHRVは低下する。例えば、あるアスリートのHRVデータでは、病気が始まるとHRVが急激に低下したのに対し、安静時心拍数は病気発症から3日目に初めて上昇した。このように、HRVは神経系に直接作用するため、他の指標よりも早く変化を示す傾向がある。
■HRVとトレーニングの調整
HRVは、トレーニング負荷を調整する際の指標にもなる。HRVが高く、安静時心拍数が低い場合、体は負荷に対処できているため、高めのトレーニング負荷にも対応できると判断できる。一方、HRVが低下し、安静時心拍数が高い場合は、ストレスが増大しており、病気のリスクが高まっている状況であるため、トレーニング負荷は軽めに調整した方が無難といえよう。
計画されたトレーニング期間や重要なイベントに向けた準備中に病気にかかることは、目標達成の妨げとなる。HRVはストレスや回復の敏感な指標であるため、病気の兆候を早期に察知し、適切なトレーニング調整や回復手段を取るのに役立つだろう。
参考文献
Schwellnus M, Soligard T, Alonso J-M, et al. Br J Sports Med 2016;50:1043-1052.
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Wegerif S. How to Use HRV to Predict Illness. TrainingPeaks Blog. [https://www.trainingpeaks.com/blog/how-to-use-hrv-to-predict-illness/]
