2列ローテーション ~エシュロンとも呼ばれる一番複雑な形のローテーション~
■2列ローテーション
エシュロンとも呼ばれる2列ローテーションは一番複雑な形のローテーションです。ふつうは、ある程度引いてから先頭交代するわけですが、2列ローテーションでは、先頭に出ても動きが止まりません。先頭に出た瞬間に交代が始まるのです。その結果、全員がぐるぐると回転するように動きつづけることになります。全員で円を作って回っている感じです(図2.6)。回る向きは、風に応じて時計回りだったり反時計回りだったりします。2列のうち、前に上がっていくほうを速い列、後ろに下がっていくほうを遅い列と呼ぶことにしましょう。2列ローテーションをしている間、位置は変わりつづけます。とても難しいローテーションですが、できるようになるととても楽しいやり方でもあります。
図2.6. 2列ローテーションの基本形
- 速い列 時速43km
- 遅い列 時速40km
2列ローテーションは集中力が要求される技で、かなり練習しないとできるようになりません。欧州のレースでは風が強く、集団が小さく分断されることがよくあります。2列ローテーションが効果を発揮するのは、こういう風の強い状況、特に横風が強い状況です。
草も木もほとんどなく風が吹き付ける田舎の細い1車線道路でレースをしていたときの経験を紹介しましょう。たくさんの2列ローテーションができていました。当時の私はまだ若手で、自分よりずっと経験豊富な欧州の選手を相手にちゃんと戦えている、大丈夫だと思いながら走っていました。横風の走り方も身につけていました。ただ、2列ローテーションでは自分の位置を保つ努力が必要で、ミスるとすぐにちぎれてドラフトの圏外に出てしまいます。あのころはまだまだだった私のテクニックにいらついたのか、すぐ後ろの英国人選手がなにかどなったので、私はふり返りなにか問題がと言い返しました。集中力が切れたのは一瞬でしたが、その一瞬で英国人選手と私のふたりはちぎれ、集団から数メートルも遅れてしまいました。ふたりだけで風に立ち向かわなければならなくなってしまったのです。2列ローテーションに復帰するのに、2km弱もかかってしまいました。
横風が強ければ強いほど、2列ローテーションが大きな効果を発揮します。数年前にテキサス州で行われたレースのとあるステージがそのいい例です。東向きに128kmを走るロードレースで、風速4~5mの北風が勝負を分けるであろうことはだれの目にもあきらかでした。参加選手は100人。スタート直後、前方で激しい位置争いが始まります。3kmほど進んだころ、20人あまりが密な2列ローテーションで先行しはじめました。そのあと、差は開く一方。8kmも走らないうちにレースの大勢は決しました。先頭の2列ローテーションに入れなかった選手に勝ち目はないわけです。きれいに回る2列ローテーションと棒状で個別に風と戦うライダーとでは勝負になりません。
※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。
■著者:トーマス・プレン
1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。
■訳者:訳者:井口 耕二
翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。