トレーニングによる心臓の適応 ~スポーツ心臓の仕組みと獲得方法~
心臓は、定期的かつ適切なトレーニングによって最も顕著な変化を遂げる臓器の一つといえる。トレーニング積むことで、心筋繊維の数が増加し、毛細血管の発達や血流量が増えるため、心臓自体が非常に効率的な「ポンプ」へと変化していく。これを一般的に「スポーツ心臓」と呼び、未経験・非トレーニング時の心臓よりも高いパフォーマンスを発揮できるのが大きな特徴となる。
■スポーツ心臓の仕組み:大きなストロークボリュームと低い安静時心拍数
心臓が1分間に送り出す血液量(心拍出量)は、「1回拍出量(ストロークボリューム)×心拍数」で表される。トレーニングを積んだアスリートほど、1回の拍出量が大きくなるため、同じ量の血液を送り出すにも心拍数は少なくて済むようになる。
トレーニングを積んだサイクリストのストロークボリュームは、非トレーニング者の約2倍に達することもある。結果として、安静時心拍数(RHR)が非常に低く抑えられ、40拍/分やそれ以下になる例も珍しくない。
■酸素運搬能力の向上
運動時には筋肉がエネルギーを生み出すために酸素を必要とする。トレーニングによって心臓が強化されると、一度に送り出せる血液量が増え、運動中の心拍数上昇もあいまって、最大で40リットル/分の血液を全身に供給できるようになる。これは安静時の5リットル/分と比較すると最大8倍もの増加となる。これは、「筋肉に酸素を送り届けられる量」に直接影響するため、スポーツパフォーマンスにも非常に大きく影響する。
■スポーツ心臓を獲得する方法
スポーツ心臓を獲得するにはトレーニング強度がポイントになる。心臓の適応には、ある程度の高い心拍数を伴う運動強度が必要になる。たとえば短時間でも強度の高いインターバルトレーニング(HIIT)などを行うことで心拍数が高くなるまで追い込み、心臓への刺激を与えることで心筋や血管系の発達を促すことができる。
こうした適応は比較的早い段階で現れる。6週間程度 でも、安静時心拍数の顕著な低下が見られることがあり、継続的かつ適切なトレーニングを行うことで「スポーツ心臓」へと近づき、持久系競技でのパフォーマンスを大きく高めることができる。
参考文献
Guido Vroemen, Ron Van Megen, *The Secret of Cycling: Maximum Performance Gains Through Effective Power Metering and Training Analysis (English Edition)*, Meyer Meyer Sports, P25