自転車競技に求められる身体的条件
自転車競技には、10秒程度で完結する200mスプリントから、約5,000kmを23日間で走破するツール・ド・フランスのような超長距離レースまで、多様な種目が存在する。これらの種目では、短時間で強大なパワーを発揮する能力から、長時間にわたる持久力まで、幅広い身体能力が必要となる。本記事では、自転車競技における身体的条件やエネルギー供給機構などについて紹介する。
■自転車競技に求められる身体的条件
自転車競技のトップ選手は、一般的に以下の特徴を持つ。
・体脂肪率の低さ
長時間のペダリングや高強度のインターバルを効率よくこなすため、余分な脂肪が少ない身体的特徴を備えている。
・高い最大酸素摂取量(VO2max)
有酸素性運動能力の高さを示す指標である最大酸素摂取量が大きいことは、長時間高いパフォーマンスを発揮する上で不可欠である。
・優れた無酸素運動能力
ロードレース終盤のスプリントやトラック競技の加速・スプリント種目など、短時間で爆発的なパワーを必要とする場面では、無酸素性エネルギー供給能力が重要となる。
・強靭な下肢筋群
ペダリング効率を高める筋力と筋持久力を兼ね備え、特に大腿四頭筋やハムストリングスなどの下肢筋群が発達している。
■競技特性:ロードレースとトラック競技
・ロードレース
ロードレースでは、数時間にわたり一定の強度を維持しながら走行する高い有酸素性運動能力が求められる。さらに、レース途中のアタックや登り坂の加速、最終スプリントなど、無酸素的パワーを瞬間的に発揮する局面も多い。
・トラック競技
トラック競技は、持久力を要する種目から一瞬の爆発力が重要なスプリント種目まで多岐にわたる。短時間で勝負が決まる種目では、最大限のパワーを瞬発的に発揮できる無酸素性エネルギー供給が鍵となる。一方、スピード持久力が重要な種目では、高強度を維持できる能力が求められる。
ロード・トラックいずれの競技においても、戦術・戦略の立案、強いメンタル、ペダリングやコーナリング等のスキル面での習熟も重要となる。
■エネルギー供給機構
自転車競技では、強度や時間に応じてさまざまなエネルギー供給系が使用される。
・ATP-CP系(高エネルギーリン酸系)
- 瞬間的に大きなパワーが必要なスプリント(約10秒以内)
- アデノシン三リン酸(ATP)とクレアチンリン酸(CP)を主なエネルギー源とする
- ロードレースのゴールスプリントや短距離トラック種目で中心的役割を果たす
・解糖系(乳酸性エネルギー供給系)
- 10秒~数分程度の高強度運動に対応
- 血中乳酸濃度の上昇が過度になるとパフォーマンスが低下する
・有酸素性エネルギー供給系(酸化系)
- 長時間の運動を支える主なエネルギー源
- 血中乳酸濃度の上昇を抑えながら、高強度を維持する能力が求められる
参考文献*
スポーツ運動科学: バイオメカニクスと生理学 (スポーツ科学・医学大事典), W.E.ギャレット Jr. (編集), D.T.カーケンダル (編集), 西村書店, P660