アスリートの体調不良の傾向とトレーニング中断への対処法
競技力向上を目指すアスリートにとって、体調不良は避けて通れない課題である。国際大会では登録選手の6~17%が体調不良を経験すると報告されており、特に女性アスリートやパラリンピック選手の罹患率が高い傾向にある。夏季大会よりも冬季大会で体調不良が増加する背景には、寒冷や乾燥、環境変化といった要因が挙げられる。
■体調不良の傾向と影響
最も多い症状は呼吸器系に関連するものであり、「のどの痛み」「倦怠感」「頭痛」が一般的である。感染症や環境要因が主な原因で、競技パフォーマンスに大きな影響を与える。たとえば、発熱がある場合、有酸素能力や筋力が低下し、特に持久系種目では顕著なパフォーマンス低下が見られる。
■トレーニング中断時の対応
体調不良やその他の要因でトレーニングを休まざるを得ない場合、その後の復帰方法が成果を左右する。以下では、「サイクリスト・トレーニング・バイブル」で推奨されている具体的な対策を紹介する。
・短期間(3日以内)練習を休んだ場合
トレーニング計画を変更せず、通常通りに再開する。過剰に取り戻そうとしないことが重要だ。
・中期間(4~7日間)練習を休んだ場合
トレーニング内容を再調整し、優先すべき練習を選択する。休養期間中の負荷を詰め込みすぎないことが大切になる。
・1~2週間練習を休んだ場合
トレーニング計画のメゾサイクルを1つ戻し、将来取り組む予定だった期を丸ごと 1つ計画から削除する。休んだ分を既存のトレーニング計画に詰め込まないように留意する。
・2週間以上練習を休んだ場合
基礎期から再構築する。長期間の休養後は体力が低下しているため、無理をしないことが求められる。計画を適切に修正すれば、体力の再構築は可能なので、焦らずに練習を積み上げることが重要になる。
■リスク要因と予防策
アスリートの体調不良には、様々な要因が複合的に影響する。対策としては、以下のようなアプローチが挙げられる。
・トレーニング強度の適切な管理
長時間や高強度のトレーニングを避け、計画的な休養日を設ける。
・栄養バランスの改善
免疫機能を支えるタンパク質やビタミン、ミネラルを十分に摂取する。
・十分な睡眠時間の確保
睡眠時間の不足は免疫機能の低下につながるリスクがある。なるべく長い睡眠時間を確保することで、トレーニング効果・パフォーマンスの向上も併せて期待できる。
・環境への対処
海外遠征時の時差ボケ対策や、乾燥・寒冷への準備、人混みでのマスクの着用等を徹底する。
風邪などの体調不良はロードサイクリストにとっても身近な問題であるが、適切な対応と計画修正によりリスクを最小限に抑えることが可能といえる。運悪くトレーニング中断となっても、焦らず計画的に復帰を目指すことで競技力を長期的に維持できる。
参考文献
- Gleeson M (2016) Immunological aspects of sport nutrition. *Immunology and Cell Biology*, 94:117-123.
- Gleeson M, Bishop NC and Walsh NP (2013) *Exercise Immunology*. London: Routledge (Taylor and Francis).
- International Olympic Committee consensus statement on load in sport.
- Meeusen R, Duclos M, Foster C, Fry A, Gleeson M, Nieman D, Raglin J, Rietjens G, Steinacker JM, Urhausen A (2013). Prevention, diagnosis, and treatment of the overtraining syndrome: Joint consensus statement of the European College of Sport Science and the American College of Sports Medicine. *Medicine & Science in Sports & Exercise*, 45(1):186-205.
- Halson SL (2014). Monitoring training load to understand fatigue in athletes. *Sports Medicine*, 44(S2):139-147.
- [mysportscience.com - How common are illnesses amongst athletes?](https://www.mysportscience.com/post/2016/08/19/how-common-are-illnesses-amongst-athletes)
- ジョー・フリール (著), 児島 修 (翻訳). *サイクリスト・トレーニング・バイブル*. OVERLANDER株式会社.