2列ローテーションのやり方
■2列ローテーションのやり方
まずはまっすぐな2列ローテーションを見てみましょう。ライダーは縦にずらりと並び、すでに説明したふつうの1列ローテーションによく似ています。違うのは、2列ローテーションでは、先頭に出て風よけがいなくなった瞬間、横にずれ、最後尾に向けて下がっていく点です。1列ローテーションでは、先頭に出た選手は数秒でも数分でも、自分の好きなだけ引くことができます。対して2列ローテーションでは、だれも先頭にとどまりません。先頭はつねに交代するのです。ここについては、第5章で詳しく説明します。
もう1点、1列ローテーションと2列ローテーションでは、後ろに下がっていくやり方が違います。1列ローテーションなら、自分の好きなペースで下がれるので、最後尾までさっと下がることもできますし、じっくりと時間をかけて下がっていくこともできます。対して2列ローテーションでは、必ずほかのライダーと連係して動かなければなりません。だれかが先頭を譲り、下がりはじめた次の瞬間には、次のライダーが横にずれて下がりはじめます。このような形では、風を受ける時間がほんの数秒となります。トレインの後ろに下がっていくあいだも、すぐ前にやはり下がっていく選手がいて、その人のドラフトに助けられる格好になるからです。
こう説明されただけでは簡単に思えるかもしれませんが、実際にやるときには熟練度が大きな問題になります。気軽なトレーニングライドで仲間としているときには完璧だと思えても、実際のレースで逃げているときの2列ローテーションはまるで別物だったりします。トレーニングの速度であれば、少々失敗しても体力でカバーできます。対してレースでは、限界ぎりぎりのスピードで走っており、みな、体力に余裕などありません。ですから、下がるとき前の人のドラフトを上手に使えなければ、あるいは、いいタイミングで速い列の後ろに入れなければ、足を大きく使ってしまうことになります。集中が一瞬途切れただけで英国人選手と私がちぎれたように、全員が緊密に協力して動く2列ローテーションでは、少しでも失敗すると大きな傷を負うことになります。
2列ローテーションは難しいですし、ぎりぎりまで近づいた状態で走らなければならないので、できるかぎり機会をとらえて練習することをお勧めします。まずは、風のない状態でまっすぐな2列ローテーションを回せるようになりましょう。
※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。
■著者:トーマス・プレン
1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。
■訳者:訳者:井口 耕二
翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。