ピーク調整時にオーバーリーチングにいたるまで追い込む必要はあるのか?
レース前に適切に重い負荷のトレーニングに取り組むことで、ピークパフォーマンスを実現できることはよく知られている。他方、重要レースの日が近いピーク調整のタイミングで、オーバーリーチングの状態にまで追い込む必要はあるのだろうか。今回は、「Functional overreaching: The key to peak performance during the taper?」を参考に、ピークパフォーマンスとオーバーリーチングの関係についての研究を紹介する。
■研究方法
・対象者
- 訓練を受けた男性トライアスリート 33名を対象
- グループ分け
- オーバーロードトレーニング(OL)群:23名
- 通常トレーニング(CTL)群:10名(対照群)
・実験期間
- 1週間:中程度のトレーニング
- 3週間:オーバーロードトレーニング(負荷増加)
- 4週間:テーパリング(負荷を減らして回復)
→期間中にサイクリングパフォーマンスと最大酸素摂取量(VO2max)を測定した。
・グループ分類(OL群内でさらに分割)
- パフォーマンス低下と強い疲労感を伴う「(機能的)オーバーリーチング(F-OR)群」(11名)
- 一時的な疲労はあるが、パフォーマンス低下がない「急性疲労(AF)群」(12名)
■結果
・パフォーマンス
- AF群はF-OR群やCTL群と比べて、小~大の範囲でより高いパフォーマンス向上(2.6 ± 1.1%)を示した。
- F-OR群ではパフォーマンス向上が見られず、過負荷による悪影響があった。
・VO2max
- CTL群とAF群では、ピークパフォーマンス時にVO2maxが有意に増加。
- F-OR群ではVO2maxの改善が確認されなかった。
・ピークパフォーマンスのタイミング
- CTL群:60%がテーパリング前半(1~2週目)でピーク
- AF群:83%がテーパリング前半でピーク
- F-OR群:73%がテーパリング前半でピーク
→オーバーリーチングにまで追い込むかどうかに関わらず、テーパリング前半にピークが訪れた。
・感染症の発症リスク
- 研究中に10件の感染症が発生
- 発症率:F-OR群(70%) > AF群(20%) > CTL群(10%)
- F-ORは免疫機能低下のリスクが高い
■結論
- テーパリング前の負荷増加は、適切に行えばパフォーマンス向上につながるが、オーバーリーチングのレベルまで追い込むと逆効果。
- 重いトレーニングを直前に取り組んでも、ピークパフォーマンスのタイミングは遅れない。つまり、負荷の高いトレーニングはピークパフォーマンスの実現に有効といえる。
- オーバーリーチングのレベルまで追い込むとパフォーマンスの低下や免疫系の問題(感染症リスクの増加)につながるリスクが高い。
本研究は、適度な過負荷をかけるトレーニングはピーク調整に有効だが、オーバーリーチングの状態にまで追い込んでしまうと逆効果となることを示唆している。ピークパフォーマンスを最大化するには、適切なトレーニング量の見極めと疲労の管理が重要といえよう。
参考文献
Aubry, A., Hausswirth, C., Louis, J., Coutts, A. J., & Le Meur, Y. (2014). Functional overreaching: The key to peak performance during the taper? *Medicine & Science in Sports & Exercise*. Advance online publication. [https://journals.lww.com/acsm-msse/Abstract/publishahead/Functional_Overreaching___The_Key_to_Peak.98132.aspx]