2列ローテーションの勘所 ~先頭に出た瞬間の引きとそこからの横ずれ~

【レース対策情報・レース戦術】【速くなるためのヒント一覧】2025年1月27日 10:45

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

 

■引きと横ずれ

2列ローテーションの勘所になるのは、先頭に出た瞬間の引きとそこからの横ずれです。ここではタイミングとペースがすべてです。まず、引くのはごく短いあいだになります。前の選手が横にずれた瞬間、加速したくなるかもしれません。絶対にやらないこと。前に進む列も後ろに下がる列も一定ペースでないと、2列ローテーションは成立しません。たとえば、風に対して突きすすむほうの列が時速43kmくらい、下がるほうの列が時速40kmくらいという具合です(サイクルコンピューターがあれば、引くときもスピードを一定に保ちやすくて便利です。もちろん、一番大事なのは、前の選手のすぐ後ろにつきドラフトを十分に活用することです)。上手に列を乗り換えるには、A選手とB選手、ふたりが協力し、いいタイミングで動かなければなりません(図2.7)。完璧にできれば、下がっていくB選手の前にA選手が滑り込みつつ、スピードを緩める形になるはずです。A選手の後輪が、下がっていくB選手の前輪のすぐ前に滑り込んでくる感じです。スピードが速い「引く」列から遅い「下がる」列に移る際には、遅いほうの列に合わせてスピードを落とします。

 

図2.7. A選手のほうがB選手より少しだけ速く走っている。A選手は、ここからB選手の前へ出るイメージでずれていく。速い列の先頭から左にずれ始めると同時に若干減速。遅い列の先頭になったら、次の選手が前にずれてくるまで速度を維持する。

図2.7. A選手のほうがB選手より少しだけ速く走っている。A選手は、ここからB選手の前へ出るイメージでずれていく。速い列の先頭から左にずれ始めると同時に若干減速。遅い列の先頭になったら、次の選手が前にずれてくるまで速度を維持する。

 

先頭交代がスムーズにできるかどうかは、このふたりにかかっています。A選手の横ずれが早すぎればB選手の前輪をなぎ払ってしまいますし、引きが長すぎればB選手が風を受けすぎて疲れてしまいます。B選手も、下がるタイミングが早すぎたり下がる幅が大きすぎたりすれば、A選手とのあいだにすきまがあいた状態で下がっていくことになります。

A選手が横にずれるタイミングは、集団の前進速度とローテーションの回転速度によります。このタイミングは練習をくり返して身につけるしかありませんが、目安としては、隣の前輪より前に自分の後輪が来るまで待ったら遅すぎ、です。自分の後輪がB選手の前輪とぴったり重なるくらいで動きはじめるのがいいでしょう。

 

自転車レースの駆け引き(RTC)表紙

※この記事は、『自転車レースの駆け引き』井口耕二訳・OVERLANDER株式会社(原題:『RACING TACTICS FOR CYCLISTS』トーマス・プレン、チャールス・ペルキー著・velopress)の立ち読み版です。『自転車レースの駆け引き』は、ロードレースやクリテリムで上手に走り賢く戦うための戦術・テクニック・スキルを、豊富なイラストを用いてわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:トーマス・プレン

1970年代初頭から長年自転車競技にかかわる。アマチュアとして、また、プロとして長いキャリアを誇り、1986年にはUSPRO選手権で優勝。また、レッドジンジャー/クアーズクラシックの13回すべてを完走した数少ないサイクリストとしても知られている。全米選手権で常に上位に入る実力の持ち主で、1982年全米タイムトライアル選手権優勝チームのメンバーでもある。現在、コロラド州ボールダー在住。キャットアイ・サービス&リサーチセンターで所長を務めるとともに、みずから立ち上げた消費者調査とコンサルティングの会社ボールダースポーツリサーチの社長を務めている。自転車製品供給者協会の副会長でもある。常勤の職をふたつ兼務し、家族もいるが、ふつうの人がガレージセールに行くような熱心さで、いまも週末にはレースに参戦している。

 

■訳者:訳者:井口 耕二

翻訳者。1959年生。東京大学工学部化学工学科卒、オハイオ州立大学大学院修士課程修了。53歳でロードバイクに乗り始め、ニセコクラシック年代別3位、UCIグランフォンド世界選手権出場など、ロードレースを中心に活動している。訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス永遠(とこしえ)のヒーロー』(アメリカン・ブック&シネマ)などがある。