自転車競技のエネルギーコスト

【FTP・LT・VO2max】【ヒルクライム・上り】【速くなるためのヒント一覧】2025年2月11日 16:23

自転車競技のパフォーマンス向上には、エネルギーコストについての理解が役に立つ。

 

■平坦路の場合

以下の図は、平坦路走行時のスピードと酸素摂取量(VO2)の関係を示したもので、スピードが上昇するとともにVO2が増加することを示している。

 

自転車競技における平地を走行する際のスピードと酸素摂取量(VO2)の関係

平坦路走行時のスピードと酸素摂取量(VO2)の関係

 

およそ20mph(約32km/h)までは、VO2は体重に応じてゆるやかに増大する。しかし、それ以上になると空気抵抗が急速に増加するため、酸素コストも急激に増加する。空気抵抗はスピードの二乗に比例し、選手の正面面積(前方投影面積)にも大きく左右される。

体格の大小は、自転車競技中のエネルギーコストにも影響する。平地を一定スピードで走行するとき、体重が重くなるほど(筋肉量が多くなるほど)出せるパワーの絶対値は増加する(VO2も増加する)。その一方で、選手の前方投影面積は、体重の2/3乗の割合で増加するため、大柄な選手は空気抵抗の増加分を上回るパワーを発揮しやすく、平坦路の長距離タイムトライアルで有利になる場合が多い。

 

■上りの場合

しかし、上りでは状況が一変する。坂を上る際に必要とされるエネルギーは、バイクと選手の総重量を鉛直方向に引き上げるための仕事量に依存するため、空気抵抗の影響は小さくなる。さらに上りではスピードが低下するため、空気抵抗も大きく減る。その結果、上りにおいては体重当たりの最大酸素摂取量の体重比が大きい小柄な選手のほうが有利になる。

 

■VO2の推定式

McColeらの研究では、約100回におよぶ測定データをもとに、32~40km/時の範囲で有効なVO2の推定式(下式)が示されている。その式は次のとおりである。

 

VO2 = -4.50 + 0.17VR +0.052VW + 0.22WR

 

上記の式では、VO2はl/分、VRは走行スピード(km/h)、VWは風速(km/h)、WRは乗り手の体重(kg)を示している。この式はどのようなケースでも適用できるわけではないものの、条件を限定すれば変動の70%以上を説明できるとされている。少なくとも研究対象となった32~40km/hの範囲では、この式を用いて自転車競技者のエネルギー消費を大まかに推定できると考えられる。

 

このように、平地での空気抵抗と上りでの重量負荷という二面性が、自転車競技におけるエネルギーコストを大きく左右している。大柄で体重の重い選手は高いパワーの絶対値を出せるため平坦路での高速走行に長け、小柄で体重の軽い選手は高いパワー・ウェイト・レシオ(W/kg)を活かして山岳ステージや登坂でのアドバンテージを得やすい。そのため、レースの地形・区間特性に応じて、それぞれの体格の選手が有利になりうると考えられる。

 

参考文献

スポーツ運動科学: バイオメカニクスと生理学 (スポーツ科学・医学大事典), W.E.ギャレット Jr. (編集), D.T.カーケンダル (編集), 西村書店, P660-661

スポーツ運動科学: バイオメカニクスと生理学 (スポーツ科学・医学大事典) W.E.ギャレット Jr. (編集), D.T.カーケンダル (編集) 西村書店 表紙