VO2maxとLTを最大化するトレーニング戦略

【FTP・LT・VO2max】【初心者のためのヒント】【期分け・練習計画】【速くなるためのヒント一覧】2025年2月24日 09:21

ロードレースで高いパフォーマンスを発揮するためには、VO2max(最大酸素摂取量)とLT(乳酸閾値)という2つの生理学的指標の活用が重要になる。VO2maxは、高強度運動時に身体が取り込める酸素の上限を示す値であり、LTは乳酸が急激に蓄積してしまう境界強度を指す。いずれも持久力を支える根幹となる要素だが、両者にはそれぞれ特性やトレーニング効果の出やすさに違いがある。今回は、この2つの指標を最大限に高めるトレーニング戦略について紹介する。

 

■VO2maxとLTの概要

・VO2maxとは

VO2maxは1分間に体重1kgあたり取り込める酸素の最大量(ml/kg/分)を示す指標である。全力に近い高強度運動を行う際に、筋肉に供給できる酸素の限界を示すものであり、6~10分程度しか維持できない高強度領域で発揮される。一般成人の平均VO2maxは約35 ml/kg/分とされ、一流アスリートでは65~80 ml/kg/分、トップレベルでは90 ml/kg/分を超えた例もある。女性は男性に比べ5~15%ほど低い数値を示す傾向がある。VO2maxは遺伝的要因や体重変化の影響を受けやすく、LTほどの大きな向上は難しいとされる。

 

・LTとは

LTは、運動強度を上げていく過程で、乳酸の産生量が処理量を上回り急激に血中濃度が上がる境界点を指す。一般的に40~60分間程度維持できるペースやパワー、あるいは血中乳酸濃度が4 mmol/L前後に達する強度がLTに相当するとされる。これはFTP(機能的作業閾値パワー)に近い。LT(FTP)がわかれば、トレーニングの目標強度を正確に設定できるだけでなく、オーバートレーニングを回避しつつLTを効率的に向上させることが可能となる。

 

■なぜVO2maxとLTの双方が重要か

VO2maxが高ければ6~10分といった短時間・高強度のパフォーマンスにおいて優位性を発揮しやすい。一方、LTが高くなれば長時間にわたり高出力を持続できる能力が向上する。実際のレースでは、VO2maxを超えるレベルの高強度に何度も対応する必要があるだけでなく、レース全体を通して一定強度を長く維持することも求められる。すなわち、レースパフォーマンスの向上には、VO2maxを高めることと同時に、LTをVO2maxにできるだけ近づけることが重要になる。

 

■VO2maxを高めるトレーニング

・高強度インターバルトレーニング(HIIT)

VO2maxを伸ばすには、心拍数が最大近くに達する負荷を断続的にかける高強度インターバルトレーニングが効果的といわれている。たとえば、4~5分間の高強度走(VO2maxの90~95%程度)を行い、その後3~4分間のアクティブリカバリーをはさむ方法が挙げられる。高高度とアクティブリカバリーの時間の比率の分配方法のバリエーション(メニューの種類)は多岐にわたるが、合計で10~20分ほどのVO2max領域で負荷をかけることがの望ましい。HIITは筋肉だけでなく心肺にも非常に大きな負荷がかかるため、基礎期を経て有酸素運動能力の基礎を十分に構築してから取り組むことが望ましい。

 

・回復期間

VO2maxをターゲットとするインターバル後には、最低でも36~48時間の回復期間を要するとされる。というのも、筋肉だけでなく中枢神経系への負荷も大きいからだ。過度なトレーニングは逆効果になりやすいため、競技レベルに応じて週1~2回程度あるいは2週に1回など、頻度を調整して取り組むことが重要になる。

 

■LTを高めるトレーニング

・中~高強度インターバル・テンポ走

LTを高めるトレーニングでは、VO2maxほどの高強度ではなく、やや抑えた中~高強度(いわゆるFTPやSST強度)で一定時間を長く維持するトレーニングが一般的だ。たとえば、4分×8~10本や8~10分×4~5本といったインターバルトレーニングなどがある。レストは短めに設定し、合計で30~60分程度、LT付近で負荷をかけ続けるのが望ましい。

 

・エネルギー管理と回復

LT付近の強度はグリコーゲン消費が多くなり、体へのストレスも中程度以上にかかる。そのため、LTトレーニングを繰り返す場合は、充分な糖質補給と回復を意識する必要がある。筋グリコーゲンの回復には通常48~72時間を要することから、VO2maxトレーニングと比較して回復期間がさらに長くなる場合もある。週1~2回程度を基本に、コンディションやレーススケジュールに応じて取り組み頻度を調整することが望ましい。

 

■組み合わせの原則:80/20ルール

VO2maxとLTの双方を無理なく伸ばすには、練習全体の80%を低~中強度トレーニング(有酸素能力を高めるベーストレーニング)とし、20%を高強度トレーニングに振り分ける「80/20の原則」が有効とされる。初心者であれば、週の大半は低強度やテンポ走をメインとし、週2回程度のVO2maxインターバルまたはLTインターバルを組み込むとよいだろう。競技レベルが上がればこの頻度を上げる必要が出てくるが、初心者の段階で強度を上げる頻度を欲張りすぎると回復が追いつかず、オーバートレーニングにつながりやすいので注意が必要だ。

 

■測定とアップデート

・VO2maxとLTの測定

VO2maxとLTの実用的な測定方法としては、パワーメーターを利用した、VO2maxパワーやLTパワー(FTPとほぼ同じ)を測定するのが一般的だ。サイクルコンピューターによっては走行データから自動的に算出してくれるものもある。他には、心拍数や年齢等から推定する計算ツールもあるので、トレーニングの初期段階であれば参考数値として利用するのも一案だろう。精緻な測定には専門の施設での呼気ガス分析装置を用いた漸増負荷テストが最適といえる。

 

・継続的なアップデート

VO2maxやLTは、トレーニング量や期間によって変化するため、定期的なテストやレース結果の分析でアップデートすることが重要である。例えば、体重が大きく変動した場合や長期的な休養明けなどは、これらの数値に変化が生じやすい。最新のデータに基づいてトレーニング強度を再設定することで、効果的かつ安全なパフォーマンスアップが期待できる。

 

■戦略的活用:レースパフォーマンスへの応用

・LTとVO2maxの差を縮める

長距離ロードレースでは、VO2maxに近い強度をより長く維持できる選手が強いといわれる。すなわち、VO2maxそのものが高くてもLTが低いと長時間の高出力維持が困難になる。逆にLTが高いがVO2maxが低い選手は、レースの勝敗を決定づける高強度への対応が必要な局面でちぎられてしまう可能性が高まる。両者の差を縮める(LTをVO2maxに近づける)ためには、ベーストレーニング(有酸素能力の向上)+定期的な高強度刺激という組み合わせが重要になる。

 

・レース展開への対応

集団走行では、強度の上下が繰り返される。特に登りやアタック合戦など短時間高強度(VO2max領域)への対応力が勝負を左右する局面がある一方で、長時間にわたってLT付近で巡航を強いられる展開も少なくない。レース全体を通して高いレベルを維持し、アタック時には一段階上の出力を出せるよう、双方の能力を高めることが望ましい。

 

■まとめ

VO2maxとLTはいずれも持久系スポーツの核心をなす指標であり、特に初心者~中級者であれば、その両方を最大化することで総合的なパフォーマンスの飛躍的な向上が期待できる。VO2max向上には高強度インターバルが効果的だが、導入時期や頻度には注意が必要になる。一方、LTは比較的改善しやすく、レース全体の持久力を支える基盤となる。最終的には、LTをVO2maxにどこまで近づけられるかが、長いレースでのパフォーマンスに大きく影響する。

トレーニングの実施にあたっては、テストや各種デバイスを活用し、常に最新の体力レベル応じて強度を調整することが望ましい。さらに、適切な回復と栄養補給を組み合わせることで、オーバートレーニングのリスクを低減しながら、VO2maxとLTを最大限に高めることができるだろう。