SFRのメリット・限界・実施時期について整理
ロードバイクのトレーニング手法として広く知られるSFRは、低ケイデンス・高トルクでペダリングを行うことで、神経筋適応やペダリング効率の向上を狙った練習だ。SFRのトレーニング効果についてはさまざまな議論があるが、現時点で一貫したエビデンスが示されているのは「ペダリング効率の向上」や「より多くの筋線維を動員することで筋持久力をサポートする」という点だ。今回はSFRをどのように活用すべきかという観点から、そのメリット・限界・実施時期について整理する。
■SFRの基本概念
・定義と目的
SFRは40~60rpm程度の低いケイデンスで高めのトルクを継続してかけることを主眼とした自転車特有のトレーニング方法である。筋力向上を直接狙うというよりは、ペダリング局面ごとの力発揮パターンを最適化し、神経筋協調性を高めることが重要な目的とされる。低ケイデンスは角速度(rad/s)が低下し、同一パワーを出すには大きなトルクが必要になるため、主動筋の収縮様式が平時とは異なった刺激を受ける。
・従来の誤解と新たな視点
従来は「自転車に乗りながら筋力アップを図る」との目的でSFRが語られるケースが多かったが、実際にはスクワットなどのレジスタンストレーニングがもたらす高負荷と比べると、ペダリングで得られる最大負荷は限定的といえる。そのため、筋肥大や最大筋力向上を主眼とするならウェイトトレーニングとの併用が望ましいという見解が近年では支持されている。一方で、低ケイデンスによって「通常のケイデンスでは動員しきれない筋線維にまで刺激が届く」ため、筋持久力や高強度トレーニングを支える基盤づくりに役立つと指摘する向きもある。
■SFRにおける生理学的・力学的背景
・神経筋適応
低ケイデンス・高トルク環境では、大腿四頭筋や大臀筋の活動量が増大し、より多くの筋線維が動員される。とりわけVO2maxの60~80%前後の強度で回転数を落とすと、必要となる筋活動量が著しく増え、筋持久力を高める刺激になるとされる。同時に、ペダリングエコノミー(経済性の向上 = 一定のパワーを出す場合の酸素消費量の低減)にも寄与する可能性がある。
・力学的要因
パワー(W)は「トルク(Nm)×角速度(rad/s)」で表される。ケイデンスを下げると角速度が下がるため、同じパワーを維持するにはトルクを増やさなければならない。これが高トルク状態でのペダリングスキル向上や、上死点を含む各位相での力の入れ方を意識化する訓練になる。同時に、特定の関節や腱に負荷が集中し怪我や故障を誘発するリスクがあるため、フォームやバイクフィッティングの適正化が欠かせない。
■SFRがもたらす効果と限界
・主な効果
筋線維の動員範囲拡大
通常のケイデンスでは使いきれない筋線維まで動員し、筋持久力や疲労抵抗力の向上につながる。脚全体のより多くの組織を動員しているため、高強度インターバルトレーニングやレース時の追い込みでも高い出力を支えやすくなると指摘する向きもある。
ペダリング効率の向上
低回転で力の入力方向を意識化しやすくなるため、ペダルストロークの改善や不要な筋活動の抑制につながる。実際に同一パワー下での酸素消費量が減り、運動経済性が高まったという報告もある。
高強度トレーニングへの橋渡しの役割
ベース期にSFRを行うことで、多くの筋線維が有酸素的・持久的に適応しやすくなる。結果として強化期や調整期にVO2maxインターバルやスプリント練習を始めた際、早期にピークパワーが向上する可能性が指摘されている。
・限界と注意点
最大筋力・筋肥大への直接的効果は限定的
ペダリング動作のみで得られる負荷には限界があるため、純粋な筋肥大や最大挙上重量を伸ばす目的には向かない。ウェイトトレーニングとの併用であれば有効と考えられる。
VO2max・FTP向上に寄与説への疑義
SFRによって、VO2maxやFTPが大幅に上昇する可能性は低い。これらの指標を大きく伸ばすには、(低ケイデンス・高トルクといった縛りを設けない通常の)高強度インターバルトレーニングが効果的であるとする研究が多い。
関節・腱への過負荷リスク
ケイデンスを極端に下げて無理にトルクを高めると、膝や腰に過度なストレスがかかる。サドル高やクリート位置、ウォームアップなどを十分に行った上で、段階的に負荷を上げる必要がある。
■実践的活用方法
・基礎期におけるSFR
- 目的: 有酸素運動のベース強化と筋持久力向上
- 推奨ケイデンス: 50~60rpm
- 強度: FTPの70~80%前後(L3~SST付近)
- セット構成: 10~15分×3セット程度(2~3分)
- 頻度: 週1~2回
- 注意点: ペダリング時の足の位置を意識し、ケイデンスを下げてもペダリング動作が乱れないようフォームを安定させる。
基礎期にこうした中強度の低ケイデンス走を取り入れると、筋線維の動員比率が高まり、後の強化期で高強度トレーニングを開始した際に筋肉の適応が促進されるとされる。
・疲労抵抗力強化型SFR
- 目的: 筋肉の疲労抵抗力強化
- 推奨ケイデンス: 40~50rpm
- 強度: FTPの85~95%(SST~FTP領域)
- セット構成: 5分~8分×4~6セット(レスト3分)
- 注意点: 過負荷をかけすぎると関節を痛めるリスクがあるため、セット数や強度は段階的に調整する。
・高強度トレーニング併用時の注意点
強化期やレース直前期(調整期やレース期)にVO2maxインターバルやスプリントトレーニングを行う際にも、一部SFRを残しておくことで動員される筋線維の比率を維持しやすいと考えられる。ただし、全体の疲労度を管理しながら実施しないとオーバートレーニングに陥る可能性があるため、回復走やオフ日の設定を適切に行う必要がある。
■結論
SFRは「筋力トレーニングの代替」としてではなく、ペダリング効率や筋持久力・疲労抵抗力を底上げする「補助的トレーニング」として捉えるのが現時点では妥当といえる。基礎期に取り入れることで筋線維の動員比率を底上げし、強化期以降の高強度トレーニングをより効果的に行える可能性が示唆されている。ただし、SFRのみで全ての持久力指標や最大筋力を伸ばすことは困難であるため、高強度インターバルやレジスタンストレーニングとの組み合わせて行う方が望ましい。
参考文献・サイト
TrainingPeaks:Bobo, L. Why and When to Use Low-Cadence Intervals in Cycling Training. https://www.trainingpeaks.com/blog/low-cadence-intervals-cycling/
https://abeken-blog.com/2024/08/07/sfrtraining/
https://www.bicycle-axis.com/column/cadence/
https://orca-school.com/sfr-pedaling/