LTを上げることが当面の目標
初めてLTという用語を知った方は、「なんだろう」と首をかしげるかも知れません。ロードレース用語にはLSDのように日常生活では絶対使わないものの、ロードレース用語として重要な言葉がたくさんあります。LTはその代表格で、これを聞けばそのひとのおおよその持久力がわかる大事な指標です。
LTとは
■急激にきつくなり、長時間運動を続けられなくなるポイント
LTは、日本語では乳酸閾値(にゅうさんいきち・にゅさんしきいち)といい、原語(英語)のLactate Thresholdの単語の頭文字をとった略語です。閾値ということば自体が日常生活では聞かないので、これまたピンとこないかも知れませんが「限界値」「分かれ目」「境界線」「区切り目」といった言葉で置きかえてもらったらわかりやすいと思います。
LTをごくごく噛み砕いていうならば、「そのポイントを超えると急激にきつくなり、長時間運動を続けられなくなる運動強度」ということです。みなさんも、ロードバイクや、ランニングでどんどんスピードを上げていくと、突然息が切れ足に疲れがたまってきてきつくなるポイントがあることを感じたことがあると思います。その急激にきつくなるポイントのことをLTと言います。人間の体は、LT以下だと比較的楽に感じて長時間運動を続けられるのですが、LTを超えると余り長くは運動できなくなります。
■LTを超えると血中乳酸濃度が高まる
なぜLTというかというと、その時に体の中で急激に乳酸と呼ばれる物質の濃度(血中乳酸濃度)が高まっているからです。乳酸が急激に増え始める区切り目なので、「乳酸閾値(LT)」というわけです。
なぜそんなことがおこるのでしょうか?
人間の体はひじょうに複雑なしくみでできていて、運動のきつさや長さによって様々な方法でエネルギーを生み出し体を動かします。このLTというのは、エネルギー供給方法が長時間維持できる脂肪をたくさん使う方法から、糖をたくさん使う方法に変わるポイントなのです。糖をたくさん使うようになると、エネルギーを体が生み出す過程で乳酸の形にかわります(この乳酸はあとでまたエネルギーとして使われます)。そこで、乳酸が急激に増え始めるわけです。
■運動強度が高くなると糖をたくさん使うようになる理由
ついでなので運動強度が高くなると糖をたくさん使うようになる理由も説明しておきます。
きつい運動をするとそれだけたくさんのエネルギーを生み出す必要がありますが、脂肪は構造が複雑で使うのに時間がかかるのでエネルギー供給が間に合わなくなってしまいます。しかし糖は構造が比較的単純なので、脂肪よりははるかに速くエネルギーに変えられます。そこでエネルギー供給が脂肪でまかないきれなくなると、その不足分を糖で補うようになるわけです。
LTを表す指標
ロードバイクでLTを表す指標としてよく使われるのは、心拍数かパワー(W:ワット)です。
■LT心拍数(LTHR)
心拍数で言えば、心拍数が160回/分くらいで毎回急激にきつくなるようであれば、LT心拍数(LTHR:LT Heart Rate)は、160と言います。1分間に心臓が鼓動できる最高の回数(最大心拍数)が200の人であれば、これをmax80%(最大心拍数の80%)と表します。
■LT値(LTパワー)
パワーの場合は、急激にきつくなるワット数をそのままLT値(LTパワー)として、「自分のLTは260Wだ」などと言います。
パワーで考えると特にわかりやすいのですが、同じ体重のひとであれば、LTのWが高ければ高いほど、より速いスピードで楽に長時間走れるということです。
LTを上げるには?
■初心者のころはLTはひじょうに低いが、練習すると急上昇する
このLTは、今まで運動経験が余りない初心者のころはひじょうに低いのが特徴です。しかし練習を始めると、急激に上昇します。LTが上昇すると以前きつかったスピードでの走行が楽になります。これはひじょうにきもちよいものです。そしてレベルが上がるにつれて、LTの伸び幅は少なくなっていきます。
■LTを上げるための練習方法
ロードレースは長距離を速く走るスポーツなので、このLTを上げることがすなわち実力や体力アップに直結します。ですから、ロードバイクを始めた当初は、このLTを上げることをまず最優先に考えるとよいでしょう。LTを上げるには前回紹介したLSDが有効です。また、少しきつめの練習でも構わないというひとであれば、LT付近つまり自分が長時間ギリギリ維持できそうな限界付近で15分~20分程度維持する練習をするとよいでしょう。それには、一定の勾配で4㎞程度はある峠が練習場所として最適です。
■LTが上がったどうかの判断方法
LTが上がったかどうかを見分けるには、パワー・メーターを見るのがいちばん正確ですが、まだまだ高価なので手が出ないかも知れません。代わりに簡易的にみるのによい方法は、毎回決まった峠を登ってタイムを計ることです。峠の場合、スピードが余り速くならず空気抵抗の影響が少ないので、峠の頂上までのタイムが短縮していれば、平均パワーが上がった=LTパワーが上がったと判断できます。タイムの短縮にチャレンジしていくのは、きついですが楽しいものです。まずは近くに手頃な峠がないか探してみてはどうでしょうか?