FTP測定のさいの注意点
パワー・トレーニングでもっとも大事なのは、トレーニング強度設定の基準となる「FTPを定期的に測定すること」かも知れない。というのもパワー・トレーニングの長所は「かなりの精度で狙った運動負荷を体にかけられること」だが、そもそも基準となるFTPが実際の体力からずれていたら練習強度が「きつすぎる」か「楽すぎる」ようになってしまうからだ(結果として練習効果が低くなってしまうリスクがある)。しかしFTPの測定方法にはさまざまな方法があり、どれも多少の欠点がある。今回は数ある測定方法の中でも比較的一般的と思われる「20分TT」「MAPテスト」「CP」を使用してFTPを測定するさいの注意点に絞って、改めて紹介する(以前の記事はこちら)。また「実走と固定ローラーでFTPが大きく違う場合」の現実的な対処策についても紹介する。
FTP測定のさいの注意点
■20分TT:事前に5分の全力走を行うほうが望ましい
『パワー・トレーニング・バイブル』のFTPテスト手順にも含まれているが、20分TTを行う前には、できれば5分の全力走を行ったほうがよいと思われる。というのも、疲労が抜けた元気な状態で、ウォーミング・アップ後すぐに20分TTを行うと、かなり高いパワーが出ることがあるからだ(これには無酸素運動容量の寄与分などが関係していると思われる)。もし5分の全力走を行わずに20分TTを行った結果から算出したFTP値が「高すぎる」と感じるようであれば、別の機会に改めて5分全力走をしてから20分TTを行った方がよいかも知れない。
■MAPテスト:75%はあくまで目安と考える
MAPは、有酸素運動の上限ともいえる最大酸素摂取量(VO2max)に達する時のパワーのことで、スポーツ科学や運動生理学では運動強度をVO2maxに対する比率「%VO2max」で表すことが多い。bike training tips.comで紹介されているMAPテストでかんたんにFTPを推定する方法は、練習を積んでいるロード・レーサーの場合、FTPは75%VO2max(MAPの75%)の辺りであることが多いとの前提に立っていると思われる。
しかし、VO2maxに対するFTPの比率は、トレーニングによってかなり上げることができることが知られている。例えば、12月に練習を再開した当初のFTPは70%VO2maxだったものが、冬の間にみっちり練習を積んだことで4月には80%VO2maxまで上がったケースを考えてみよう。この場合に、75%を機械的に適用すると、パワー・トレーニングの強度設定が、12月にはきつくなりすぎ、4月には楽になりすぎてしまう。もしMAPに75%をかけた数値がFTPとして違和感があった場合は、別の方法でFTPを再テストしたほうがよいだろう。
■CP:3分と20分の全力走のデータが含まれていることが望ましい
GoldenCheetahで、ある一定の期間のデータを抜き出してCPを計算する方法は「テストをせずにFTPを推定できる済む優れた方法」といえる。しかし、使うデータの中に3分間と20分間といった短時間と長時間の全力走のデータの両方が含まれていない場合には数字が上振れたり下振れたりする可能性がある。算出されたCPが「FTPとかなりズレている」と感じた場合は、まずは3分間・20分間といった持続時間での全力走のデータが含まれていたかを確認したほうがよいだろう。もしどちらかが欠けているようであれば、別の方法でFTPを計測したほうがよいと思われる。
■実走と固定ローラーでFTPが違う場合:別々のFTPを基準に練習するのが現実的
人によってかなり違いがあるようだが、実走と固定ローラーでは「固定ローラーのほうがパワーが低くなる」場合がある(これにはさまざまな原因が関係していると思われる)。もし実走と固定ローラーで出せるパワーに「明らかにかなりの差がある」ようであれば、実走と固定ローラーのそれぞれでFTP計測を行い、別々のFTPを基準にしてトレーニング強度を設定するほうが現実的といえるだろう。
参考文献
- ハンター・アレン アンドリュー・コーガン博士共著・『パワー トレーニング バイブル』・P76~77・OVERLANDER株式会社