サイクリストとして知っておきたい、クリティカル・パワー(CP)の基礎知識
■クリティカル・パワー(CP)とは?
CPは、ある持続時間(単位:分)での最大平均ワット数のことです。例えば、60分走行した場合、(そのトレーニング・セッション単体の)CP60は、セッション全体の平均ワット数になります。このセッションにおけるCP1は、セッション中に記録した1分の平均ワット数の最高値になります(セッションのどの時点かは問いません)。適切なパワー・データ分析ソフトを使えば、簡単にCP1のセグメントを特定できます(同様にCP6、CP30なども特定できます)。
パワー・ベースのメニューで主に使用されるのは、CP.2(12秒)、CP1、CP6、CP12、CP30、CP60、CP90、CP180のいずれかです。CPの値は、皆さんがそれぞれの持続時間で維持可能な最大ワット数を用いてください。何度かテスト(詳細後述)を実施することでCPの値を確定できますが、全てを個別にテストする必要はありません。トライアスリートは、ドラフティング・レースに出場するのでない限り、CP.2とCP1のテストは不要です。というのも、目標の体力レベルを達成するのに、それらの数値は重要ではないからです。同様に、アイアンマン・ディスタンスのレースに向けたトレーニングに集中するのであれば、CP.2とCP1だけでなくCP6とCP12のテストも不要です。これらの強度レベルは、レース戦略に関係がないので、それに付随した能力を鍛えても意味がないからです。
センチュリー・ライドやウルトラエンデュランスのレースに出場するのでない限り、ロード・レーサーやMTBの選手は、ごく短時間から長時間にわたる幅広い持続時間でのCPを鍛える必要があります。ロード・レースやMTBでは、それぞれのCPゾーンが重要な意味を持ちます。ただし、全てのCPについてそれぞれ個別にテストをする必要はありません。30分を超える持続時間のCP(CP30を超える値)については、推定値で代用します。ほとんどのサイクリストは、持続時間の長さが2倍になると、約5%パワーが低下します。例えば、CP60は、CP30よりも5%低くなります。持続時間が2倍になるにつれて、強度が5%低下する傾向にあるということです。
ですから、CP30のワット数がわかれば、CP60(CP30から5%差し引く)、CP90(CP30から7.5%差し引く)、CP180(CP90から5%差し引く)を簡単に推定できます。
■テスト
定期的にテストを実施することで、現在の体力レベルの客観的な基準を把握することができ、それをもとに、より具体的な目標設定を行えます。テスト結果からかなり大きく進歩したことが確認できれば、自信がつき、達成感も得られることでしょう。
他方、「体力は向上しているのに、テスト結果には反映しない」ということも時々あります。こういったケースでは、テスト結果は無視して、自分のトレーニング計画に沿って練習を続けましょう。テストは厳密に科学的なものではなく、本当の体力レベルを反映するものでもないからです。また、誰しも調子の悪い日があるものです。
テストには様々な方式があり、テスト手順も無数にあります。大切なことは皆さんが「何をテストしたいか」です。テストすべきは、最も重要なレースに関連する能力です。その能力には、筋持久力、閾値、無酸素持久力、スプリント・パワーなどが含まれるかも知れません。
毎回同じ手順でテストを実施できるように、再現しやすい環境作りを心がけましょう。たった1回しか実施していないテストの結果は、「長期間にわたるパフォーマンスの比較材料」として活用可能な複数回にわたるテスト結果と比べると、どうしても価値が落ちます。
テストをうまく実施するためのコツを以下に紹介するので参考にしてください。
- 再現性を確保する(変動要因をなるべくなくすことが、テストをうまく実施するためには重要です)
- 回復週の最後にテストを実施する
- テスト手順と結果を記録する
- 4~6週間ごとにテストを繰り返す
テスト結果として最適なものは、キャリブレーション可能なインドア・トレーナーで実施した時のものです。そうでない場合は、テストの度にリア・ホイールのテンションが違ってしまうといったことが起こり得ます。
■閾値の推定/30分タイム・トライアル
心拍数ゾーンを計算するうえで最も正確な方法は、実験室で乳酸閾値(LT)ストレス・テストを受けることです。しかし、セルフ・テストでも体力レベルの指標としてそれなりの数値を調べられます。
少なくとも20分ウォーミング・アップをします。徐々に強度を上げていき、最初の15分はケイデンスを高めに保ってください。次に、5本、30~60秒ハードに踏みます。5分レストを挟んで、テストを開始します。タイム・トライアルでは、レースのように全力を出し切ることが肝心です。
30分タイム・トライアルの手順は以下の通りです。タイム・トライアルを開始とすると同時に心拍数の計測を開始します。心拍計のモニターには平均心拍数の表示機能が必須です。タイム・トライアル開始後10分が経過した時点(残り20分の時点)で、心拍計の「ラップ・ボタン」を押します。タイム・トライアル終了後、最後の20分の平均心拍数を確認します。この数字がLTHRの推定値になります。
このテストでは、回数を重ねれば重ねるほど、また心拍数と呼吸の関係を注意深く観察すればするほど、LTHRの推定値の精度が高まります。パワー・メーターも併用してこのテストを行えば、筋持久力のよい指標を得られます。30分の平均パワーをチェックすれば、30分のクリティカル・パワー(CP30)がわかります。可能であれば、平均ケイデンスも記録しましょう。そうすればハードに踏んでいる時の自然なケイデンスがわかります。
■漸増的負荷テスト(W/CP)
精度と再現性を確保するために、このテストはパワー・メーターを使用してください。
約20分ウォーミング・アップを行い、心拍数をZ3まで上げます。テストの各ステージは、閾値の推定/30分タイム・トライアルで計測したCP30をもとに決定します。このテストには3分のステージが4つあります。各ステージの最後に心拍数を記録します。各ステージのワット数は以下の通りです。
- 0~3分:CP30-150W
- 3~6分:CP30-100W
- 6~9分:CP30-50W
- 9~12分:CP30
- 12~13分:0W
- 1分のレストを挟み、心拍数を記録します。
この一連のテストで、5種類の心拍数を計測します。これらの値をテストのスコアとして記録しておきましょう。各パワー・レベルでの心拍数は、体力レベルが向上するにつれて低下していくはずです。これは効率性が高まったことを示しています。CP30を再テストし数値に変動があった場合は、それに従って漸増的負荷テストの数値も変更してください。
■有酸素タイム・トライアル
20分ウォーミング・アップを行い、心拍数をZ3まで上げます。続いて3マイル(約4.8km)の平坦コースを、LTHRより9~11bpm低い心拍数で走行し(LTHRは30分タイム・トライアルの結果に基づく推定値を使用します)、タイムを記録します。このタイムは有酸素系の体力レベルの優れた指標になるので、シーズン中にタイムの変化をチェックするとひじょうに参考になるでしょう。
■CP.2(12秒)
少なくとも20分ウォーミング・アップをします。徐々に強度を上げていき、最初の15分はケイデンスを高めに保ってください。5分レストを挟んで、12秒の全力スプリントを何本か行います。テスト終了後、パワー・データ分析ソフトを使って、12秒スプリントの最高の平均ワット数を確認します。このワット数がCP.2で、スプリント・パワーの優れた指標になります。
■CP1(1分)
CP1のテストもCP.2と同じ要領でテストを行います。ただし全力スプリントではなく、1分の全力走を数回行います。この1分の全力走のワット数は、無酸素持久力の優れた指標になります。
■CP6(6分)
少なくとも20分ウォーミング・アップをします。徐々に強度を上げていき、最初の15分はケイデンスを高めに保ってください。5分レストを挟んで、6分の全力走を1回だけ行います。入りからハードに踏み過ぎると、早い段階でたれてしまうので注意しましょう。テスト回数を重ねるほど、ペース配分がうまくなるでしょう。CP6は、無酸素持久力や最大ペースの信頼性の高い優れた指標になります。
- 記事出典:ディルク・フリール、ウェス・ホブソン共著・加藤浩幸訳・『室内 ローラー練 サイクリング・トレーニング・メニュー集』(OVERLANDER株式会社)
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。