サイクリストとして知っておきたい、LTとVO2maxについての基礎知識
■最大酸素摂取量(VO2max)
VO2maxは、持久系の運動で全力を出し切った時に全身が摂取できる酸素量を指し、有酸素運動能力(Aerobic capacity)とも呼ばれます。VO2maxは、研究所などの施設で「段階的なテスト」によって計測できます。アスリートに酸素摂取量計測装置をつけ、体力の限界に達するまで数分ごとに強度を上げていきます。VO2maxは、1分ごとに体重1kgにつき消費される酸素量をミリ・リットルの単位で表します(ml/kg/分)。世界レベルの男性サイクリストで、通常70~80ml/kg/分です。体を動かす習慣のある男子大学生は40~50ml/kg/分程度、女性は男性よりも平均で約10%低くなります。
VO2maxは遺伝によるところが大きく、心臓の大きさ、心拍数、心拍出量、血中ヘモグロビン値、好気呼性酵素濃度、ミトコンドリア密度、筋線維タイプなどの生理学的要因で変わります。ただし、トレーニングである程度向上させることができます。すでにかなりのトレーニングを積んでいる選手でない限り、6~8週間にわたって高強度の練習に取り組むことでVO2maxのピーク値を大きく高められます。
年をとるにつれて、VO2maxは低下していきます。運動習慣のない人は、25歳を過ぎると毎年1%ずつ低下します。真剣にトレーニングに取り組み、定期的にハードな練習をしている人は、低下率が緩やかになり、30代半ば、場合によってはそれ以降でもVO2maxが低下しないこともあります。
■乳酸閾値(LT:Lactate Threshold)
VO2maxは、持久力的パフォーマンスのよい予測材料ではありません。たとえば、同じレースカテゴリーの選手全員のVO2maxを測っても、その値とレース結果に関連性が見出されるとは限りません。数値が高ければ上位に食い込めるわけではないのです。しかし「長時間維持できる値のVO2maxに対する割合」はレース能力のよい予測材料になります。この長時間維持できる値にはLTが反映しています。
LTは「無酸素性作業閾値(AT:Anaerobic Threshold)」とも呼ばれます。これは、すべてのサイクリスト、特に短距離でスピードの速いレースの選手にとってはとても重要な運動強度です。「LT前後のきつい状態でどれだけ長くハードに走行できる能力があるか」が、白熱したレースで誰が優勝するかを決定づける場合があります。LTを用いると、運動強度を測れます。LTを超えると乳酸と水素イオンが急速に血液中に蓄積し始めます。「LTを超えると体内に酸が蓄積する」という特徴があるので、実験室や病院で簡単に測定できます。
LTに達すると、代謝が急速に変化します。酸素を用いた脂質の燃焼ではなく、グリコーゲン(筋肉に蓄積された糖質)をエネルギー源にするようになるのです。LTはVO2maxに対する割合(%)で表され、LTが高いほど、アスリートはレースなどで長時間にわたって高速走行が可能になります。血中乳酸濃度が高くなると、乳酸を除去するために必然的に体の動きが鈍くなります。
運動習慣のない人のLTはVO2maxの40~50%です。定期的にトレーニングをしているアスリートのLTは、VO2maxの80~90%にもなります。つまり、VO2maxが同じ 2人の選手を比較した場合、A選手のLTがVO2maxの90%、B選手が80%であれば、A選手の方が平均速度をより高速で維持でき、持久力勝負の競り合いでは生理学的にひじょうに有利だといえます(もちろんB選手がうまく風をよけ、最後にすばらしいスプリントをすれば話は別です)。VO2maxと違い、LTはトレーニングによってかなり上げることができます。
- 記事出典:ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』・(OVERLANDER株式会社)・P57~58の抜粋
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。