有酸素持久力の基礎が十分にできたかを確認する方法(Aerobic Endurance Decoupling)

【LSD】【冬のトレーニング】2011年11月28日 18:08

ロード・レーサーにとって、いちばん大事な基礎能力は、有酸素持久力

■「自転車選手は冬に作られる」

持久力が基礎能力になるロード・レーサーにとって、これから冬の基礎期は1年でもっとも重要といえる。基礎期で「有酸素持久力」「筋力」「スピード・スキル」を十分に高めておけば、レースで必要な能力をその強固な基礎の上に積み上げることができる。冬の地道な練習が夏のレースの成績に大きく影響するわけであり「自転車選手は冬に作られる」という格言は今でもあてはまる。

■有酸素持久力を高める練習方法

ロード・レーサーにとって、いちばん大事な基礎能力は、有酸素持久力だ。これを高めるにはLSDやAeT(有酸素運動閾値・有酸素性作業閾値)*レベルでの運動が有効とされている。最適なAeTレベルの運動強度はFTPの55~75%で、レベルの高い選手であれば、65~75%程度の強度で練習した方が効果が大きい(心拍数の目安としてはLT心拍数の82~88%程度)。今回は、この有酸素持久力が十分なレベルに達したかどうかを確認する方法を紹介する。

*用語の説明→AeTとは

 

有酸素持久力が十分なレベルに達したかを確認する方法

■有酸素持久力乖離幅(Aerobic Endurance Decoupling)

これはパワーやスピードと心拍数を比較する方法だ。

長時間心拍数を一定に保つ運動をしているといると、パワーは通常少しずつ低下していく。しかし有酸素持久力が向上してくるにつれて、この低下幅が少なくなっていく。逆にいえばこの低下幅(パワーと心拍数のずれ)が大きければ、有酸素持久力がまだ十分でないと判断できる。つまり心拍数とパワーやスピードの乖離幅*をチェックすれば、有酸素持久力が十分なレベルに達したかどうかがわかるという理屈だ。

*原語:Aerobic Endurance Decoupling(有酸素持久力乖離幅)

■乖離幅の計算方法

この乖離幅は以下のように算出する。

  1. AeTレベルのでの練習データを、前半と後半の2つに分ける。
  2. 前半・後半の標準化パワー(NP)か速度をそれぞれの区間の平均心拍数で割ってそれぞれの比率を出す。
  3. 2で出た2つの比率の前半部分から後半部分引く。
  4. 3で出た値を前半の比率で割る。これがパワーか速度の前半部分の心拍数比率対する乖離幅(変化率)になる。

■計算の具体例

  1. 前半部分のパワー・心拍数比率を計算
    平均パワーが180W・平均心拍数が135bpm・前半部分のパワー・心拍数比率=180÷135=1.33
  2. 後半部分のパワー・心拍数比率を計算
    平均パワーが178W・平均心拍数が139bpm・後半部分のパワー・心拍数比率=178÷139=1.28
  3. 前半部分の比率から後半部分の比率を引く。
    1.33-1.28=0.05
  4. 3で求めた値を前半部分のパワー・心拍数比率で割る。
    0.05÷1.33=0.038
  5. よって乖離幅はは3.8%となる。

■乖離幅が5%未満になれば有酸素能力が十分なレベルに達したと判断できる

有酸素能力が十分なレベルに達している場合は、この乖離幅が5%未満になる。5%を超えている場合は有酸素能力がまだ十分でないと判断できる。つまり基礎的な持久力養成するにあたっては、AeTレベルで練習した時のこの乖離幅が5%未満になることを目標に練習すればよいということだ。

 

AeTレベルでの練習時間や頻度の目安

  • ロード・レースに出場する場合のAeTレベルでの練習時間の目安は2~4時間となる。レース時間が2時間未満であれば、練習時間は2時間行えば十分と考えられる。4時間以上のレースに出場するのであれば4時間は練習したい。
  • 練習頻度は週1~2回で、最初は体力レベルに応じて短時間から始め、数週間かけて少しずつ目標の時間まで延ばしていく。目標の時間で練習し乖離幅が5%未満に収まれば「有酸素持久力が十分なレベルに達した」といえるので、次のステップ(強化期)に進めばよい。

 

注意点や乖離幅の計算ツール

■乖離幅を見る際の注意点

  • この乖離幅を見る際には、心拍数を一定に保ちパワーやスピードをみる方法と、パワーやスピードを一定に保ち心拍数をチェックする方法の2種類ある。一般的には、基礎期は心拍数を一定に保ち、強化期に入ってからはパワーやスピードを一定に保つ方が望ましい。
  • なお水分補給が不足し脱水症状になった場合や気温が高い場合には乖離幅が大きくなるので注意が必要だ。

■乖離幅の確認方法

  • WKO+:「Pw:HR」をチェックする
    この乖離幅は、パワー・データ分析ソフトのWKO+で「Pw:HR」として自動計算される。これはインターバルごとや、指定範囲ごとに瞬時に自動計算されるので、もっとも簡単で素早く確認できる方法といえる。
  • Golden Cheetah:データを抜き出して「Aerobic Decoupling」をチェックする
    同じくパワー・データ分析ソフトのGolden Cheetahでも「Aerobic Decoupling」として自動算出・グラフ表示される。ただし、WKO+のようにインターバルごとや、指定範囲ごとではなく、全体のデータに対してしか自動計算されない。そこで、AeTレベルの一定のペース走で練習した時のデータだけを抜き出して、別途保存したデータを再度開く、といった手順が必要になる点は、注意が必要だ。
  • 計算ツール
    AeTレベルの一定走の前半と後半のデータがわかっている場合は、以下の入力欄に数値を入力後「計算」ボタンを押すと自動的に計算される。

    区間

    パワー

    心拍数

    前半
    W
    bpm
    後半
    W
    bpm

    乖離幅

  • Excel
    同じく、AeTレベルの一定走の前半と後半のデータがわかっている場合は、有酸素持久力乖離幅の自動計算するExcelシートを以下にリンクするので、活用されてもよいだろう(計算ツールがうまく作動しない場合などにお使いください)。

 

参考URL

参考文献

  • ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』・P89~92・OVERLANDER株式会社