筋肉の増減がパワーに与える影響のシミュレーション・シート
これまで体重が増えたことで、パワーが増加した経験をした人は多いのではないだろうか。これは次のような理由によるもと考えられる。
筋肉量増加とパワー増加の関係
■体重(筋肉量)増加でパワーが増加する理由
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人間の筋力の大きさは、通常は筋断面積で決まる。
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筋肉量が増えれば筋断面積も大きくなるので、筋力が増す。
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パワーは力×スピードなので、筋肉の収縮速度が落ちない限り筋力が増えれば出せるパワーが増加する。
■パワーは筋肉量(重量)の約0.67乗に比例して増加する
それでは、筋肉が増えたらどれくらいパワーが増えるものなのだろうか。
結論からいうと、パワーは筋肉量(筋肉の重量)*の約0.67乗に比例して増加するといわれている。
*文献によっては『人間の出せるパワーは体重の0.67乗に比例する』との説明もあるが、脂肪や骨や内臓の重量が増えてもパワーを生み出す原動力とはならないと思われるので、ここでは筋肉量をもとに計算する。
筋肉の増減がパワーに与える影響のシミュレーション・シート
今回は、この法則にもとづいて筋肉量の変化などがパワーやパワー・ウェイト・レシオなどに与える影響をシミュレーションできるシートを紹介する。
以下のExcelシートに「現在の体重」「現在の体脂肪率」「現在のパワー(どのような持続時間の数値でもOK)」を入力すると以下の3通りの場合についての理論値が自動計算される(正確な計算には現時点での筋肉・骨・内蔵の重量などの数値が必要なので、あくまで参考値)。
筋肉の増減がパワーに与える影響のシミュレーション・シート→リンク
シートの説明
■筋肉量と脂肪量の変化によるパワーとパワー・ウェイト・レシオの変化(体脂肪率が変わらない場合)
体脂肪率を現在の水準のまま固定し、筋肉量や脂肪量が変わった場合にパワーやパワー・ウェイト・レシオがどう変化するかを見る。
この場合、体重が増えると筋肉量が増えるのでパワーは上がるが、脂肪も同時に増えることからパワー・ウェイト・レシオは落ちる。逆に体重が落ちると、筋肉量は減りパワーは落ちるものの、脂肪重量も減るのでパワー・ウェイト・レシオは上がる。
■筋肉量の変化によるパワー、パワー・ウェイト・レシオ、体脂肪率の変化(脂肪重量が変わらない場合)
体脂肪の重量を現時点の水準のまま固定し、筋肉量が変わった場合にパワーやパワー・ウェイト・レシオがどう変化するかを見る。
この場合、体重が増えると体脂肪率が減る一方で筋肉量が増えるので、パワーが増加すると共にパワー・ウェイト・レシオも上がる(理想的なケース)。逆に体重が減ると体脂肪率が上がり筋肉量が減るので、パワーが低下すると共にパワー・ウェイト・レシオも下がる(最悪のケース)。
■脂肪量の変化によるパワー・ウェイト・レシオと体脂肪率の変化(筋肉量が変わらない)
筋肉量を現時点の水準のまま固定し、脂肪量が変わった場合にパワーやパワー・ウェイト・レシオや体脂肪率の変化を見る(筋肉量は変わらないので、パワーは変化しない)。
この場合は、体重が増えると出せるパワーは変わらないのに体脂肪率が上がるのでパワー・ウェイト・レシオは下がる。逆に体重が減ると出せるパワーが一定のまま体脂肪率が低下するのでパワー・ウェイト・レシオは上がる。
■筋肉量を増やしつつ脂肪を落とすことが理想
最終的には、パワー・ウェイト・レシオを上げることがロード・レースのパフォーマンス向上につながるので、「筋肉量を増やしつつ脂肪を落とす」ことが理想的といえる。
■筋肉の増加ピッチは遅い
注意点としては、筋肉の増加ピッチの限界は「約2㎏/年(7g/日)」とかなり遅い点だ。「筋肉量を半年後までに5㎏増やそう」と思っても、成人であれば現実的にはかなり厳しいだろう。
一方で、脂肪は1ヶ月1㎏程度(1日30~40g)であれば、健康や体力を維持したまま落とすことが可能だ。その意味では、短期的にパワー・ウェイト・レシオを上げようとするのであれば、「筋肉量を増やす」よりは「体脂肪を落とす」アプローチのほうが現実的といえる。
シートの計算根拠
上に添付のExcelシートの計算根拠は以下のとおり。
- 筋力の強さは、筋の断面積に比例する。つまり筋肉の寸法の2乗に比例して増加する。一方で筋肉の体積(≒重量)は寸法の3乗に比例して増加する。よって筋力は筋肉の重量の2/3乗(約0.67乗)に比例して増加する。
- パワーは、力(筋力)×スピードなので、筋力が増加すればパワーはそれに比例して増加する。つまりパワーは筋肉の重量の2/3乗(約0.67乗)に比例して増加する。
- 現時点での筋肉量は除脂肪体重の半分とする。 筋肉量=(体重-脂肪重量)÷2
- LTの向上(筋肉の酸化能力の向上)や、動員できる筋肉の運動単位(モーターユニット)が増加するなど「筋肉の質」が向上すれば、同じ筋断面積でも出せる力は大きくなるが、ここではそういった影響は考えず、現在と同じ「質」の筋肉が増減した場合の効果を計算する。
- 増減する筋肉はすべて自転車の推進力につながるパワーに役立つものとする。
(Excelシートも含めて間違いや不具合があれば、お手数ですがお問い合わせフォームよりご連絡ください)
参照URL
- 進化論から進化学へ・『ニック・レーン「ミトコンドリアが進化を決めた」』
http://amateurd.blog46.fc2.com/blog-entry-106.html - Sooda!・『筋肉量の計算』
http://sooda.jp/qa/105564
参考文献
- ふじいのりあき著・『ロードバイクの科学』・P125・スキージャーナル株式会社