VO2maxとLTだけに固執してトレーニングするよりも、エコノミーを含めた3つの要素すべてを向上させるほうが、はるかに大きな収穫がある (テクニック)【TTB】

【ペダリング・ポジション・スキル】【立ち読み版】2014年1月3日 13:48

テクニック

■VO2maxとLTだけに固執してトレーニングするよりも、エコノミーを含めた3つの要素すべてを向上させるほうが、はるかに大きな収穫がある

 

体力は、テクニックを磨く練習しているときに得てして身につくものである。
-テリー・ラクリン (水泳コーチ)

 

マルチスポーツの選手の多くが目指すゴールは3つです。それは、より遠くに移動する能力、より速く移動するテクニック、そしてより遠くかつより速く、潰れることなく移動するスタミナです。これを1つに絞れば、一定距離をより速くスイム、バイク、ランで移動するテクニックになります。実際、我々のほとんどは、レース記録を縮めるためにトレーニングをしているのです。

では、何をしたら速くなるのでしょうか?答は簡単です。腕と脚を動かす速度を高める、あるいは1回のストロークまたはストライド頻度で移動できる距離を伸ばす、あるいはその両方です。つまり速度とは、回転数とストローク/ストライド長を掛け合わせたものなのです。ランニングを例に挙げると、ストライド長が一定のまま、ストライド頻度を高めることができれば、速度は増します。もしくは、ストライド頻度が一定のまま、ストライド長を伸ばす筋力を身につけても、タイムはやはり向上します。

この関係をもっと詳しく検討してみましょう。再びランニングを例にとります。仮に5kmのレースで平均ストライド長1.5m、平均ストライド頻度170回/分で走ったとします。そうすると記録は19分36秒になります。しかし、ストライド長が一定のままでストライド頻度を毎分3回増やせば、記録は20秒速くなります。または、ストライド頻度が170回/分のままでストライド長を1回につき2.5cm伸ばせば、記録は19秒速くなります。ストライド頻度、ストライド長の両方を向上させることができれば、記録は39秒縮まり、18分57秒の自己新記録を出せることになります。小さなテクニックの向上が大きな結果につながるのです。

もちろん、より長いストライド、より回転の速いストライドで走るということは、その運動努力を維持する体力を身につけなければならない、ということです。今までの章で説明したとおり、持久力、筋力、スピード・スキルという基礎能力と、筋持久力、無酸素持久力、パワーという専門能力を向上させると、レース速度を上げるという目標を達成することができます。この体力の必須要素を別の観点から科学的な専門用語で表現すると、体力の向上は、最大酸素摂取量(VO2max)が増え、有酸素運動能力に対する乳酸閾値(LT)が高まり、動きの経済性(エコノミー)が向上した結果、ということになります。

このうちVO2max(最大努力の運動で体が処理する酸素量)とLT(乳酸が血中に蓄積し始める最大下努力の運動強度)は持久系運動選手には広く知られています。エコノミーはこの2つほど知られていないかもしれませんが、エコノミーの向上によって、いかに大きな成果が得られるかを理解することは必要です。VO2maxとLTだけに固執してトレーニングするよりも、エコノミーを含めた3つの要素すべてを向上させるほうが、はるかに大きな収穫があります。実際、マルチスポーツのパフォーマンスが伸び悩む原因としては、体力が開発されていないことよりも、動きのエコノミーに問題があることのほうが大きいでしょう。

 

※この記事は、『トライアスリート・トレーニング・バイブル(TTB)』篠原美穂訳・OVERLANDER株式会社(原題:『THE TRIATHLETE'S TRAINING BIBLE 3RD EDITION』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版のランダム掲載分です。『トライアスリート・トレーニング・バイブル』は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』の著者であるジョー・フリール氏による、トライアスロン教本の世界的ベストセラーの日本語版です。■

 

著者紹介

ジョー・フリール

ジョー・フリールは、Training Bible Coachingの創設者かつ代表者であり、本書で紹介しているコーチング哲学・メソッドを学び応用している、世界中の持久系競技の指導者とともに活動しています。Training Bible Coachingには、トライアスロンを趣味とする人からエリートトライアスリート、サイクリスト、マウンテンバイク愛好者、ランナー、スイマーまでと、幅広い層とさまざまな競技のアスリートが登録しています。

フリールのコーチ歴は長く、1980年から持久系アスリートの指導にあたってきました。彼が指導した選手は、初心者、トップアマチュア、プロ選手とさまざまです。なかにはアイアンマンレースの優勝者、米国内外のチャンピオン、世界選手権代表、そしてオリンピック代表もいます。

彼の著書は本書以外に、『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『Cycling Past 50』、『Precision Heart Rate Training』(共著)、『The Mountain Biker's Training Bible』『Going Long: Training for Ironman-Distance Triathlons』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Total Heart Rate Training』『Your First Triathlon』があります。また、VeloPress社のビデオ『Ultrafit Multisport Training』シリーズの編集者でもあります。フリールは運動科学の修士号を取得しており、上級コーチの有資格者でもあります。米国トライアスロン指導者委員会においては、その設立に携わり、会長を2期にわたって務めました。

フリールは、雑誌『Inside Triathlon』、『Velo News』のコラムを執筆するかたわら、米国以外の雑誌やウェブサイトにも特集記事を寄稿しています。持久系競技のトレーニングに関することがらについて、実に幅広いメディアから意見を求められており、『ニューヨーク・タイムズ』『アウトサイド』『ロサンゼルス・タイムズ』のほか、『Vogue』誌にまで紹介されています。

フリールは、持久系アスリートのトレーニングやレースについて、世界中でセミナーやキャンプを行い、フィットネス産業や政府機関のアドバイザーとしても活躍しています。

エイジグルーパーとしてのフリールは、コロラド州マスターズ選手権優勝、ロッキーマウンンテン地区、サウスウェスト地区のデュアスロンエイジ別優勝、全米代表チーム入り、世界選手権出場と、輝かしいキャリアを誇ります。サイクリストとして米国の自転車レースシリーズにも参加しています。フリールへのご質問やご意見は、ウェブサイト www.trainingbible.comで受けつけています。

 

訳者紹介

篠原 美穂

慶應義塾大学文学部 (英米文学専攻 )卒業、翻訳士。ほかの訳書に『アドバンスト・マラソントレーニング』、『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』(ともにベースボール・マガジン社)がある。