サイクリストとして知っておきたい、体力(フィットネス)についての基礎知識 ~CTLを正しく理解するために~
体力(フィットネス)とは何でしょうか?アスリートとしてこの言葉を乱用することはあっても、その意味について深く考えることは、あまりありません。
運動パフォーマンスという点では、体力は単純に、レース当日にハイ・パフォーマンスを生み出せる準備ができていることを意味します。よってトレーニングは、決まったレースに特化したものになるのです。1時間のクリテリウムに出場するサイクリストの体力は、アイアンマンのレースに求められるものとは、まったく違います。ですから、両方とも自転車に乗る競技ではあっても、そのトレーニングは大幅に異なるのです。
その違いは、練習がどれくらい長いか(持続時間)、どれくらいつらいか(強度)という点ではっきりとしています。TSSスコアについては、クリテリウムもアイアンマンも、ポイント練習では同じになることもありますが、そのスコアに至る中身はまったく違います。いっぽう(アイアンマン)は、長い持続時間と中程度の強度に重きを置いた練習となり、もういっぽう(クリテリウム)は、高い強度と中程度の持続時間を重視した練習となるのです。
どちらの選手とも、自分の日ごと、週ごとのTSSを観察して、自分の体力が向上しているかを確認します。前に説明したとおり、進歩がわかるのは、毎日・毎週のTSSが、時が経つにつれて上昇しているからです。かつてつらく感じたTSSも、いずれ楽になります。したがってストレスを与えるために、練習も次第につらいものになって行きます。こうしてレースへの準備ができていくのです。
■パフォーマンス・マネジメント・チャート(PMC)による変遷の観察
こうしたTSSの変遷は、ソフトウェアと「パフォーマンス・マネジメント・チャート(PMC)」を使って観察することができます。実は、このソフトウェアは、体力は何日も(おそらく数週間程度)かけてゆっくりと変化することを前提としていますが、これには正当な理由があります。体力の向上、たとえばVO2maxの上昇が、数字にでるほどはっきりと現れるには、6週間かかると思われます。一晩では改善されないのです。
ソフトウェアはこの点を考慮して、TSSの移動平均値を6週間、つまり42日間算出します(これがデフォルトのセッティングです。もし自分が例外的に「反応の早い人」または「反応の遅い人」だと思うなら、このソフトウェアのセッティングを手入力で変えても構いません)。ソフトウェアは、その日の練習のTSSを、それ以前の41日分に加算し、その値を42で割り、その結果求められた平均TSSのデータポイントをチャートにプロットします。このようなパフォーマンス・マネジメント・チャートを下に示しました。
CTL(体力・フィットネス)を示したパフォーマンス・マネジメント・チャート
このチャートでは、X軸は時間であり、1シーズンの日付で表しています。左端の10/21が、トレーニングシーズンの開始日、右端はその終了日(9/1)です。Y軸は、毎日のTSSの値です(TSS/d)。日ごとのデータポイントは、その日を含んだ過去42日分の平均値です。それぞれのデータポイントを結んだ線は、時間の経過とともにTSS、つまり体力がどのように変化したかを示しています。この線が右上がりなら体力も上昇していると考えられます。反対に右下がりなら、体力の喪失を示していると考えられます。
■長期トレーニング負荷(CTL)は自分の傾向だけを示す
私はやはりここでも、「体力」という言葉を何も特定せずに使っています。お気づきでしょうか。線は、「何のための体力か」ということについては、何も示していないのです。クリテリウムでも、アイアンマンでもありません。ここで示しているのは、この選手がこなせるトレーニングの負荷が増えたか減ったか、ということだけであり、それは以前に説明したとおり、体力に置き換えて考えることができるのです。ソフトウェアではこの問題を避けるために、線で結ばれたデータポイントのことを「長期トレーニング負荷(CTL)」と呼んでいます。
名前は好きに呼べばいいとして、問題は、ここに示されているトレーニング・ストレスのマネジメント能力が、高くなって(あるいは低くなって)いることです。しかし、上図のようなCTLが「93」という高い値であっても、同時期にCTLが「76」である練習パートナーに、レースで勝てるということにはなりません。CTLの数値は、他者と比較した実際のパフォーマンスは反映していないのです。ある時期のCTLは、自分の傾向だけを示すものです。つまり、以前の自分に比べて今の自分がどうであるか、ということしか示さないのです。
このようなツールがあれば、線の上昇速度あるいは下降速度をコントロールすることで、トレーニングの管理が可能になります。この表で自分の傾向を観察し、コントロールすることができるのです。CTLが上昇しているときは、処理できるストレスが増えているわけですから、間違いなく体力が向上しています。しかし、疲労が増えていることも事実です。
- 参考文献:ジョー・フリール著・篠原美穂訳・『パワートレーニング・ハンドブック(仮題・2019年発売予定)』(OVERLANDER株式会社)・本文の抜粋
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。