過剰な高強度インターバルトレーニング(HIIT)がミトコンドリア機能や糖代謝に及ぼす悪影響についての研究
サイクルロードレーサーにとって、トレーニングの質と量はパフォーマンス向上の鍵となる。しかし、過剰なトレーニングが身体に悪影響を及ぼすこともある。本記事では、過剰な高強度インターバルトレーニング(HIIT)がミトコンドリア機能や糖代謝に及ぼす悪影響についての研究「Excessive exercise training causes mitochondrial functional impairment and decreases glucose tolerance in healthy volunteers.」について紹介する。
■研究の目的
同研究は、健康な被験者において運動負荷量がミトコンドリア機能や糖代謝に与える影響を調査することを目的としている。特に、過剰な運動負荷が、ミトコンドリアの呼吸機能やグルコース耐性にどのような悪影響を及ぼすかが主要テーマとなっている。
■研究デザイン
対象者
- 健康な男性5名、女性6名(計11名)
- 適度に運動をしているが、週5時間以上の定期的な高強度運動を行っていないことが条件。
- 追加で、エリート持久力アスリート15名と対照群12名を比較するコホートも設定。
介入内容
- 4週間の高強度インターバルトレーニング(HIIT)を実施。
- 期間ごとの運動負荷:
- 第1~3週: 運動負荷を段階的に増加(軽度→中等度→過剰負荷)。
- 第4週: 負荷を減少させて回復期間を設定。
- 各段階での評価
- 筋生検
- 経口糖負荷試験(OGTT)
- 呼吸ガス分析や心拍数の測定
測定項目
- ミトコンドリア機能: 呼吸能力、酸化ストレス指標
- 糖代謝: グルコース耐性、インスリン分泌、GLUT4タンパク質の変動
- 全身代謝: 酸素消費量、心拍数、運動パフォーマンス
食事管理
- 標準化された食事を提供し、エネルギー摂取量を統一。
- 運動後は回復用飲料(炭水化物とタンパク質)を摂取。
■主な結果
ミトコンドリア機能
- 過剰な運動負荷でミトコンドリアの内因性呼吸能力が大幅に低下(40%減少)。
- ミトコンドリアの密度は増加したが、機能的な効率が低下。
糖代謝
- 過剰な運動負荷によりグルコース耐性が悪化。
- 運動負荷を減らした回復期間では部分的に改善。
酸化ストレス
- 全体的な酸化ストレス指標(脂質過酸化、タンパク質酸化)は変化なし。
- ミトコンドリア由来のH2O2生成は運動負荷に応じて変化。
エリートアスリート
持久系エリートアスリートは、一般的な健康対照群よりも血糖コントロールが乱れていることが判明。
■結論
- 過度な運動はミトコンドリア機能を低下させ、糖代謝に悪影響を及ぼす可能性がある。
- トレーニング負荷を適切に管理・調整し、血糖コントロールやトレーニング負荷をモニタリングすることでトレーニング効果を最適化することが望ましい。
参考文献
Flockhart, M., Nilsson, L. C., Tais, S., Ekblom, B., Apro, W., & Larsen, F. J. (2021). Excessive exercise training causes mitochondrial functional impairment and decreases glucose tolerance in healthy volunteers. Cell Metabolism, 33(5), 957-970. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2021.02.017