プレ・シーズンのトレーニングのヒントと練習メニュー
シーズン初期のレースでは、レース用の身体ができておらず苦しい思いをするケースがあるかも知れない。今回はTRAINING4CYCLISTS.com などを参考に、レースの初戦からよいパフォーマンスを上げるための「プレ・シーズンのトレーニングのヒント」を紹介する。
プレ・シーズンのトレーニングのヒント
■シーズン初戦で苦しむ理由「レース・スピードへの対応力不足」
シーズンのレース初戦で苦しい思いをする理由のひとつに「レース・スピードへの対応力の不足」がある。信号や道路事情でストップ&ゴーが入る練習では平均速度は30㎞/h程度になることが多いが、レースではノンストップでドラフティング効果のある集団走行をするので平均速度が+10㎞/h程度上がり、40㎞/h以上になることも少なくない。
■レースでは心理的・技術的に必要なものが違う
しかし、他にも大きな理由がある。それは「仲間との練習」と「勝負のかかったレース」では、心理的・技術的に求められるものがかなり違うという点だ。その違いを認識して「レースに対応するための練習」をしておけば、レース・シーズン開幕当初から「レース・スピード」に対応できる体に仕上げることができるだろう。レース・シーズン序盤から好成績を残す選手は、こういった練習をシーズン初戦の数か月前から行っている場合が少なくない。
■短時間・高強度の無酸素運動能力向上が重要
レースへの対応力を磨くうえで重要になるのが、短時間・高強度の無酸素運動能力の向上だろう。ひとつ朗報があるとすれば、この無酸素運動能力は、6~8週間といった比較的短い期間でかなり高めることができる点だ(これはある意味、有酸素運動能力が、年単位で少しずつ向上していくのと対照的といえる)。仮にシーズン序盤に無酸素系での追い込みが不足していても、2か月程度もあれば他の選手にかなりキャッチアップできる可能性が高い。
■シーズン初戦の2ヶ月前から無酸素系の練習をしておくのも手
逆にシーズン初戦から逆算して2か月程度前から無酸素系の練習をしておけば、シーズン初戦から集団に楽についていけ、優勝するチャンスを増やすことができるかも知れない。
プレ・シーズンにおすすめの練習方法
それではプレ・シーズンには、具体的にどのような練習をすればよいのだろうか。TRAINING4CYCLISTS.comでは以下のような練習方法を推奨している。
1.練習仲間との模擬レース
まず練習内容をレースとよく似た状況を再現したものにする方法がある。これは「トレーニングの原則」のひとつである特異性の原則*に合致しており、合理的な練習方法といえる。具体的には交通量の少ないルートで、5㎞以上を目安に事前に距離を決めておき、2~3回程度短い模擬レースを行う。模擬レースをすることで、高速走行しながら有酸素と無酸素インターバルが組み合わさったレースに近い状況を再現した練習ができる。またゴール地点を設定しておけば、レース戦術を磨くこともできるだろう。他にもレースに近い状況で他の選手と競り合いを経験しておくことで、いざレースの本番で集団走行する場合にも、心理的に余裕をもって臨めるといった効果も期待できる。
*特異性の原則とは(引用)
「身体は課せられた刺激に対して特異的に適応するというものです。トレーニング効果はそのトレーニングの内容により、特異的に向上するので陸上の短距離選手が球技をしたり泳いだりしても100mの記録は伸びないということです。これは筋力トレーニングを行う場合も同じです。競技特性を考えた上でどこの筋肉をどのような動作で鍛えるのかを考えなければトレーニング効果は望めないということです。」
引用元:川口博正・『トレーニングの原理・原則』・トレーナーズルーム
2.無酸素インターバルとスプリント
ロード・レースではFTP以下の一定走での15分間のインターバルがコンスタントに続くといったケースは比較的少なく、何度となく高強度のインターバルがかかるのが普通なので、無酸素インターバルへの対応力や、スプリント・スキルなど多様な能力が必要になる。この無酸素運動能力やスプリント能力を向上させる確実な方法は、それに特化したインターバル・トレーニングを行うことだろう。1週間に1~2回だけでも無酸素インターバルを行えば、数週間以内に無酸素運動容量はかなり向上するだろう。注意点としては、無酸素インターバルは60秒以下と短時間な場合がほとんどなので、心拍数を使ってペーシングしてもほとんど意味がない点だ。また無酸素運動に関する酵素にしっかりと刺激を与えるためには、インターバルの間隔は長目に取ったほうがよいだろう(回復時間が短すぎると、無酸素運動能力向上に必要なだけのパワーを出せず、有酸素系代謝のトレーニングになってしまう)。
3.テーパリング
シーズン初期に重要レースがあるのであれば、テーパリング期間を設けたほうがよいだろう。シーズン初期には、かなりのトレーニング量や強度をこなしてきているケースが多い。こういった状況からベストの状態にもっていくには、ピークをつける前に数週間程度かけてテーパリングをするのが有効だといわれている。適切にテーパリングを行えば、足の調子を保ちつつ疲労を抜くことができ、有酸素・無酸素運動能力を向上させることができるだろう。最近の研究結果によるとテーパリングのポイントは、「トレーニング量は減らして、強度を高めた(もしくは維持した)刺激を入れること」だといわれている。テーパリングの期間は、それまでの練習状況に応じて変わるが1~3週間程度の間で調整するとよいだろう。
プレ・シーズンにおすすめの練習メニュー
最後に具体的な無酸素インターバルとスプリントの練習メニューをTRAINING4CYCLISTS.comより紹介する。
■プレ・シーズンの練習メニュー1:「30+30」インターバル
- 15分間ウォーミングアップする。
- VO2max*の強度で30秒維持・30秒レストを16回繰り返す。
- 10分間クールダウンする。
*VO2max:5分間の全力走の平均パワー
参考記事→VO2maxパワー向上用「30+30」インターバル
■プレ・シーズンの練習メニュー2:40秒全力スプリント
- 15分間ウォーミングアップする。
- 40秒間全力スプリントを行い、9分20秒回復走を挟む。これを合計3セット行う。
- 5分間クールダウンする。
参照URL
- TRAINING4CYCLISTS.com・『How to Optimize Your Pre-Season Cycling Training』
http://www.training4cyclists.com/pre-season-cycling-training/ - 川口博正・『トレーニングの原理・原則』・トレーナーズルーム
http://www.kmc-athlete.com/t-room3.htm - 竹谷賢二・『レース前のトレーニング調整』・POLAR
http://www.polar.co.jp/ja/about_polar/news/100929_training_before_race_kenji_takeya
参考文献
- 彦井浩孝指導・「波と頂点 トライアスリートのピーキング」・『トライアスロン ルミナ 2012年 05月号 [雑誌] 』・P45~47