ハンドル投げによって空気抵抗が増すという研究結果
ハンドル投げはゴールライン直前で、身体からハンドルを遠ざけるために腕を突きだすようにして距離を稼ぐ技術で、競輪やトラック競技だけでなく、ロード・レースのゴール・スプリントでもよくみかけるテクニックだ。今回はこのハンドル投げが「実は効果がないのではないか」という興味深い研究結果を『Performance Cycling: The Science of Success 』より紹介する。
ハンドル投げに関する研究結果や指摘
■ハンドル投げはメリットがないとの指摘
『Performance Cycling: The Science of Success 』では、ハンドル投げの動きはニューリン力学・物理学者・常識からすると、ゴールラインを少しでも速く越える上でのメリットはなく、むしろ選手の身体をゴール・ラインから遠ざけてしまうと、指摘されている。
■ハンドル投げのポーズは空気抵抗が最小ではない
ハンドル投げで特徴的なのは、頭を下げ腕を目いっぱい前に突きだした一見空気抵抗がひじょうに小さそうなポーズだろう。しかし、このポーズは意外なことに空気抵抗がもっとも小さいポーズではないのかも知れない。実際に世界チャンピオンのスプリンターのハンドル投げのポジションの空気抵抗を調査した結果では、最適なポジションよりも空気抵抗が+11%増えた*とのデータが示されている。
*+13%まで空気抵抗が増加する可能性がある
■ペダリングをしないことのデメリット
これに加えて、ハンドル投げをしている間はペダリングしていないので、自転車の推進力となるパワーを出していないとも指摘されている。
■ゴール・ラインを超えるまでペダルを踏み続ける
このようにハンドル投げは、最適なポジションに比べて空気抵抗が増え推進力につながるパワーを出さない動きなので、ゴール・ライン手前での減速につながってしまうリスクがあるというのは、従来の常識を覆す興味深い指摘といえる。『Performance Cycling: The Science of Success 』ではこれを防ぐために、ゴール・ラインを超えるまでペダルを踏み続けるように、アドバイスしている(しかしまだどの選手も説得できていないとも記載されている)。
■「常識」となっているテクニックに対する興味深い指摘
ハンドル投げは、ごくわずかなタイム差を競う競輪選手やトラック競技の選手、そしてロード・レースのスプリンターによって長年実戦で使われてきた技術であることを考えると、空気抵抗のデータだけ**をもってこの指摘を鵜呑みにすべきではないかも知れない。しかし広く普及したいわば「常識」となっているテクニックに対して「本当に効果があるのか」という疑問を投げかける意味で興味深い指摘といえるだろう。
**『Performance Cycling: The Science of Success 』には、パフォーマンスの測定結果(例:走行速度やゴールラインへの到達時間の増減)のデータは示されていない。
参考URL
参考文献
- JAMES HOPKER, SIMON JOBSON編・『Performance Cycling: The Science of Success 』・P120~121・BLOOMSBURY