暑熱馴化のメリットや行い方
気温の高い環境でのレースが予想される場合、パフォーマンスへの悪影響を抑えるために、暑さに体を慣らしておいた方がよいことが知られている。これを「暑熱馴化」という。今回は『スポーツ運動科学』などを参考に、「暑熱馴化」のメリットなどについて紹介する。
暑熱馴化のメリットや行い方
■暑熱馴化の起こる条件
体を暑さに対して適応をさせるには、体の表面の皮膚の温度だけでなく体の中心部の体温を上昇させ、汗が流れ出るような「熱ストレス」に繰り返すさらす必要がある。
暑さへの適応の度合いは、持続期間・頻度・回数といったものによって決まり、暑熱馴化が進むにつれて、熱ストレスによって体が受ける負荷が少しずつ軽くなっていく。
■暑熱馴化のメリット
暑熱馴化がうまく進んだ場合、以下のようなメリットが期待できる。
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発汗と皮膚血流反応の改善
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水分バランスの改善
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心血管系の安定性の向上
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代謝率の低下
これらのメリットによる暑熱馴化のパフォーマンスへの効果は劇的で、うまく適応できた場合は、それまで不可能だった高温な環境下での運動がかんたんに行えるようになる。
ロード・レーサーにとって関わりが深い心拍数については4~5日で低下が確認でき、7日以降でほぼ適応が完了する。また体温調整機能についても、10~14日で完了するといわれている。
■数日間隔でも長期間をかければ暑熱馴化は完了する
暑熱馴化には、1日24時間継続的に暑い状況にさらされる必要はない。
空気が乾燥し気温が高い環境であれば、1日に100分だけでも継続的に暑い環境下に身を置くことで最適な適応が起こる。
また毎日暑い環境に体をさらすことができないとしても、その分長い期間をかけることで、暑熱馴化を実現することができるといわれている。
具体的には、毎日暑い環境に身をさらした場合と、3日に1回だけの場合とを比較した研究では、毎日の場合は10日間で、3日に1回の場合は27日で暑熱馴化が完了したとの報告がある。
■ブラッドレー・ウィギンスの取り組み
ブラッドレー・ウィギンスは、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャのタイムトライアルの前に、酷暑対策として、車庫に5つのヒーターと加湿器を設置し、42度近い気温で身体を慣らしたという。
練習場所の気温が低い時期に、気温の高い場所で開催されるレースに出場する予定がある場合などは、ウィギンスの取り組みを参考にするのも一案だろう。
参考文献
- ギャレット/カーケンダル編, 宮永豊総監訳・『スポーツ運動科学』・P332~333・西村書店
- ニコラ・ペルテュイ文・「ウィギンス、勝利の方程式を解く」・『ベロマガジン日本版vol.2』・P33・ベースボール・マガジン社