サイクリストとして知っておきたい、高度な体力要素の鍛え方 ~筋持久力、無酸素持久力、スプリントパワーの強化方法~
■高度な体力要素とは?
ベース体力の土台を築いた後、高度な体力要素を鍛える段階に進みます。この時期の目標は、トレーニングの内容を、重要なレースに特有の要件に可能な限り近づけることです。そのために、トレーニング内容を、高度な体力要素を鍛えるものに変えていきます。高度な体力要素とは、「筋持久力」「無酸素持久力」「スプリント・パワー」のことです。
高度な体力要素の重点的な強化は、目標とするレースの9~12週間前から開始すべきです。高度な体力要素のトレーニング期には注意が必要です。トレーニング負荷を上げたくなるところですが、運動強度を上げるにつれて、全体的なトレーニング量を減らさなくてはならないからです。練習量を減らすことで、回復時間を増やし、高度な体力要素の練習の質を確保できます。ただし、ウルトラ系の耐久レースの選手は例外です。ウルトラ系の耐久レースに向けたトレーニングでは、高度な体力要素のトレーニング期でも、レース特有の要件に備えるために、長時間の練習を引き続き行います。
この時期は、減量には適しません。練習で大量の糖質が要求され、糖質が枯渇するリスクも高まるためです。このトレーニング期には、総摂取カロリーの60%を糖質にします。
高度な体力要素のトレーニングは、平日に1回、週末に1回組み込むことから始めます。高いトレーニング負荷に耐えられると判断したら、高度な体力要素の練習を週3回まで、たとえば火曜日、木曜日、土曜日のように増やしてもよいでしょう。筋力トレーニングは SMを継続します。
では、高度な体力要素のトレーニング期の練習内容の概要を見ていきましょう。
■筋持久力
基礎期後期では、筋持久力の練習を開始します。このため、基礎期を適切に終えていれば、筋持久力の本格的な強化に取り組む準備が整っているはずです。高度な体力要素のトレーニング期では、SE-3、Z4の走行練習の時間を増やし、インターバルトレーニングを週2日に増やすことで、筋持久力を強化します。トレーニング1年目の人は、ヒルクライムやタイムトライアルがリミッターであることが多いはずです。ウルトラ系の耐久レースを目指している場合は、筋持久力の強化に優先的に取り組むことが必要です。
多くのサイクリストが、「SE-3の運動強度を上げれば(Z4よりも上げれば)、効果が高まる」と考えがちです。しかし、私は運動強度よりも、練習時間を増やすことをおすすめします。段階的に、Z4を60分間、Z3を90分間まで増やしていきます。これらを15~30分間のインターバルに区切り、合間に5~10分間の回復を挟みます。無酸素持久力の強化に備えて、Z4以上の運動は控えめにしておきましょう。
ウルトラ耐久走(UER)
24時間耐久レースに向けて準備していても、24時間通しで走る練習をする必要はありません。私は、ウルトラ系のマウンテンバイクの選手に、2~3日かけて14~18時間走るように指導しています。たとえば土曜日の朝に6時間、夜に5時間、日曜の日中に5時間といった具合です。このように練習を分割すれば、休養をとりながら体に強い刺激を与えることができます。トレーニングの経験年数が増え、体力が高まるにつれ、このような分割練習での回復時間を短くしていきます。日曜日の練習を、舗装路、ロードバイクでの練習に変更することで、トレーニング負荷を減らすこともできます。練習の合間の回復時間には、食事をとり、昼寝をしましょう。
表15.1に、ウルトラ系の耐久レースに向けたトレーニングをしている選手の、週末前後の練習例を示します。このようなウルトラ系のトレーニングセッションの前後には、回復時間を増やすことを忘れないようにしましょう。また、このセッションでは、レースでの補給やペース配分も練習します。
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■無酸素持久力
無酸素持久力に必要な体力の基礎能力は、基礎期で鍛える、「持久力」と「効率」です。これを土台にしたうえで、無酸素持久力を鍛えるトレーニングを開始します。まずはZ5bか CP5~6のパワーで短時間のハードな走行を行います。トレーニング初年度の人は、インターバルと回復をそれぞれ30秒間にし、この練習は週1回にとどめます。中級者はインターバルを2~3分間と長めにしてもよいでしょう。上級者ならば、インターバルと回復を3分間にして3~5週間、この練習を週2回行うことができます。このインターバルトレーニングを3週間行ったら、同じインターバルトレーニングを、上りで行うことができます(シッティングとダンシングの両方で行いましょう)。
運動強度は、自分にとって適切なトレーニングゾーンの範囲内に収めるようにします。インターバルで全力を出す選手が多くいますが、それはこの練習の目的ではありません。CP6のパワーが350Wであれば、インターバルでは350Wを維持します。BT練習の後は、次に同じような練習を行うまでに、数日間、回復のための休みをとる必要があります。表15.2に、無酸素インターバルの例を示します。必要に応じて調整してください。
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■スプリント・パワー
スプリント・パワーの強化は、基礎期後期でのパワースプリントによって開始します。高度な体力要素のトレーニング期では、これにヒル・スプリントを加えます。またこの期間では、ロングライドの最後にスプリントに取り組むことで、レース終盤の疲れた足でのスプリントを想定した練習を行うとよいでしょう。ただし、他の日は、必ず練習の初めにスプリントを行います。足が疲れていない方が、スプリント・パワーを強化しやすいからです。スプリント・パワーの練習はZ5c、または5~12秒間の平均パワーで行います。
トラックレース、クリテリウム、ロードレースに向けたトレーニングでは、高度な体力要素のトレーニング期にスプリント・パワーを鍛えるトレーニングを多く行います。この期間では、スプリント・パワーの練習を週に2~3日行っても、ほとんどのアスリートは耐えられます。スプリント・パワーの練習を、長時間の有酸素運動や筋持久力トレーニングを行う日に追加してもよいでしょう。練習では、最大パワーと平均パワーを測ります。パワーが落ちてきたら、練習を止めます。パワーが落ちているのに練習を続けても、スプリント・パワーの強化にはなりません。
■高速集団走行(FGR)やレースでの高度な体力要素の強化
表15.3に、高度な体力要素のトレーニング期の練習内容の例を示します。この時期には、高速集団走行の練習に参加して無酸素持久力や筋持久力を鍛えてもよいでしょう。集団の力を借りてスピードを上げ、自分の限界に挑むチャンスです。ただし、必ず自分の体の声に従うようにしましょう。疲労や苦しさに耐えられなければ、集団から離れます。無理をしないことを習慣化しましょう。
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最重要レースに似た要件が求められる優先度の低いレースも、高度な体力要素のトレーニング期の練習として活用できます。クリテリウムは、無酸素持久力やスプリント・パワーの練習になります。ロードレースは筋持久力の、センチュリーライドやダブルセンチュリーはウルトラ系の耐久レースに向けたよい練習になります。
■まとめ
高度な体力要素のトレーニング期では、筋持久力、無酸素持久力、スプリント・パワーを鍛えます。筋持久力は、ウルトラ系の耐久レースに出場するサイクリストには特に欠かせません。ベーストレーニングによって、無酸素持久力の基礎となる持久力と効率は高まっているはずなので、週末を使って、最大18時間の練習を行います。パワースプリントとクリテリウムのレースは、瞬発的なスプリント・パワーの強化に役立ちます。高速集団走行とロードレースでは、すべての高度な体力要素、特に筋持久力を鍛えられます。本章の練習計画例を参考に、自分のニーズに合った最適なトレーニングを計画してください。
- 記事出典:トーマス・チャップル著・児島修訳・『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)・P334~338の抜粋
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。