BCAAの効果などと「摂取のガイドライン」
BCAA(分枝鎖アミノ酸)は、長時間の運動中のパフォーマンスや疲労回復に効果があるといわれており多くのサプリが市販されている。実際に使用して「かなり効果があった」という話もよく聞く。しかし科学的には結論が出ておらず「絶対に効果がある」とは言い切れないのが現状だ。今回は、現段階でわかっているBCAA摂取の「プラス効果」「マイナス面」(潜在的なものも含む)と「摂取のガイドライン」を紹介する。
BCAAの運動前摂取の影響についての研究結果
■LTやOBLAが向上
BCAAの効果の中でもロード・レーサーにとってひじょうに興味深いのは、複数の実験で「BCAAの運動前の摂取によりLT(やOBLA*)が向上した」という結果が出ている点だろう。
*OBLA:血中乳酸濃度が4mmol/Lとなる運動強度→詳細説明(じてトレ相談室)
これは久留米大学が長距離ランナーに対して行った実験結果などで示されている(論文『長距離ランナーにおけるLTレベルの長時間運動パフォーマンスに対する分枝鎖アミノ酸摂取の影響』)。
■持久的運動のパフォーマンスにはよい影響が認められなかった
ただし注意が必要なのは、LTなどは向上したものの、持久的運動のパフォーマンスにはよい影響が認められなかった点だ。
この実験では、大学陸上競技部所属の長距離ランナーがLTレベルで自転車エルゴメーターを60分間こいだ後、OBLA水準まで強度を上げ「疲労困憊するまでの運動の持続時間」を「持久的運動のパフォーマンス」として、「BCAAを飲んだ場合と飲まなかった場合で違いがあるか」を調べている。
LTやOBLAが向上しているのであれば「疲労困憊するまでの運動の持続時間」は長くなりそうなものだが、結果は、意外なことに「BCAAを摂取した場合もしなかった場合も変わらなかった」。またLTと関わりが深い糖質や脂質の代謝にも影響は見られなかった。
■持久的パフォーマンスが改善しなかった理由として考えられること
この理由について、論文中では実験手順が大きく影響した可能性を指摘している。それ以外にも以下のような理由が考えられる。
BCAAには脳の疲労感(精神的な疲労)の原因となるセロトニンという物質の生成を抑制する効果があると考えられている。これがLTやOBLAを向上させるのに役立った可能性がある。しかしBCAAは分解されると脳の疲労感の原因となる血液中のアンモニア濃度を高めるといったマイナスの影響もある。
つまりLT~OBLAレベルまではセロトニン抑制による脳の疲労感の軽減効果が高かったのでLTなどが向上したが、OBLAでずっと運動を続けるようなきつい運動強度ではアンモニアが急増し、「セロトニン抑制のプラス効果」と「アンモニア増大のマイナス効果」が打ち消し合い、パフォーマンス向上にはつながらなかったのかも知れない。
■BCAAの摂取が持久的運動に効果があるかは明らかになっていない
『スポーツ・エルゴジェニック』には海外の調査結果が複数掲載されているが、BCAAの摂取が持久的運動に「効果があった」という結果と「効果がなかった」という結果の両方がある。BCAAのロード・レースでのパフォーマンスへの効果が明らかになるには、今しばらく時間がかかる可能性が高いといえよう。
その他期待できる効果(証明されていない点は注意)
■疲労回復が速くなる
ロード・レーサーにとって次に重要な(期待できる)効果は「運動中の筋肉の分解抑制=疲労回復が速くなる」ことだろう。
3時間以上運動を継続する場合は、全消費エネルギー中の10%程度をタンパク質から生み出すようになる。つまり運動中に筋肉が分解されることになる。しかしBCAAを飲んでいれば、BCAAがエネルギー源として利用され筋肉の分解が抑制される。実際に水泳部の強化合宿中の体重変化の調査結果では、BCAAを摂取していたグループの方が、体重の減少が少ない傾向にあった。運動中の筋肉分解が少なく済めば、当然疲労回復の速度も速くなると推測される。
■その他にも期待できる効果はあるが証明されたとはいえない
他にも「暑い環境での持久力を高める」「高強度の運動をしたあとでも免疫力を維持できる」「運動中のグリコーゲンの節約と脂肪利用の促進に効果がある」などの説がある。全体的に運動にプラスの効果があるとの説が多いが、現段階ではこれらが科学的に完全に証明されたとはいえない。
マイナスの影響として考えられること
マイナスので影響として考えられるは、前述の「脳の疲労の原因となる血液中のアンモニア濃度が上昇する」ことのほかに「他の必須アミノ酸の吸収が妨げられバランスが悪くなることで長期的に健康へ悪影響が出る可能性がある」との指摘もある(科学者やスポーツ栄養学者が指摘している)。また大量にBCAAを摂取すると腸の中に水分がたまりやすくなり、胃腸が不快になることがあることもある(1リットルに7gまでであれば安全)。
BCAA摂取のタイミングとガイドライン
このようにBCAAはその効果が必ずしも証明されたサプリとはえいえないが「効果があった」という声はよく聞く。実際に使用している人も多いだろう。それでは、どういった時期にどの程度の量をどのようなタイミングで摂取するのがよいのだろうか?
ロード・レーサーにとっては『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB) 』で紹介されている以下のガイドラインが参考になるだろう。
■BCAA摂取の効果が高いと考えられるタイミング
- 筋力強化の時期
- 「強化期間」「ピーク期間」といった高強度トレーニングを行う時期
- 長時間・高強度のレース
- 高負荷での高地トレーニング時
■BCAA摂取のガイドライン
- 1日の摂取量は、体重1kgあたり77mgを目安にする。体重68㎏であれば約5g(体重54㎏であれば約4g)となる。
- 練習やレース開始の1~2時間前に1日の摂取量の半分を飲む。同じ日の就寝1~2時間前に残りの半分を飲む。
- ステージ・レースの期間中は摂取量を2倍にし、1/3をレース前に、1/3をレース後の昼寝の1~2時間前に、1/3を就寝前に飲む。
■大塚製薬推奨の摂取方法
またAmino-Valueの製造元の大塚製薬のHPでは、以下のような摂取方法をすすめている。
「大塚製薬佐賀栄養製品研究所にて行った研究結果によると、BCAAは摂取30分後に血中濃度がピークになることを確認しました。よって、運動30分前から、運動中のこまめな摂取がポイントです。」
参考論文
- 『長距離ランナーにおけるLTレベルの長時間運動パフォーマンスに対する分枝鎖アミノ酸摂取の影響』
- 『持久運動中の血中アンモニア濃度に及ぼす分枝鎖アミノ酸(BCAA)摂取の影響』
- 『乳酸性作業閾値に及ぼす分枝鎖アミノ酸含有飲料摂取の効果』
- 『分枝鎖アミノ酸(BCAA)摂取による自覚的疲労度の変化~2週間の競泳強化合宿において~』
参考URL
- 大塚製薬・http://www.otsuka.co.jp/a-v/bcaa/practice/
- ウィキペディア:分枝鎖アミノ酸→リンク 必須アミノ酸→リンク
参考文献
- ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』・P372~373・OVERLANDER株式会社
- メルビン・ウィリアムス著, 樋口満監訳・『スポーツ・エルゴジェニック』・P167~171・大修館書店