持久系のアスリートとして知っておきたい、回復の3つのプロセス
回復のプロセスは、練習を基準にして、「練習前と練習中の回復」「練習直後の回復」「長期的な回復」の 3つの段階に分けることができます。各段階の回復計画を慎重に立てることで、回復を早め、次の練習の質を上げ、効果を高めることができるでしょう。
■練習前と練習中の回復
実質的に、回復はハードな練習やレースの前に行うウォーミング・アップから始まっています。ウォーミング・アップを入念に行えば、以下の効果により筋肉の損傷を抑えられます。
- 体液を薄めることで筋肉が収縮しやすいようにする。
- 毛細血管を広げて筋肉がたくさんの酸素を取り込めるようにする。
- 筋肉の温度を上げることで収縮しやすくする。
- 糖質を温存し、脂質を消費しやすくする。
回復のプロセスは練習中も「糖質ベースのエネルギーの補填」という形で継続します。1時間ごとに 18~ 24オンス(約 561~709ml)のスポーツ・ドリンクを飲むことでトレーニングが体に与える負荷を軽減し、エネルギー生産システムの回復に備えます。スポーツ・ドリンクにプロテイン(アミノ酸等)を混ぜると効果的であることを示す研究や、スポーツ・ドリンクにカフェインを加えることの効果を支持する研究もあります。こうした研究は、ますます盛んに行われるようになっています。
糖質系ドリンクをどれくらい飲め、消化・吸収できるかは、個人差があります。自分の味覚に合った、ハードな練習時にも胃腸に負担がかからないスポーツ・ドリンクを見つけましょう。レース前は、十分な量の好みのドリンクをボトルに入れておき、給水ポイントでも受け取れるように準備をしておきましょう。ラベルに記載された推奨濃度より濃くドリンクを作ると、特に気温が高くて蒸し暑い日の高速レースでは、レース中に脱水症状になる危険があります。スポーツ・ドリンクの効果がもっとも期待できると考えられているのは、1時間以上のレースやトレーニングです。4時間以上のレースでは、固形物も必要になる場合もあります。
ジェルをスポーツ・ドリンク代わりに飲んだり、スポーツ・ドリンクに加えたりしてもよいでしょう。ジェルと水を併用することで、実質的には腸内で混ぜ合わされて、スポーツ・ドリンクとしての作用が働きます。水の量が不十分だと、ジェルに含まれる糖分を分解するために、体液が血漿から腸に流れ込むので、脱水症状が起きやすくなります。これと同じメカニズムにより、ジェルでベタついた口の中を洗い流すには、スポーツ・ドリンクよりも水を使った方が効果的です。
回復はクール・ダウンの間も続きます。ハードなインターバル・トレーニングを行い、そのまま家の玄関に直行してベッドに倒れ込んでしまうと、回復にはかえって時間がかかってしまいます。これを避けるためには、ハードな練習の最後の 10~ 20分は、体を正常な状態に戻すためにクール・ダウンにあてるようにします。クール・ダウンはウォーミング・アップと対になるイメージですが、時間は短くし、数分間ゾーン 1で軽く足を回して終了します。
■練習後の短期的な回復
自転車を降りた後、回復を促すためにまずしなければならないことは、エネルギーとして消費した糖質とタンパク質の補給です。長時間のハードな練習やレースでは、体内に蓄えられていたグリコーゲンがほぼ枯渇し、筋内のタンパク質も数 g消費されることがあります。運動後 30分間は、体がこれらのエネルギーを吸収・補充する力が、平常時の数倍にも高まります。
この時に口にするものとしては、走行時と同じスポーツ・ドリンクでは効果が不十分なので、回復に最適なものを摂取する必要があります。リカバリー・ドリンクは、多数市販されていますが、自分の舌に合う、プロテイン(アミノ酸等)を 15~20g、単糖を 80g摂取できるものであれば、回復のニーズを満たせます。また、回復用ドリンクは自分でも簡単に作れます。砂糖大さじ 5杯を 16オンス(約 470ml)の無脂肪乳に混ぜればでき上がりです。どの飲料も、練習直後30分以内に飲み切るようにします(詳細は、16章の「回復のための食事」を参照)。
短期的回復は、直前の練習やレースと同じ長さの時間、継続します。レースが 3時間であれば、自転車を降りてからの 3時間、短期的回復が継続します。最初の 30分が過ぎたら、GI値が中程度~高の食物、たとえば、パン、パスタ、米、ジャガイモ、バナナ、アプリコットを適量のタンパク質と一緒に摂るようにします。短期的回復段階の後は、ビタミンやミネラルが豊富で GI値の低い食物に戻します。長期的回復には、野菜、果物、魚や鶏肉など脂肪分の少ない肉がもっとも効果的です(GI値と栄養価の高い食物についての詳細は、16章を参照)。
◇熱いシャワーと入浴
クール・ダウンして回復用ドリンクを飲んだ後は、10~ 15分間、熱いシャワーを浴びるかバスタブに浸かりましょう。脱水症状が進むことがあるので、特にバスタブに浸かる時は長くならないように気をつけます。
◇氷風呂(アイス・バス)
クール・ダウンの後、バスタブの半分に冷水を入れます。さらに氷を多めに入れて、バスタブに 7~ 10分間浸かります。脚は、完全に水に浸すようにします(これは、あなたの練習の中でいちばん辛いものになるかも知れません!)。氷がなければ、同じ時間をかけて、熱いシャワーと冷たいシャワーを交互に浴びてもよいでしょう。
■長期的回復
BT練習やレースの後の 6~ 9時間は、回復を促進するための何らかのテクニックを、少なくとも 1つは活用した方がよいでしょう。これは、ステージ・レースの期間中には特に重要です。翌日以降のステージのパフォーマンスや、完走できるかどうかにも大きく影響します。
もっとも基本的なテクニックは、たっぷり睡眠をとることです。昼寝ほど回復に役立つものはありません。練習後に 30~ 60分仮眠をとり、夜は毎日 7~ 9時間の睡眠をとりましょう。他の回復テクニックについては、個人によって合う合わないがあります。いくつか試してみて、自分にいちばん合った方法を見つけてください。
これらのテクニックの基本となるのは、「心拍数を少し上げる」「筋肉への血流をよくする」「栄養素の吸収率を上げる」「痛みを和らげる」「血圧を下げる」「神経系をリラックスさせる」ことなどによる、回復の促進です。<了>■
- 記事出典:ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』※(OVERLANDER株式会社)・P404~405の抜粋
※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。