パワー・メーターをカロリー・コントロールに活用する
少し意外な使い方と思えるかも知れませんが、パワー・メーターは「カロリー・コントロール」にも活用できます。
仕事量とは
心拍計などでは「カロリーの推計値」がダイレクトに出ますが、パワー・メーターでは「仕事量」が表示されます。「仕事量」ということばは少しわかりにくいかも知れませんが、自転車で走っている間にどれだけの「力」をかけてどれだけの「距離」を動いたかを表したもので、単位はkj(キロ・ジュール)です。
結論をいってしまうと、じつはこの仕事量(kj)の数字が消費カロリー(kcal)とほぼ同じになります。ですから、練習やレース中の仕事量(kj)をチェックすれば、「どれだけカロリーを消費したのでどれだけカロリーを摂取しないといけないか」ということが判断できます。
人間は熱効率が悪いので 1kcal=1kjで換算できる
科学に詳しい方は以下のような疑問をもたれるかも知れません。
「でも科学上の正確な定義は 1kcal = 4.184kj だよね。例えば1,000kcalは 1,000kcal × 4.184 =4,184kj のはずなので全然数字が違うじゃないか」
これには理由があります。
人間は仕事をするために消費したエネルギーの大部分を「熱」として発散してしまいます。ひらたくいえば「熱効率が悪い」のです。もっとも鍛え抜かれた選手でも、なんと75~80%もの割合で消費したエネルギーを熱として発散しているといわれています。残りのわずか20~25%(1/5~1/4)だけが自転車を前に進めるための推進力として使われている(つまり仕事量としてパワー・メーターに表示される)というわけです。
この熱効率には遺伝的なものも含めて個人差が大きく、トレーニングの負荷や周囲の環境などによっても大きく変化するので、通常は簡便法として25%(1/4)が使われます。つまり仕事量 1,000kj とパワー・メーターに表示された場合の「本当の仕事量」は、その4倍程度の4,000kj と推定されます(1,000kj × 4倍 = 4,000kj)。4,000kjを先ほどの科学上の定義にもとづいてカロリーに換算すると、約1,000kcalになります(4,000kj ÷ 4.184 = 956.02kcal ≒ 1,000kcal)。ごちゃごちゃと計算しましたが、最終的には1,000kj ≒ 1,000kcal といずれの数値もほぼ等しくなりました。
こういった理由でパワー・メーターが表示する仕事量(kj)は、そのままカロリー消費量(kcal)と置きかえてもそれなりに正確だといえるわけです。
ダイエットへの活用方法
ダイエットに活かしたいのであれば、基礎代謝に仕事量を加えた数字に対して、1日摂取するカロリー量を -200~300kcal 程度に収めておけば、理屈上は1ヶ月約 -1㎏ のペースで体重を落とすことができます。
例えば基礎代謝が1,700kcalで練習の仕事量が2,000kjであった場合を考えてみましょう。この場合は、1,700 + 2,000 = 3,700 から200~300引いた3,400~3,500kcalを目安に1日の総カロリー摂取量を調整すればムリのないペースでのダイエット効果が期待できます。
補給食や運動後の食事のカロリー計算への活用方法
またレースや練習中の補給食や運動後に摂取すべきカロリー量を適切にコントロールするのにも使えます。
身体の筋肉や肝臓の中にはグリコーゲンというエネルギー源が約2,000kcal程度あるので、1時間程度の運動ではエネルギー切れになることはまずありません。しかし1時間以上のレースや練習になると、高いパフォーマンスを維持するためには、運動中に炭水化物の摂取が必要になります。
例えばその日の練習予定がハードで4,000kcal程度消費すると予想される場合を考えてみましょう。
運動開始の4時間前に約1,000kcal(推奨値は体重1㎏あたり4g 例:65㎏×4g×4kcal=1,040kcal≒1,000kcal 炭水化物は1gあたり約4kcal)の炭水化物を摂取したとします。この大部分は運動中に消費しその分、筋グリコーゲンの消費を押さえることにつながります。
運動中摂取した炭水化物の内、運動中に使えるのは1時間あたり30~60g(120~240kcal)が限界
走行中の補給ですが、研究によると運動中摂取した炭水化物の内、実際に運動中のエネルギーとして使えるのは「1時間あたり30~60g(120~240kcal)が限界」と言われています。そこで、これらの数字を参考にして15分間に1回程度補給食を摂ります。6時間合計で摂取カロリー量は合計で720~1,440kcalになるかと思います。
この場合走行時の消費カロリー4,000kcalに対して運動前と最中の摂取カロリーが1,720~2,440kcalなので、不足分は1,560~2,280kcalになります。この不足分は筋グリコーゲンや脂肪がエネルギー源になったと思われます。運動後速やかに筋グリコーゲン回復させるためには、この不足分のカロリーを適正なペースで摂取するとよいでしょう。
このように仕事量を目安にして、高い精度でカロリー・コントロールしできる点もパワー・メーター使用の大きなメリットのひとつといえます。
参考文献
- メルビン・ウィリアムス著, 樋口満監訳・『スポーツ・エルゴジェニック』・P183, 184・大修館書店
- Chris Carmichael AND Jim Rutberg共著・『The Time-Crunched Cyclist』・P101~P102・Velopress