TABATAを実施するさいのパワーはFTPの何%で行うのがよいでしょうか?
先日の大阪セミナーでは多数の方にご参加頂きありがとうございました。
同セミナーの参加者の方から興味深いご質問を頂きましたので、シェアしてみたいと思います。
Q1. TABATAを実施するさいのパワーはFTPの何%で行うのがよいでしょうか?
A. PCGでは最初から全開!とペーシングの2種類の強度設定をお勧めします。
詳細回答の前に少しHIITについて説明させて頂きます。
■TABATA(HIIT)について
TABATAを含むHIIT(High Intensity Interval Training)はエフォートとレストの時間比率を2:1以下にする高強度のインターバルトレーニングです。
・HIIT
例:(20秒ON / 10秒OFF)x 8 =4分のTABATA
(40秒ON / 20秒OFF)x 10 =10分のAC HIIT
・Classic
クラシックなインターバルはエフォート:レスト=1:1~3とエフォートとレストが同じ or レストの方を長く設定します。
例:(3分ON / 3分OFF)x 3 = 15分のVO2maxインターバル
(2分ON / 4分OFF)x 5 = 26分のACインターバル
パワートレーニングの観点から言うと、HIITは心肺機能にはVO2max(HR Z5, RPE 6-7)の負荷をかけつつパワーはAnaerobic Capacity(Power Z6 121-150%, HR Z6, RPE >7)の強度でトレーニングする手法です。
クラシックは心肺機能・パワーともにターゲットのパワーゾーンを狙い撃ちして能力を伸ばす手法です。
HIITは高強度トレーニングを短時間で行えるメリットやレースでのパワー特性に近く、よりレースに即したトレーニングができると言われています。
クラシックはターゲットのパワーゾーンに居る時間が長い為、よりフォーカスしたトレーニングができると言われています。
■実現可能な強度について
TABATAに限らずHIITについては、FTPをベースにすると実行できる強度は個人差が大きいです。
TABATAの場合、ある人は20秒ONの強度が170%以上を維持でき、ある人は150%以下かもしれません。
そのため、それぞれの選手について強度設定/目標は変わってきます。
全体的に見て、トラック中距離、クリテ、短いロードレース、MTB XCO, CXの選手はこういったトレーニングは得意です(>170% of FTPが可能)。
一方、長いロードレース、ヒルクライマー、TTer は競技特性やFTPの高さからFTPに対してあまり高い強度は出ません。(160% of FTP程度になる)
■TABATA(HIIT)の実行方法について
TABATAの実行方法そのものについては2つの考え方があります。
・方法1. 最初から全開!どれだけタレても完遂!!
酸素負債を抱えれば抱えるほど効果があるという考え方。
これはTABATA本来のコンセプトで、無酸素を重ねていっても時間の経過により有酸素の部分が出てくるので無酸素/有酸素両方に効果が得られるというものです。ペーシングはいっさい考えずとにかく最初から全開=酸素負債を最大にする走りが要求されます。
【「方法1. 最初から全開!」の実例】
黄色の実線がパワー、黄色の点線がFTP、ピンクが160% of FTP、緑が170% of FTP.
・方法2. FTPの160-170%を繰り返す
最後まで強度を下げない方が効果があるという考え方。
「方法1. 最初から全開!」を行った場合、人によっては最後の方は酸欠でFTPさえ出ない事もしばしばです。
パワーベースで考えた場合、FTPさえ出てない強度になってしまうよりも、エフォート全体(TABATAなら4分)で大きなエネルギーを取り出した方が効果的との考え方から、ある程度ペーシングする方法です。
FTP以下の強度になると、あくまで筋肉にかかっている負荷はFTP以下なので、それよりも高いパワーを維持した方が良いという考え方です。
ちなみに160-170%の強度設定は、多くの人がここに収まるためです。可能なら170%以上にするべきですし、難しければ160%以下でも構わないです。
【「方法2. FTPの160-170%を繰り返す」の実例】
黄色の実線がパワー、黄色の点線がFTP、ピンクが160% of FTP、緑が170% of FTP.
■どちらを行うべきか?
実は、パワーの世界でもHIITに関して明確な答えがまだ見つかっていません。これは、HIITが比較的最近登場したことと、個人差が大きい為に長期的な研究結果がまだないことがその理由です。そのため、これといったガイドラインはありません。
PCGでは以下のように場合(状況)に応じて、前記の二つを組み合わせています。
・「方法1. 最初から全開!」を採用する場合
レースが近い、限界まで追い込みたい、負荷をかけたい場合。
例:トレーニング時間がなくその日のトレーニングがTABATAのみの場合など
・「方法2. FTPの160-170%を繰り返す」を採用する場合
HIITの経験が浅い、足ができていない、いったん他の方法で追い込んだ後に仕上げで行う場合。
例: 初めてTABATAにチャレンジする、本番のレースまで時間がある、トレーニングの仕上げに行う場合など
■経験則
私のクライアントさんを見てきた印象では、「方法1. 最初から全開!」を行った方が仕上がりは比較的早く、「方法2. FTPの160-170%を繰り返す」を行った方が長期的な向上が見られるように感じられます。
理由としては「方法1. 最初から全開!」は、より高強度な為、体が高強度に対して開発されやすい。
「方法2. FTPの160-170%を繰り返す」の方がターゲットに居る時間が長いので、長期的な向上を見込める。といったところでしょうか?
このあたりはあくまでレースに向けたトレーニングをする中で、他のワークアウトも組み合わせており、TABATAの効果だけを追ったわけではないので、もう少し専門的にデータを集めないと断言はできません。
あくまでこれまでの印象です。
■最も重要なこと
確実に言えることは、どちらの方法を行うにしても限界まで追い込まなくてはならないということです。
「方法1. 最初から全開!」では2本目からすでに足がもつれそうになりますが、それでもモガキ倒す必要があります。
「方法2. FTPの160-170%を繰り返す」ではペーシングするといっても低い強度でペース走を行ってはトレーニング効果は薄くなります。
維持できる限界で繰り返すことが必要です。
またHIITは調子を上げてくれる分、ダメージも大きいので、行うタイミングを選ぶのも大切です。
レースから遠く離れた時期に行っても、あまり意味がないばかりか、ピーキングを考えると害になりかねません。
この先、研究が進み方法1 or 2のみを行った方がいいのか、もしくは方法1と2の最適な組み合わせがわかる日が来るかもしれません(もし研究機関でこのようなデータをお持ちの方はご連絡お願いします!)。
前記を参考にして皆様もご自身を実験室にいろいろと研究を重ねて頂ければと思います。
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■寄稿者:中田尚志コーチ(Peaks Coaching Group Japan)
Peaks Coaching Group Japan 代表。Peaks Coaching Group エリートレベル認定コーチ。2013年全米自転車競技連盟パワートレーニングセミナーを修了。2015年にトレーニングピークスユニバーシティを受講し、最先端のパワートレーニングを学ぶ。現在までに15,000以上のパワーデータを解析。2016年から京都を拠点に、パワーベースのコーチングを日本で展開する。自身も日本・アメリカでレース経験を持つレーサーでもある。コーチングの無料相談はこちら(→リンク)。